奪還作戦 前編(5 / 7)

「ずおりゃぁぁぁぁぁあああっ!!!」


俺は地上を駆け抜ける。魔王軍のモンスターたちがそんな俺に気が付いて攻撃を仕掛けてくるが、邪魔するヤツらはすべてマヌゥの力で生み出したこの両手の剣で斬り倒す。


「わっはっはぁっ! どくのじゃどくのじゃぁぁぁあっ!」


空を飛びながら、俺の前を行くのはイオリテ。その規格外の威力を誇るビーム魔術【ゴッドバースト】で俺の道を作るようにモンスターたちを吹き飛ばしてくれるので、かなり速く移動ができていた。


……とはいえ、


「ちょっと、イオリテっ! 速すぎるって!」


イオリテがひとりでかなり先行し過ぎている。空を飛ぶ系統のモンスターが少なく、ほとんど障害なく進めてしまうがゆえに俺との距離が開いていた。


「お主が遅いんじゃ! もっと速く走れんのか!」


「これでも最大速度だって──ば!」


左右から押し寄せて障害になってくるモンスターたちを両断しつつ、俺はさらに駆ける脚へと力を込める。


「イオリテさぁ、そのゴッドフライで俺も宙に浮かせられないのっ?」


「無理じゃな。これは我専用の身体強化魔術ゆえ」


「えぇ……痒いところに手が届かない魔術だなぁ」


「おま……この女神イオリテ様の誇るゴッド魔術に対して罰当たりなことをぬかしおって。ホントに置いていってしまうぞ?」


「あっ、ちょっと!」


イオリテは本当にひとりで先に行ってしまう。俺はモンスターを倒しながらでしか進めないので、距離差は開く一方だ。


「フフーンなのじゃ。もう我がひとりで先にオグロームに行って、幹部とやらも倒して、手柄を独り占めにしてやるわ」


「いや、ひとりじゃ危ないから!」


「数にモノを言わせているだけの軍勢なんぞちょちょいのちょいなのじゃっ! これで天界に帰ったあとの女神就活はいただきなのじゃあっ!!!」


「女神って就活でなるものなのっ!?」


「わははは! どけどけぇい! モンスター共、我が女神へと返り咲くいしずえとなるのじゃー!」


チュドーン、チュドーンとリズム良くビーム魔術が地上へとさく裂する音を響かせながら、イオリテはどんどんと進んでいく。


「──んっ? なんじゃ? ほほぅ、強そうなのがおるなぁ……」


しばらくすると、イオリテの舌なめずりさえしていそうなほどの上機嫌な声が聞こえてきた。


「さてはアレじゃな、お主、この軍のボスじゃな? よぉーし、ならばお主を潰して終わりじゃー!」


とびきり大きく神々しい光の塊が、イオリテの魔術杖へと集まる。


「フハハハ! この技を受けて散るがよいッ! ゴッドバァァァストッ!」


その魔術ビームが地上へと向けて放たれて──しかし。


「……アレ?」


宙に浮いたイオリテは首を傾げていた。


「なんで死んどらんのじゃ……?」


イオリテの発した問い。その答えは明白だった。


──ズオンッ!


黒いオーラのようなものが周囲一帯に円状に広がり、遠く離れていた俺や空に浮かぶイオリテまでをも包み込んだかと思うと、突如として【強力な圧】がかかる。


「ぐッ……!?」


「へぶッ……!?」


俺は耐えられたが、しかし周りにいたモンスターたちはすべて圧し潰されてペシャンコだ。浮遊魔術で浮いていたイオリテも墜とされたらしく、地面にへばりついている……無事そうではあったけど顔面を泥だらけにしていた。


「──この幼女、なかなか威力のある攻撃してきたが……超級というほどでもないな。別のヤツか?」


そのオーラの中心点で唯一立っている者がいた。男だ。しかし、人間とは明らかに異質な雰囲気を放っている……おそらくはオーラを放った張本人。


「あるいは……貴様か?」


「ッ!!!」


男が視線を俺に固定する。その瞬間に分かった。


……コイツ、めちゃくちゃ強い!


「テ、テツトぉぉぉっ!!! ア、アイツ、ヤバいのじゃあっ! 死ぬかと思ったのじゃあっ! というかゴッドバリアが無ければ我、死んでおったっ!」


ヒュン、と。いつの間にか俺の隣へとテレポート(ゴッドテレポート)してきたイオリテが泣きついてくる。


「だからひとりで行ったら危ないって言ったのに……」


「うぅ……女神の座がぁ……」


「とりあえずイオリテは下がっててくれ。コイツは俺がやる」


両手の剣を構える。敵の男は不敵に微笑むと──姿を消した。


……いや、違う!


「そこかッ!」


間一髪、マヌゥとの融合で研ぎ澄まされた俺の感覚がソレを捉える。


ガキンっ! と、俺は真横に迫っていたかぎ爪のような鋭利な武器による攻撃を剣で受け止める。


「ほう? データには無かったが、貴様もなかなかの手練れのようだ……。ここ数カ月の間に帝国ではいったい何が起こったというのだ?」


「クッ……!」


男は余裕然とした様子で話ながら、しかし凄まじい速度の攻撃の手を緩めない。


「テ、テツトッ!」


「イオリテッ! もっと下がってろ!」


男のかぎ爪の攻撃と俺の剣の防御は音速を優に超えていた。武器が交わされるたびに衝撃波が発生し、周りの大地をえぐっていく。


「まだ足りないか……! マヌゥ!」


『はいぃっ! 生命エネルギーをもっと供給するのですぅっ!』


直後、急速に力が満ちていく。俺の体から、光の粒子が立ち昇った。


「──ッ! その光、力……! 貴様も勇者と同じ、【精霊使い】かッ!」


「はぁぁぁッ!」


俺は大振り・高速の一撃によって男のかぎ爪を砕き、その体を吹き飛ばした。

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