どこか見覚えのある魔女っ子(5 / 9)

──ギリギリセーフ。


俺は、融合中のマヌゥから借りた生命エネルギーを剣へと集中させ、謎の4体のゴーレムの拳をひと振りで弾き返す。


「テツト、お主……!」


「遅くなりました。おかげさまで、ちゃんと仲間たちとは合流できましたよ」


俺がそう言うや否や、目の前のゴーレムが吹き飛んだ。


〔グルルッ、ボク、弱い者いじめするヤツら大っ嫌ぁ~~~いッ!!!〕


フェンリル姿のシバが風を凌駕する速度で、ゴーレムに体当たりをかましていたのだ。


聖女の回復セイント・ヒール!」


その背に乗っているジャンヌから、緑の波動が辺りへと広がっていく。すると、アチコチで倒れていた、あるいは絶命していたハズの兵士たちが驚いた様子で起き上がり、無傷の自分を見て不思議がっていた。


「女神様、あとは俺たちに任せてください」


「おっ、お主、こやつらを倒す気かっ!?」


剣を構える俺を止めるように、女神が俺の服の裾を引く。


「こいつら、魔術攻撃が効かないだけではない! 明らかに何かしら【人為的】な生み出され方をしたモンスターな上に、とてつもなく強いぞ……!? 生身の人間じゃ……」


「大丈夫です。今の俺、生身の人間ではありませんので」


俺は跳び上がるとまずは1体目のゴーレムの肩へと乗った。


……女神様の言った通り、確かにこのゴーレムは野生で見かけたことはないな。体を構成する岩が苔むしていて、ツタが巻き付いている。それに……放っている魔力も異質極まりない。


「魔術が通じないってことは……魔力的な剣での攻撃も無効ってことだろうな」


とすると、衝撃波を魔力でコーティングする【真空斬】も効き目が悪いかもしれない。ならば──


「──普通に、叩っ斬るッ!」


肩に乗る俺に拳をぶつけようとしてきたゴーレムのその一撃を跳んで交わし、そのまま上から剣を振り下ろす。


──ジャギィンッ! という、金属を無理やり切断する音と共に、ゴーレムが縦に真っ二つになる。


「よしっ、あとは……!」


後ろから、二体のゴーレムが俺に向かって来ようとしている。


「マヌゥッ!」


『はいっ! 【なんでも沼オールフロムディス】なのですぅ~!』


ゴーレムの足元から、何千もの剣が連なった棘が突き出して、その足の甲を貫いた。踏み出そうとした足がもつれ、2体のゴーレムの巨体が前のめりに倒れてくる。


「ハァァァ──ッ!」


地面を強く蹴り、弾丸のように飛び出して、俺は両手に持った2本の剣で無防備になったその胴体を横なぎに二閃──2体のゴーレムを上下に斬り割いた。


「……ふぅ、これでここはおしまい、かな」


4体のゴーレムが力を失って地面へと沈む(シバが最初に蹴り飛ばした1体はシバがそのままズタズタに引き裂いていた)。


「テ、テツトお主……ものすごく、強くなったな……」


「まあ多分、かなり……」


「そうか、すごいな……お主は努力の子であったからな。助かった……」


「あはは、でも俺だけの力じゃないですよ。女神様が頑張ってくれたから……そのおかげでゴーレムが集まって、場所を特定することができたので。さすがは女神様です」


「……さすが? いや、そんなことはない。我は肝心なところで住民たちを助けられぬところじゃったのだから」


ふぅ、と。女神は微笑みながらも、小さくため息を吐く。


「まったく、女神の神核を持っているというのに情けない話じゃ。魔王討伐どころか、たったひとつの都市すら満足に守ることもできぬとはな」


「何を言ってるんですか。街の外にも女神様のウワサは広まっていますよ。立派に守ってきてるじゃないですか」


「……ふふっ」


女神様は、どこか哀しげに笑う。


「だとしても、それだけじゃ。この程度の実力では世界を救うなんて夢のまた夢よ。まったく、女神の座に返り咲く道は遠いな……」


「女神様……」


「やはり、他の神どもが言う通り我に女神の座は不釣り合いなのかもしれぬ」


「いや、それはないですよ。絶対」


弱気な女神様に、俺は思わず反射的に答えていた。


「……『絶対』ってお主な……。我は事実、他の神どもにそう言われて追放されたんじゃぞ?」


呆れたように言う女神様に……うーん、でも、俺は納得できないな。


「だって、俺、女神様のこと、天界で最初に会った時から『ああ、この人が女神様なんだな』って納得できましたもん」


「……はぁ?」


「【女神】って呼ばれる神様ってなんか……俺の中ではすごい具体的なイメージがあるんですよね。力強く、優しく、温かく包み込んでくれる神様という感じで」


俺はぶっちゃけ、神話によく登場するゼウスとかアレスだとか、そういった神様がどういう神様なのかあまり知らない。名前は知っていても、それがどんな性格をしているのかなんてパッと思いつかない。


……でも【女神】と聞くと、何となく【優しそう】ってイメージが湧くんだよな。


「で、女神様は……天界で俺のこと優しく慰めてくれた。俺が落ち込んでた理由ってすごい俗なもので、だから半分以上呆れられてたのかもしれないけど、それでも慰めてくれたんだ」


「ま、まあ……あんなに泣かれたらな。そりゃ当然、慰めるくらいするじゃろ……」


「あはは……」


天界でのあの出来事を思い返すと少々気恥ずかしい。割とガチ泣きしてたからな。


「慰めてくれる神様はもしかしたら他にもいたかもしれませんね。でも、あのとき実際に俺を慰めて、それで異世界転生って救いの道を用意してくれたのは間違いなくあなた自身です。だから……俺にとっての女神様は、女神イオリテ様以外に考えられません」


「テツト……」


「追放された直接の原因はそもそも俺のフォローのせいですし……やっぱり人助けのためだったんです。それってすごく、女神って感じだと思います」


「う、うむ。そうか……? それは、嬉しいが……」


「それにこの街の人たちは女神様のことが大好きみたいですし、やっぱり人格っていうのは普段の行動に宿ると思うんです。だから、イースの住民に好かれる女神様はそれだけ素晴らしい人格を持ってるってことです」


「……あ、ありがとう、テツト。じゃがな……」


「それに、神核? なんてものを持ってたとしても、普通は他の人のためにそんなに体を張れるもんじゃないです。やっぱり、それは女神様が優しい人だからですよ」


「いや、あの、もうその辺で……! そこまで手放しに褒めちぎられると、さすがにちょっと照れくさ──」


「いいえ、この際、最後まで言わせてくださいっ」


「うひゃぁっ!?」


俺はガッと、女神様の小さな肩を掴む。


「さっきもお話しましたけど、俺、女神様には感謝してるんです。この異世界に転生させてくれて、本当にありがとうございました」


「テっ、テツト……っ?」


「さっきから色々と言ってますけど、つまり俺が言いたいのは……たとえ他の誰が女神様のことを女神に相応しくないって断じようとも──俺は、女神イオリテ様がとても素敵な女神様だって知ってますから。俺は……俺だけは、絶対に女神様の味方で居続けます」


「す、素敵って──///!!!」


「次に天界に行ったら俺が証人になりますよ。イオリテ様は女神に相応しい! って。そうすればきっと少しは他の神々も話を聞いてくれ──って、女神様? どうしたんです? なんか顔が赤くないですか?」


「くぁっ──バッ、このっ……! お主のせいじゃろーがっ!」


ドンと、女神様が俺の体を押して離れる。


「あっ、すみません……思わず、ちょっと近づきすぎましたよね……?」


「べっ、別に気にしとらんわ……!」


プイっ、と。女神様がそっぽを向いてしまう。うーむ、褒め過ぎて逆に気を損ねてしまっただろうか……でもいちおう、全部俺の中の本音ではあるんだけどな。


〔ご主人、ちょっといい?〕


「ん?」


フェンリル姿のシバが俺の元まで歩み寄って来て、俺の耳元まで顔を寄せる。


〔あのね、どうやらここにいたゴーレムと同じようなのがまだ他にも暴れてるみたい。ニオイがね、アチコチでするよ?〕


「マジか……!」


……元々魔力頼りで戦っていない俺たちにかかればこの程度のゴーレム、相手にはならない。とはいえ、普通の冒険者チームにとってはかなり戦い辛い相手に違いないだろう。


「シバ、ニオイでゴーレムの位置は分かるか?」


〔うんっ、大丈夫っ!〕


スンスン、と。シバが鼻を鳴らす。


〔──西の方に3体と、北東に2体〕


「よし。じゃあ、俺を乗せて行ってくれるか?」


〔了解っ!〕


俺はシバの背中へとひと足で飛び乗った。


「おっ、おい、テツトっ!?」


「あ、ちょっと他のゴーレムを倒して来ますんで……女神様たちはここで少し、ジャンヌといっしょに待っていてください!」


慌てたような女神様にそう言い残して、俺はシバに走ってもらう。MAXスピードで。


──ブオンッ、と。風すらも追いつけない速さで、俺とシバはその場を後にした。

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