これにて2章が終わりなのじゃ

イースに滞在して3日が経った。


俺たちは2日目にはイース外壁周囲のモンスターを殲滅し尽くして、いまはモンスターたちの襲撃によって崩れた街の修復作業を手伝っていた。


「──あっ、テツトのスーパーアニキっ! チーっす!!!」


「「「チーっす!!!」」」


冒険者チーム【アカイカゼ】の面々がすれ違い掛けにめちゃくちゃ腰を低くあいさつしてくれる。特にリーダーのリーゼント冒険者、アカヤが。


……いや、別に俺からそうしろと言ったわけでもないし、むしろ止めてくれとすら言ってるのに、なんだか止めてくれない。


「あの……【スーパーアニキ】はやめてくれません?」


「いやっ、俺らガチなんでっ! ガチで舎弟やるんでっ! テツトのアニキをスーパーアニキとしてリスペクトしてくことに決めたんスっ! ぜひ何でもお任せくださいッス!」


「いや、それはなぁ……」


「……テツト様」


渋っている俺の肩に、ジャンヌの手が置かれた。


「信仰の自由は大切ですよ。それに、敬愛の念を向けてくれるというのは、信頼の証でもあります」


「うーん……なるほど?」


「あと、私としても同教の信徒ができて嬉しいですし」


「いや、だから俺は崇められる神じゃないから。何の教えも説いてないから」


困ったものだ。俺は確かに強い。でもだからといって、別に立派な人間という訳では決してないのだ。リスペクトされても何も出てきやしない。


……とはいえ、ジャンヌの言う通り、信頼し尊敬もしてくれてるのを無下に扱い続けるのも悪かろう。


「じゃあ、気持ちは受け取っておくことにするよ」


「アザーッスッ! さすがはスーパーアニキぃっ!」


「とりあえずじゃあイースの復興のためにしばらく力を貸してくれないか? 俺たちはさ、今日で街を出なくちゃならないから」


「お任せくだせぇっ! 指名依頼が入ったとか仰ってましたもんね! スーパーアニキはスーパーアニキにしかできないことをなさってくださいっ! ──いくぞテメーら、復興だ!」


「「「オウ!」」」


リーゼント冒険者が率いるアカイカゼの面々は気合の入った声と共に街へ散っていった。


「さて、と。とうとうこの時が来ちゃったなぁ……」


帝国から冒険者ギルドを通じて、俺に対して指名依頼という形で【招集命令】がかかっていた。内容は帝都に着くまで完全機密事項。しかし、何をすべきかは分かっている。再び、魔王軍と相対する作戦が始まるのだ。


「大丈夫だよ、ご主人っ! ボクたちもついてるし!」


「……」コクコク


シバの言葉にロジャも頷いて、俺の手を取ってくる。


──イースでの滞在の中で、街を奪還するための秘密作戦があるということを俺はみんなに打ち明けていた。打ち明けるべきかどうかはやはり、ものすごく悩んだ。だって……


『そんなの、もちろん行くに決まってるよ!』


『シバさんに完全に同意ですね』


『……!』コクコクッ!


『私もがんばるのですぅ~!』


……4人からはこんな風に返事が来ることは分かり切っていたからだ。


この作戦はきっと命懸けの熾烈しれつなものになるだろうことは想像に難くない。でも、俺はこの4人といっしょならきっと生きて帰ってこれると確信した。だから、みんなの助力を得る道を選んだのだ──。


「頼りにしてるよ。シバ、ジャンヌ、ロジャ、マヌゥ」


みんな一様に頷いて、微笑んでくれるのだった。




* * *




「よし、行くか」


荷物をまとめ、宿を出る。俺たちに感謝をしてくれて、よくしてくれた街の人たちに途中途中で言葉を交わしつつ街の出口へと着く。


「……おい、テツト。いったいどういう了見じゃ」


すると、街の出口の前で待っていたのは──女神イオリテ。愛用と思しき魔術杖ロッドを強く地面に打ち付けてにらみつけてくる。


「女神様……なんでここに……」


「質問しとるのは我じゃぞ、テツト。答えよ。どうして、我に何も言わず街を出ていこうとしておるのじゃ」


「それは……」


「それは、なんじゃ? 申してみよ。我の顔を見るのもイヤだったか?」


「そんなわけないじゃないですかっ!」


「なら……我を気遣ったか? 我がこのまま、この街に居られるように──と」


どうやら女神様には、俺の考えていることなどお見通しのようだ。これ以上、隠すこともできまい。


……なら、直接伝えるまでだ。


「女神様……魔王は俺が倒してきます。だから、女神様はこのイースで健やかに過ごしていてください」


「……魔王討伐はいまや、我の使命でもあるのじゃ」


「分かっています。でも……この街で過ごしている女神様──【イオリテ】というひとりの少女はとても、楽しそうだった。周りからも愛されて、幸せそうでした。俺はその日常を奪いたくはない」


「……」


「女神様の分まで、使命は俺たちで果たしてきます。だから……」


「バカ者! 余計なお世話じゃ!」


そう一喝すると、女神様はプンスカと頬を膨らませ肩を怒らせて、俺の足元までやってくる。


「もう決めておるのじゃ。我もまた、魔王討伐の旅に出るとな。修道院の者たちにもちゃんと伝えておる」


「えぇっ!?」


「で、テツトはどうする気じゃ? こんな美幼女をひとりで危険な旅に出させるか、それともお主の仲間として迎え入れ天才魔術師の恩恵に預かるか……どちらを選ぶ?」


「そ、それは……」


そんなの、選択肢なんてひとつしかない。こんなちっこい状態の女神様をひとりで野に放逐するなど……とてもじゃないが、見過ごせない。折れるしかなさそうだ。


「……わかりました。いっしょに行きましょう」


「わっはっはっはー! そうじゃ、それでいいのじゃ! よろしく頼むぞ?」


「はい。よろしくお願いします。俺としても女神様が仲間に加わってくれるのは賑やかになって嬉しいです──が」


「が?」


「いえ、ただ気になってるのが……俺といっしょに居て疲れたりしませんか?」


「む? なんでじゃ?」


「だって……俺の【女の子供にモテる】能力を防ぐために、なんとかバリアっていう魔術使ってたじゃないですか。俺と旅をするってなったら、それを常に張っておかなきゃいけないんじゃ……」


「ん……ああ、そのことか」


女神様は何だかちょっと困った表情になると、プイッと横を向いてしまう。


「その……もう、必要ないからいいのじゃ」


「必要ない? 効かなくなったんですか?」


「効かなくなったというか、効いても効かなくても今は同じというか、そんなものなくてもとっくに──って、えぇいっ! 乙女に対して詮索せんさくするようなマネをするでないわっ!」


女神様は顔を真っ赤にすると、ひとりでズンズンと先に行ってしまう。


「め、女神様、ちょっと速いですよー」


「あー、もうっ。女神様とか呼ぶのも止めるのじゃ! お主も先ほど言っておったであろう? 今は我はひとりの少女、イオリテであると。そう呼べ、テツト」


「えっと……イオリテ」


「うむっ!」


女神──いや、イオリテは俺へと振り返ると、まぶしい笑顔を向けてくるのだった。






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ここまでお読みいただきありがとうございました。

また、たくさんの応援・フォロー・☆評価などもありがとうございます!


長かったですが2章はこれにて終わり、次のエピソードから3章目に突入します。

次の本編の投稿予定日についてはこちらも近況ノートで報告します!


また、

「おもしろかったよー」

「次も楽しみだよー」

と感じていただけた方は、ぜひフォローや☆評価もよろしくお願いいたします。


作者が喜び飛び跳ねるのと、ランキングに載ればその後の作品の商業展開も期待できますので!


来週以降も引き続き物語をお楽しみいただければ幸いです。


それではっ!

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