どこか見覚えのある魔女っ子(6 / 9)
──城塞都市イース、西の大通り。
2体のゴーレムが向かい来る冒険者や兵士たちを軒並み倒し、オモチャの積み木でも崩すように建物を壊しながらこちらに迫ってくる。その様を──唯一の生き残り、Aランク冒険者チーム【アカイカゼ】はただ見ていることしかできないでいた。
「クッ──クソォ……!」
Sランク冒険者であり、リーダーでリーゼントのアカヤはゴーレムに一度吹き飛ばされて打ち身の酷い体を抱えるようにしつつ、剣を握る。
……もう、戦えるのは俺しかいねぇ。メンバーの魔術師の攻撃は効かず、盾持ちも瀕死……後ろの住民たちの避難はまだ未済。じゃあよぉ、俺が、この命を賭してでもここで止めるしかねーなぁ……!
「ウオらぁぁぁッ! 根性見せたるわボケェェェいッ!」
剣を構え、ゴーレムに向かい突撃をしようとした、その時。
──アカヤの頭上に風が吹いた。
「っ!?」
かと思えば、目の前の2体のゴーレムの正面に現れたのは大きなオオカミと、それに跨る光り輝く剣士の姿。確かあれは、先ほどこのイースへの物資の搬入のために、囮役を自ら引き受けていった……テツトとかいう、自分と同じSランク冒険者だったはず。
そのテツトが、両手に持った剣を振った──らしい。
らしいというのは、アカヤにはその剣の
「なっ……?」
ドゴォン……! という大きな落下音を響かせて、ゴーレムが地面へと崩れ落ちた。2体ともだ。そして再び風の吹きすさぶ音と共に、オオカミとテツトの姿は消える。
「……た、助かったのか、俺たちは……」
アカヤは、その場に思わずへたり込んだのだった。
「ア、アニキ……いや、【スーパーアニキ】だぜ……」
アカヤは生まれて初めて、自ら舎弟として下りたい人間を見つけた。
* * *
──城塞都市イース、最西端にある大広場。
大勢の街の住民たちの避難所となっていたそこに、1体の巨大ゴーレムが歩みを進めていた。
「はぁっ、はぁっ……なんでだっ! なんで魔術攻撃が効かないんだッ!」
大広場を守っていたBランク冒険者チーム【リューイーソー】は息も絶え絶えに地面に膝を着いていた。
……これまでにどれだけの魔術を放ったことか。もう、全員魔力の限界が近づいていた。
「クソッ、だが、もう一度だッ……! ここでヤツが暴れようものなら、数千人の命が奪われるッ!」
リューイーソーは魔術特化型の冒険者チームで、メンバーは全員が魔術師。遠距離から敵をサーチし、一方的な攻撃展開で戦いを終わらせる近年その成長を期待されているチームだった。しかし、それが今回は完全に裏目に出ていた。
「全員、構えッ! 対象、前方のゴーレムッ! 撃てェッ!!!」
いくつもの強力なファイアーボールが飛んで、ゴーレムの体へと迫る。しかし、それらは全てその体の前で弾け散り、爆破に至らない。
……ゴーレムの位置からこの大広場まではまだ距離がある……だが、潮時だ。
「クソッ、クソッ……! 他の冒険者チームに伝えるんだッ! 広場の住民の避難させろ、と!」
「でも、どこへっ!?」
「どこへでもいいっ! この広場じゃない他の場所へだっ! 俺たちは他の魔術を試し、限界までここで粘って──」
──その時、大きく風がうねる音を聞いた。
「あっ、アレはなんだ……!?」
唐突にソレは現れていた。ゴーレムの正面に。
「オオカミと、剣士……っ? アレってまさか、さっき外でモンスターたちの気を引いてた……っ?」
オオカミの背中から飛び立った光り輝く剣士が、その剣を真下に振り下ろす。
──ジャギィンッ! と鉄を断ち切る音を響かせて、そしてフッと。幻だったかのようにオオカミたちの姿が消える。直後……ゴーレムが縦に真っ二つになり、崩れ落ちた。
「なっ……いったい、なにが……!?」
「わ……分からん……神業、としか……」
リューイーソーを含む大広場に居た他の冒険者チームの面々は、ただ呆気に取られるばかりだった。
* * *
──城塞都市イース、北東部の繁華街。
繁華街は原型を留めていない。壊滅状態だった。息をする者はほとんどいない。それはBランク冒険者チーム、【セイテンノヘキレキ】のメンバーもそうだ。
「みんな……」
アオシの問いかけに返事はない。大半が意識を失い、リーダーのアオシもまた、薄れゆく意識の中……2体の巨大ゴーレムたちが自分たちの人生に引導を渡しに歩いてくる、その姿を目で追うことしかできないでいた。
「クソ……」
……体がピクリとも動かない。ここまでか……魔王軍との戦争の成果によってBランクに
「すまない、マリン……」
故郷にて病に
その森の危険度は高く、ただ立ち入るのすらにも国の許可が必要だった。その許可が下りる条件というのが【Aランク冒険者チーム以上】だった。
──ズシン、ズシン、と。ゴーレムの足音がすぐ側で響く。
「巻き込んで、ごめん。みんな……」
今のセイテンノヘキレキのメンバーは全て、妹の友人や恋人たちだった。みんな、妹のためにこれまで多くの危険の依頼をくぐり抜けてきてくれた。今回の物資運搬依頼は、アオシが引き受けたものだ。
……みんな、気のいいヤツらだったのに。でも、俺がこの依頼を引き受けてしまったばかりに……!
──しかし、その後悔を吹き飛ばすような一陣の風が吹き抜けた。
「……はっ……?」
アオシの正面、ゴーレムたちの足元に渦巻く風の中から光り輝く剣士が飛び出してきた。アレは確か……さっきイースの外壁前でモンスターの大群相手に大立ち回りをしていた──
そして、決着は一瞬だった。無数の光が瞬いたかと思うと、ゴーレムたちの体がサイコロステーキのようにバラバラになる。
「おっ……オイオイ、マジ、かよ……」
ゴロゴロと音を立てて崩れ落ちるゴーレムたちの姿を認めて──アオシは仰向けに倒れた。張り詰めていた糸がプツンと切れるように、暗闇が視界を
「ああ、でも、たすかっ──た……」
アオシもまた、そこで意識を失った。
* * *
〔──ふぅ、ゴーレムの居る場所は全部巡ったよ、ご主人!〕
「ああ、ありがとうなシバ」
女神様の居る場所へと再び戻ってきて、俺はシバの背から降りる。シバは人間の姿に戻って、ジャンヌから服を受け取ってそそくさと着替えた。
「テ、テツト。まさかもうゴーレムを倒してきたのかっ?」
「ええ、まあ。ぜんぶで5体みたいでした」
「……お、お主らがまだここから立ち去って30秒も経っておらんのじゃが……?」
「まあシバはめちゃくちゃ足が速いんで。そのおかげですね」
「いや……一瞬であのゴーレムを屠れるお主もお主じゃと思うが……」
女神様は若干引いているようだ。……うん、逆の立場なら俺もそうなるだろう。というか、いつの間にか俺はものすごい力を手にしているよな?
シバの速さ、マヌゥの生命エネルギー、そしてジャンヌの回復の力……それらはたとえひとつだろうと得るのが難しいだろう力なのに、それが俺ひとりの周りに集約されているのだ。あと、天才剣士のロジャもいるし。
「──あれっ? そういえば……ロジャの姿を見てないな?」
「ああ、ロジャさんでしたら『何か変な気配がする』と、おひとりでどこかへ歩いて行きましたが、それっきり……」
「……うーん、まあロジャに限って万が一があるとは思えないけど。もしかして、何か強い敵でも見つけたのかなぁ……」
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