3章 俺は俺のモテるこの世界を死守したいのである!
奪還作戦 前編(1 / 7)
帝都、宮廷へと到着すると、俺は顔パスも同然に作戦室まで案内される。
「おお、来てくれたか、テツト」
そこではすでに作戦について他の高官と話し合っていたらしいヴルバトラがいて、声を一段高くさせて喜ばしげに俺たちを出迎えてくれた。どうやら、俺たちが来ることはあらかじめヴルバトラが根回ししてくれていたみたいだ。
「……チッ」
……まあ、俺の到着を快く思っていない輩も一部いるみたいだが。
ヴルバトラ親衛隊隊長フェルマック、コイツは相変わらず俺のことを敵視しているようだ。
「しかし、それにしても招集が下るのが早かったな? 俺はてっきりもう少し作戦までは日にちが空くものかと」
「ああ、事態が急変してしまってな……。実は、本作戦に参加予定だったクロガネイバラが何者かの襲撃にあって壊滅した」
「──えっ!?」
俺とシバたちは互いに顔を見合わせた。みんな、驚きの表情を隠せない。それもそのはず、クロガネイバラは帝国最強のSランク冒険者チームなのだから。
「いったい、なんで……!」
「理由はまだ判明していない。クロガネイバラのほとんどのメンバーが数日前から
「それでっ……ベルーナさんは……!?」
「彼女に関しては案ずるな。重傷を負っていたものの、命に別状はないらしい。しかしまだ意識は戻っておらず、クロガネイバラの他のチームメンバーも見つかっていない……もちろん
「ネ、ネオンさんまで……!」
ネオンはクロガネイバラの中でも別格の強さを誇る天才魔術師だったハズ。その彼女まで連絡が取れないっていうのは……
「……相当な手練れが実行犯、ってことだな。襲撃者の目星は?」
「まだハッキリとは分からない。魔王軍の幹部による奇襲かもしれないし……この帝国内にもそれが可能な者がいる。
ヴルバトラの言葉に、室内の視線がジャンヌへと集中する。
「……はい、存じております。その者は……私たちエルフの長を自称する者であり、私に呪いをかけた張本人です」
「フン──キサマらが手引きしたんじゃあないのか?」
唐突に、フェルマックが吐き捨てるような口調で言った。
「エルフやそれを従える男なんぞ、信用できたものじゃない。冒険者テツトよ、貴様がクロガネイバラから帝国最強の座を奪うために裏で動いていたってなんら不思議は──」
「くだらん嫌味はよせ、フェルマック」
ヴルバトラが冷たく
「テツトたちが潔白であることはすでに証明されている。フェデラ高原に残ったのはクロガネイバラのメンバー本人たちの意志であったし、テツトたちが城塞都市イースへと向かったのも周知の事実だ」
「で、ですがね……もしかしたら、何らかの工作をしたのかもしれないではありませんか」
「テツトたちのためにジルアラドが動く意味が無い。だいいちクロガネイバラを追いやったところで帝国が窮地に陥るだけだし、テツトたちにとってもメリットは皆無といっていい」
「ヴルバトラ様は人が良すぎるから、人を信じすぎるのです。こんな庶民の出の者が考えることなど、我々がとうてい考えもつかない、
「いい加減にしろ」
「う……!」
ヴルバトラの鋭い眼光がフェルマックを貫いた。
「これ以上私の友人を侮辱するなら、いくら貴殿に伯爵家という後ろ盾があろうとも容赦はせんぞ?」
「くっ……」
フェルマックは渋々とした表情で、俺たちを最後に一度にらみつけるとようやく黙った。
「……身内がすまない、テツト」
「いや、庇ってくれてありがとう。それにしても……ジルアラド、か」
名前を聞いたのは初めてだった。ジャンヌに呪いをかけた相手……。
「……ッ」
気付けば拳に力が入っていた。……ジャンヌを脅かしたこと、その報いはきっといつか受けてもらう。それほど強い相手なら、これからどこかで戦うことがあるはずだ。
「……さて、話を戻そう」
ヴルバトラが咳ばらいをする。
「今回の急な招集の理由だが……我々は謎の者からの襲撃によって、何らかの形でクロガネイバラから魔王軍へと作戦の情報が漏れた可能性があると判断した。ゆえに、向こうが迎撃の準備を整える前に作戦を決行する必要がある」
「情報が漏れているのにか? それってかなり危険だぞ。飛んで火に入る夏の虫ってやつになるんじゃ……」
「だとしても、帝国にとってそれ以外の道は無い」
ヴルバトラは言い切った。
「テツトを始めとした戦争帰りの冒険者たちの活躍によって、滅びの危機に瀕していた帝国の町々は救われつつあるが……しかし、それは一刻のもの。再び魔王軍の侵略が再開されれば今以上の窮地に陥るだろう。ゆえに、我々はその前に……最低限、先の戦争で魔王軍に奪われた最北端の街、【オグローム】だけは取り返さねばならない」
オグローム──そこは帝国がかつて、魔王軍との戦争で最終防衛ラインとしていた街の名で、帝国にとっては隣国にも繋がる物流の要所のひとつでもあった。今は魔王軍幹部、【ワーモング・デュラハン】によって支配されてしまっている。
「……分かった。仕方のないこと、なんだな?」
「ああ、その通りだ。帝国の未来のためにも……どうか頼む」
「やめろよ、『頼む』なんてさ」
頭を下げようとするヴルバトラを、俺は押し留めた。
「俺たちは同じ目的の元に戦う戦友だろ? これまでも、これからも」
「……ありがとう、テツト」
フッとヴルバトラが柔らかく微笑んだ。普段勇者としての役目に覆い隠されるようにして見えない、女性としての華やかさがこぼれ出るようだった。
「貴君と友人になれて、本当に良かった」
「そりゃお互い様だよ」
俺とヴルバトラはふたり、拳を軽く突き合わせる。
「……では、さっそく作戦の説明をしよう。元々の作戦の概要としては【少数精鋭のチームでオグロームに乗り込み、孤立無援の状況を作った上でワーモング・デュラハンを私が討ち取る】というシンプルなものだったが……少し変更がある」
「変更?」
「ああ。テツトたちと親衛隊の面々、それに他の冒険者たちはオグロームへとは乗り込まず、近郊へと集結し始めている魔王軍と思しきモンスターの群団を撃滅してほしい。派手にな」
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