奪還作戦 後編(3 / 5)
まず、俺の前に飛び出してきたのは2体の魔族。
「ひゃ──はぁぁぁッ!」
「血を……吸わせろ……!」
両手にハサミを持つピエロのような恰好をした男と、2mはあるだろう鎌を振りかぶった男だ。
……コイツらの実力が幹部に近しい、とさっきヴルバトラは言ったか? ……ふむ、だけど何も問題は無いように思えるな。
「よっ──と」
カウンターの要領で思いっきり蹴りを入れるとピエロ男の顔面が爆ぜる。飛び散った肉片が目に入ったらしく鎌男が一瞬目をつむった。その隙にザシュッ、と。首を刎ねる。
2体とも、糸が千切れた操り人形のように地面へと沈んだ。
──残り、5体。
「くっ──調子に乗りなんしっ! あたくしの【粘着糸】に囚われるがいいでありんすっ!」
「我が岩に圧し潰されるがいいッ!」
「俺の拳は──あらゆるものを粉みじんの【砂】に変える一撃ッ! セイヤァァァ!」
立て続けに3体の魔族。糸、岩、拳が俺めがけて飛んでくる。避けて、その攻撃をしてきた者たちを斬る。
──残り、2体。
「オデ、強イ! オデ、魔王軍ノ幹部候ホ──」
なにか突進してきたモノの何かを斬ったら死んだ。
──残り、1体。
「まあっ!? まあまあまあぁぁぁっ!?」
最後の1体となった黒いローブを羽織った魔術師らしき魔族は、何やら錯乱したように『まあまあ』と叫び続けている。
「うーん……どうもしっくりこないな……」
さっきヴルバトラはこいつらを【幹部級】だとか言っていたけど……本当か?
「さっきオグロームの外で戦った幹部っぽいやつとは比べ物にならないくらいの力量差なんだが……」
「まあまあまあ!!! いったいなんで……まあ、あり得ないッ! あり得ませんよこんなことぉぉぉッ!!!」
黒ローブの魔族は自身へと何重にもシールドのようなものを張る、が。
「イオリテのゴッドシールドの方が数十倍性能が良さそうだな」
「まあ──ッ!?」
俺はそのシールドごと、黒ローブの魔族を横に斬り裂いた。
──残り、0体。殲滅完了だ。
「うむ……やっぱり、マヌゥの力ってとんでもないな」
『えへへぇ、そうですかぁ? でも、私の生命エネルギーを使いこなせるテツトさんの腕前があってこそなのですよぉ』
「いやいや、俺程度の実力者なんて他にもゴロゴロいるよ」
そんな会話をマヌゥと脳内でしていると、ヒュンッ! と俺めがけて空を飛ぶ影がひとつ。敵……ではないか。
「ゼェ、ゼェ……ちょいとテツト、お主速すぎなんじゃがっ!?」
俺に遅れること数分、息を荒くしたイオリテがやってきていた。オグロームに近づくにつれてモンスターが居なくなり全速力を出すことができるようになった俺は、いち早くヴルバトラの元へと駆けつけるためにイオリテを置き去りにしてしまったのだ。
「お、お主はなぁ……! さっき我に『ひとりで行ったら危ない』とか言ってたのはどこのどいつじゃっ!」
「どいつだっけ?」
「お主じゃっ!!!」
イオリテの全霊のツッコミに、俺は唇を人差し指に当てて制する。
「漫才はもう少し後にしよう。戦いはまだ終わってないんだから」
「漫才なんぞしとらんっ!!!」
憤慨するイオリテを尻目に、俺はとある建物の上で激しい
「……で、加勢はしてやらんのか、テツト」
「やめとくよ。ヴルバトラは強いから」
1対1であれば幹部にも遅れは取らないと言っていたあの言葉通り、ヴルバトラが剣を振るうたびに後退していくのはワーモング・デュラハンの方だ。
……俺がそこに加勢に加われば決着はさらに確かになるのだろう。
「俺は、何にでも助けに入るのが戦友、ってわけではないと思うんだ」
「フーン……よく分からんな。剣士のプライドか?」
「いや、仲間へのリスペクトかな」
時には仲間を信頼して任せるということも必要だと思う。それで、本当にヤバそうになったら助けに入ればいいわけだし。
……まあ、必要なさそうだけど。
「──ハァッ!」
「グッ……!」
ヴルバトラが手にする白く輝く剣が、ワーモング・デュラハンの6本ある腕の1本を斬り落とす。
「おのレ……幹部候補共の加勢はまだカ──なニッ!?」
ワーモング・デュラハンの3つの頭のうちのひとつが俺の方へと愕然とした表情を向けた。
「まさカ……全員やられたのカッ!?」
「え? ああ、うん」
「馬鹿ナッ!? あり得ン、ヤツらは腐っても魔王様が『そうあれ』と命ジ、強く生まれた者たち──」
ワーモング・デュラハンの3つの頭すべてが俺の方を見て食ってかかってこようとする、が。
「──よそ見をしている余裕を与えた覚えはないぞ、デュラハンッ!」
ヴルバトラの持つ愛剣ルナティックが瞬いた。輝かしい半月を描くような一撃が、ワーモング・デュラハンの3本の腕を巻き込んで、その体へと深い傷を作る。
「グァ──ッ!」
「勝負は着いたようだな……!」
地に膝を着いたワーモング・デュラハンは悔しげに表情を歪ませて、しかし。
「──ク、クックック……そうだな勇者ヨ、この勝負、貴様の勝ちダ……だがナッ!」
「ッ!?」
一瞬にして、ワーモング・デュラハンの体が黒いオーラに覆われる。それは俺の先ほどの戦いにおいて、ドグマルフズとかいう滅茶苦茶強かった魔族が使っていた攻撃と同じようなものに思えたが……それはどこか、攻撃とは様子が異なった。
「魔力が、暴走しているッ……? まさかっ、自爆かっ!?」
「如何にモ」
ヴルバトラの問いにニヤリとして答えたかと覆うと、ワーモング・デュラハンの黒いオーラはその体の中心へと集束していき──高密度のエネルギー体となった。
「オグロームを貴様らに明け渡すくらいなラ……この場で貴様もろとも全てを吹き飛ばしてやルッ!」
「クッ……
「クハハハッ! このまま俺の道連れとなレ、勇者ヴルバトラ! そして名もなき男の剣士ヨ!」
ワーモング・デュラハンの体に亀裂が入る。
「ヴルバトラ! なにか俺にできることはないかっ!?」
「──大丈夫だ、テツト。私に任せておけ。作戦前に言っただろう? 奥の手がある、と」
ヴルバトラはそう言うと剣で自らの手のひらに傷を作り、血の滴る手を胸の前で握った。
「受け取れ、我が血潮。そして契約の元、私にすべての力を与えろ──
愛剣ルナティックへと光の粒子を
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