奪還作戦 前編(4 / 7)

──午前1時を回った深夜。


俺たちがいるのは帝都に築かれた防衛線から10キロ近く離れた場所、オグロームから見て東の郊外に身を潜めていた。モンスターの数は少なかったので、静かに掃討して作戦決行の合図を待っていた。


「……結局、あれからヴルバトラには会えなかったな……」


作戦の都合上、ヴルバトラは迂回してオグロームに向かう必要があったため、先に帝都を発ってしまっていた。俺たちはそれから間隔をあけて出発し、今はオグローム正面に集結している魔王軍のモンスターたちを郊外へと誘導する準備を整えていた。


「……遠目で見るに、なんだかモンスターの数が聞いていたよりも多くありませんか?」


「昨日の段階では確か、1万の軍勢が居るって言われてたけど……」


「3万、いえ……この規模が東西を埋め尽くすほどに居るのだとすれば5万はいるのでは……?」


ジャンヌの言葉に、俺は腕組みして考える。


……あまりにも昼に帝都で聞いた話とは状況が食い違っているし、作戦の前提が崩れかけている気がする。


元々の作戦の詳細はこうだ。


まず1段階目、【1万の魔王軍に対して東西から奇襲】。東は俺たちの担当で、西は他の冒険者たち+ヴルバトラ親衛隊+帝国選抜の騎士たちだ。


そして2段階目、【郊外への魔王軍の誘導】。これによってオグローム市街へと魔王軍のモンスターたちが流れ込まないようにする。


最後に3段階目、【魔王軍の殲滅】。郊外で待機している帝国兵たちと協力して分散した魔王軍を迎え撃つ。


「これは魔王軍が1万なら、っていうのが前提だ。もし5万なんて数が郊外に流れ込んで来たら……!」


「待機している帝国兵たちの、壊滅的な被害は免れぬじゃろうな……」


俺の言葉の後を継いだイオリテに、みんなが頷いた。


「ご主人、どうする? ボク、ひとっ走りエラい人のところまで行って伝えてこようか?」


「……そうだな、それがいいかもしれない。ただ、なにより優先すべきはヴルバトラの方だ。外がこんな状況なのに、ひとりで中に潜入してしまったら……いくらヴルバトラだって絶体絶命だ」


だからベストはシバとジャンヌがヴルバトラを止めに行き、それから他の面々にも作戦の中止を伝えること。


──だったのだが、


「なっ……!?」


突如として、魔王軍がその足を動かし始めた。


「あの軍勢、オグロームの守りを固めていたんじゃなかったのか……!?」


「テツト様、魔王軍が向かう方向……帝都ですっ!」


「じゃあこれは、まさか……進軍っ!?」


それは、およそ考えられる限りで最悪の展開だった。


今、帝都の防御は極端に薄くなっている。今回の奇襲のために多くの兵をオグローム郊外へと割いているためだ……ゆえに、魔王軍にとっては帝都を一気に攻め落とす最大のチャンス。


「こちらの作戦が漏れていた……? いや、違うっ! 今はそんなことを考えてる場合じゃない! 魔王軍を止めなきゃ、帝都が堕とされる!」


「テツト、どうするつもりじゃっ?」


「今この状況に気が付いているヤツらでどうにかするしかない。俺たちで魔王軍を撃滅とヴルバトラの救助をしよう」


コクリ、と。みんなが一様に頷いた。


「シバとジャンヌはできるだけ広範囲を移動して帝都に向かう敵を蹴散らしつつ、帝国兵たちに俺たちの知った情報の共有と、それに負傷者の治療を頼む」


「うんっ! ご主人、ボクたちに任せてっ!」


「テツト様の御命令とあらば、何を捨て置いても遂行いたしますとも!」


脚の速いシバと味方への回復・復活を撒けるジャンヌの組み合わせは戦場において最強級の切り札だ。このコンビが機能するだけで帝国兵たちに負けは無い、とさえ言い切れる。


「次に俺とマヌゥ、それにイオリテはこれから魔王軍を突っ切ってオグロームへと向かう! 帝国の上の連中の意向なんざもう知らんっ! オグロームが壊滅状態になろうとも、ヴルバトラを先に救出しにいく!」


『はいぃっ! お任せなのですぅ~!』


「ふふんっ! この天才女神の力をとくと見せてやるのじゃっ!」


俺(マヌゥ融合中)とイオリテは、瞬間最大火力高めで敵の軍勢を突っ切るのには最適のコンビだ。イオリテの【ゴッドバースト】で道をひらき、それでは倒し切れなかったモンスターは俺の攻撃で排除しながら駆け抜けていく作戦で行こうと思う。


「最後にロジャ。ロジャにはひとり、帝都に向かう魔王軍の足止めをお願いしたい」


「……足止め? 戦っちゃ、ダメ?」シュン…


「いや、そんなまさか。戦ってくれ、ロジャ。しかも今回ばかりは手加減無しでいい。魔王軍総勢約5万の正面から、全員消し飛ばすくらいの本気を見せてやってくれ」


「……! 分かった……!」コクコクッ!


ロジャは目を輝かせて頷いた。


……ぶっちゃけ、1番危険な役目ではある。場合によってはたったひとりで魔王軍数万を相手取らなきゃいけないわけだから。とはいえ……【数万程度】にロジャが敗ける想像もできない。


「……よしっ、じゃあみんな! 武運を祈るっ!」


「「「「おぉー!」」」」


俺たちはそうして散開した。

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