どこか見覚えのある魔女っ子(4 / 9)
女神イオリテは
「しっかし、バカみたいな量のモンスターじゃのぅっ!」
女神ならではの神々しい光線の魔術【ゴッド・バースト】で住民を襲おうとしているモンスターを撃破しながら外壁部分に到達する。
「くっ……悲惨なっ!」
外壁付近に居た街の住民や兵士たちは惨くも殺されている。そしてまるで水道の蛇口をひねって出てきた水のような勢いそのままに、外壁に空いた大きな穴からモンスターたちが流入してきている。
「ゴッド・シールド!!!」
イオリテは魔術でその穴を塞ぎ、それ以上のモンスターが街へと入ってこれないようにすると、それから辺りのモンスターの駆逐へと移る。それ自体はさほど苦労はない。ただ、外壁の穴を見て……猛烈な違和感が残る。
「デカすぎる……外壁に、こんな大穴を空けられるモンスターがこれまでいたか……?」
この城塞都市イースの外壁は特殊構造で、どんなSランク相当モンスターであっても壊せはしない代物だった。
これまでにイースを攻めてきているモンスターのうち、確認できた強力な個体はアイス・ゴーレム、ヘル・ベロス、ゴルディウム・ガーゴイルの3種だったが、しかしそのどれもがこれほどの被害をもたらせるだけの強力な攻撃ができるとは思わない。
「新しい、モンスターか……?」
だが、そんな思考に囚われている暇などない。外壁付近のモンスターを駆逐して、しかしなお、街の中からは悲鳴が聞こえ続けている。イオリテは再びの浮遊魔術で急ぎ空を翔け出した。
……このイースの街の住民たちのことは……守らねばッ!
──女神、イオリテは転生の直後、イースの修道院へと孤児として預かられていた。
なんでも赤子の姿でひとり藁かごに入られており、すでにその親の姿はどこにもなかったという。魔王軍の活性化によってどこの都市も経済事情が暗くなり修道院へと集まる寄付も少ない中で、しかし修道院の人々は、イースの人々は、イオリテのことを大切に大切に扱ってくれた。
「……その恩に報いぬわけには、いかぬ……!」
イオリテは翔ける。広範囲の魔力感知能力を駆使して、モンスターの暴れる場所を特定しては魔術杖を振るい、街の兵士たちに協力して住民たちを助けていく。
「──イオちゃんっ! 後衛は俺たちが引き受けるっ! だからイオちゃんは正面のあのデカいモンスターをっ!」
「──イオちゃんっ、私の強化魔術を受け取ってっ!」
「──がんばれイオちゃん! がんばれイオちゃんっ!」
兵士たちの、聖職者たちの、そしてイースの住民たちの応援がイオリテの背中を押す。
「ゴォォォッド・バァァァァァスト!!!」
極太の神々しい光線が、おそらく適正討伐ランクS上位級の大猿型モンスターの上半身を吹き飛ばす。それを見ていた街の人々から歓声が上がった。イオリテを
──それは、イオリテの無自覚のカリスマゆえのものだった。
どんなに困難な状況であっても、イオリテと共に戦えるのであれば立ち向かってみせると、イースの住民たちは決起する。その見目は幼くとも、しかし救世の女神としての力が人々を引き付けていた。
……よし。この調子であれば、ものの十数分で街のモンスターは倒し切れる……!
イオリテがそう楽観したとき、しかし、イオリテは忘れていた。
──この街にまだ少なくとも、外壁に大穴を空けた未知の敵が潜んでいることを。
ドゴォンッ! と、再び、先ほど外壁を壊したであろう時と同じ破壊音がイオリテの背後で響き渡った。振り返った先では建物が原型をとどめずにひしゃげている。そして現れたのは、3階建ての建物をかき分けながら歩く巨大な建造物。
「建物……? いや、違う……!」
正方形と長方形の白いブロックを雑に組み合わせて人型を造ったような、歪な形をした──ゴーレムだ。
「なんにせよ、撃滅対象じゃッ! ゴッド・バァァァストッ!」
有無を言わす前に、先手の一撃。イオリテの必殺の魔術光線がゴーレムへと迫る……が、しかし。
バチュンッ! と、光線はそのゴーレムの手前で弾け散るようにして消えた。
「なっ……魔術、無効化だと……!?」
ノーダメージ。魔術無効化は相当なレア能力で、そんなモンスターは通常、野生で発生することなどあり得ないはずだった。
「お主らっ……逃げろッ!!!」
イオリテが叫ぶ。イースの住民たちに向かって。イオリテには、そのゴーレムらを倒す手段が無い。
……しかし、イオリテの強さを信じて疑わぬ兵士たちは、すでに果敢にもゴーレムに向かって斬りかかっていっている最中だった。
「やめろお主らッ! 退けぇぇぇッ!」
その声は、届かない。グチュッ! と肉の潰れる音を響かせて、無情にもゴーレムの横薙いだ腕が兵士たちを吹き飛ばして建物のシミへと変えた。
「くそぉッ……! ゴッド・バァァァスト!」
イオリテが再び光線を放つ──他の建物へと向かって。その光線を受けた建物が崩れ、そしてゴーレムの足元へと降り注ぐ。その目的はゴーレムの行動の阻害。
「今じゃッ! 逃げるぞッ!」
イオリテは呆然と立ち尽くす住民たちの背中を思い切り叩いて、後ろへと走らせる。今のイオリテにできるのはそれだけだった。
……モンスターを倒すことができない以上、最優先は住民たちの避難じゃ。今は、こうするしか……!
しかし、その希望すらも容易く打ち砕かれる。
ガラガラッ! と逃げる先の建物も崩れたかと思うと、そこから現れたのも先ほどと同じゴーレムだった。それだけじゃない。複数の建物の破壊音が重なった。
──前後左右から4体の巨大なゴーレムが、その進路上にある建物を崩しながらイオリテ目掛けて歩いてきていた。
「なん……じゃとっ……?」
行き場がない。逃げ場もない。イースの住民たちが、まだ幼い子供たちが、怯え震えて、イオリテの周囲で腰を抜かしたようにへたり込む。ゴーレムは、無感情に一歩一歩その距離をこちらに詰めて来て、そしてその巨大な拳を振り上げる。
「さっ──させるかぁぁぁッ!!!」
イオリテは頭上に両手を掲げる。
「ゴッド・シィィィールドッ!!!」
神々しい光のシールドが、イオリテとイースの住民を覆い包む。そこに向けて、ゴーレムの硬い拳が振り下ろされた。
「──ふんぬぅッ!!!」
ガキンッ! その攻撃を防ぐ。神のシールドは頑丈だ。されど……無敵のものではない。ガキンッ、ガキンッ! とゴーレムたちが拳を振り下ろしてくるたびに、シールドにはヒビが入っていく。
「イ、イオちゃんっ! イオちゃんだけでも……逃げてっ!」
街の住民たちが腰を抜かしながらも……踏ん張るイオリテに向けて言う。
「イオちゃんひとりなら逃げられるでしょうっ!? だったら……!」
「ふ、ふんっ! それは女神のすることではない……! 我は、女神イオリテ! 目の前の救うべき人間を投げ出してっ、ひとり逃げ出しなどするものか……!」
イオリテは意地を張る。それは意地であり、しかし決して曲げられぬ女神としての
「あっ……! しまった……!」
魔力残量。見誤ったのはそれだった。女神としての本分を意識するあまり、今の幼女としてイオリテ自身の保有する魔力量の少なさを考慮していなかった。
……まさか、こんなところで……!
巨大なゴーレムたちの拳が頭上に振り下ろされる様を見ながら、イオリテは歯を食いしばった。本当ならもっと成長してさらなる実力を取り戻し、そうして魔王討伐に貢献して死後に女神の座に返り咲くつもりだった。それなのに……
「くぅっ!!!」
目の前に迫る拳に、目を瞑った。激しいクラッシュ音が響き渡り……しかし、いつまで経っても体には何の痛みも襲ってはこなかった。
「──大丈夫ですか、女神様」
「……えっ」
イオリテが目を開く。そこにあったのは目を塞ぎたくなるような惨状では、なかった。
「テ……テツト……!?」
「よかったです、間に合って」
目の前で立っていたのは──テツト。身を屈めていたイオリテたちの頭上で、その全身を生命エネルギーに包ませた輝かしい姿で、4体のゴーレムの拳を片手の剣で受け止めていた。
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