どこか見覚えのある魔女っ子(3 / 9)
「──なるほど。つまりは天界を追放されて、この異世界に赤ちゃんとして転生させられてしまった、と」
「……」
俺の要約に、女神イオリテはバツが悪そうにしてそっぽを向く。
「ふんっ、笑いたければ笑えばいいのじゃ……」
「いや、別に笑いなんてしませんけど……」
「ウソを吐け、ウソを!」
イオリテは頬をぷくーっと膨らませる。
「どうせ『ざまぁ!』とか思っておるに決まっとるわ! お主がチート能力無しでこの異世界に放り出されて、満足に支援も受けられない状態でだいぶ苦しんでおったのは知っておる! その因果が巡って我に天罰が落ちたとでも思っとるのだろう!?」
「お、落ち着いてください、女神様……っ」
「うるさいのじゃっ! 我はもう行く! お主らがイースへと運んで来てくれた支援物資に関しては感謝するが……もう我とお主の関係はここまでじゃ! 我は我の道を行く」
イオリテは肩を怒らせるようにして俺の横を通り過ぎていこうとする。
……なんか、いろいろと思い込み過ぎていて空回りしているみたいだな。
「女神様、聞いてください」
「聞かんっ!」
「俺、女神様には感謝しているんですよ」
「だから聞かん! 文句ならこの異世界を管轄してる神に──って、え? 感謝……?」
キョトンとした顔で女神様は振り返る。
「確かに、与えてもらえるはずだった能力についてが不発に終わったどころか……厄介な【ロリにモテてしまう】っていう性質を持ってしまったのは大変でしたけど、それでも俺はこの異世界での生活を楽しんでいましたよ」
「う……ウソじゃ。だってお主、異世界に行って最初の1年目の頃なんか、ぜんぜん上手く行かなくて、ご飯が食べられない日とかも全然あって、ひもじさを紛らわすために馬房の藁を
「まあ、アレは辛かったですけど……でもそんな経験があったからこそ、俺はもっと稼がなきゃって一生懸命になれて、剣術の稽古に身が入ったりもしましたから」
これは本当のことだ。俺は、絶対に今の状況から抜け出してやるという信念と共に毎日自分で削って作った木刀を振るい鍛錬を続けてきた。その日の努力は、確実にいまの俺に繋がっている。
「で、でも……我は、そんなお主に何もしてやれなかったし、たまに口を出したかと思えば口うるさく『魔王を討伐しろ』なんて言ってしまってたし……ウザいとは思わなかったのか……!?」
「うーん……むしろ『嬉しい』とまで思いましたね」
「うっ、嬉しいじゃとっ? なにゆえじゃっ!?」
「いやだって、口うるさくってことはつまり──それだけ気にかけてもらえてるってことじゃないですか。前世の俺のことなんて誰も知らないこの異世界で、唯一俺のことを知ってくれてる女神様が俺の先行きを案じてくれてるっていうのは、やっぱり嬉しいですよ」
それに、そもそも魔王討伐自体が俺にとってはこの異世界に転生させてもらうための条件だったわけだからな。それを俺が果たすのは当然のことなわけで……忘れてたら叱られるのは仕方のないことでもある。
「だから、別に俺は女神様に対して『ざまぁ』とか少しも思っていないですよ。というかむしろ俺のことを気にかけてもらった結果、天界から追放されてしまったわけですから、申し訳ないくらいで……」
「それは、別に……こちらの不手際なのじゃからあの程度のフォローは当然というか、なんというか……っていうかお主、底抜けのお人好しじゃな……!」
「えっ? そうですかね……別に普通だとは思いますけど。まあとにかく、俺はなんとも思っていないので……もう逃げないでくださいね?」
「に、逃げようとなんてしとらんわ! ただ、いつまでもこんなところで油を売っとる暇がなかっただけじゃ! ほら、行くぞ! やることはたくさんあるのじゃ……!」
女神様は誤魔化すようにそう言うと、俺の手を引いて路地から出る。その表情にはどこかホッとしたような安堵感を湛えていた。
「歩きながら話すぞ。今は少し落ち着いてはいるが、いつまたモンスター共の攻勢が始まるか分からんからのう。配置場所に戻らねば」
「そういえば聞きましたよ。女神を名乗る凄腕魔術師がイースを守っている、って」
「ふふん、まあな」
俺の言葉に女神様は薄い胸を張った。
「我は追放され幼女の身に堕とされはしたが、それでもこの世界を救うためにと転生させられたゆえ……女神の神核をこの身に宿しておるのじゃ」
「女神の……神核? それがあるから凄い魔術が使えるとか、ですか?」
「そうじゃ。この世界には無い神の魔術を使用することが可能なのじゃ。ま、普通の魔術師としても一流じゃがのぅ。どうじゃ、すごいじゃろ!」
女神様は背中をのけ反らせるほどに自慢げだ。
「それにしてもテツトよ、先ほどから我ばかりに喋らせおって。お主の話も聞かせんか。戦争を無事に生き残れたんじゃから、そろそろ、多少は良い目にもあっておるのではないか?」
「いやぁ、それが……」
「よいよい、謙遜するでない。どうだ、さすがに冒険者として少しくらいは成功したか? それとも恋人のひとりくらいはできたか? 多少の自慢話くらいは聞いてやろう」
……聞くのはまだしも、あんまり自分の自慢話とかするのは好きじゃないんだけどな。でもまあ、確かに女神様に喋らせるだけ喋らせて自分のことは語らないっていうのもよくないし……。
──俺はかくかくしかじか、と。戦争が終わってからこれまでの経緯を話すことにした。それはもう、余すことなく。
「しゃ、
「ええ、まあ」
「それにっ、フェンリルの女の子にエルフの聖女に天才剣士の元弟子と沼の精霊少女といっしょに旅をして、全員と性交済みじゃとぉっ!?」
「ちょっと、声大きいっす」
「お、お主……いつの間にそんなサクセスストーリーを歩んどったじゃ……」
「ま、まあ、充実した人生を歩んでおるようでよかったが……」
「おかげさまで、異世界生活を謳歌できてますよ」
「うむ、それ以上ないくらいの謳歌の仕方じゃな……。しかし、それにしてもこのイースに来てくれたのがお主らでよかった」
女神様は肩の荷が下りたかのような、ホッとした表情で言う。
「今のイースは人材が足りておらん。それも、個として群を圧倒できるような強者がな」
「強者、ですか」
「うむ。敵は多く、幹部級モンスターたちも強力じゃ。兵士の頭数だけを揃えただけではとても対抗できぬ。今は我がいるから何とか致命的な攻撃を受けずに済んで居るが……それでも状況はジリ貧じゃった。しかし、お主らが居れば、あるいは──」
その時、女神様の言葉を遮るようにドゴォンッ! と鈍い破壊音が遠くから響いてきた。同時に聞こえたのは人々の悲鳴、そして、
〔──ブロォォォォォォオッ!!!〕
いくつにも重なる、モンスターたちの雄叫びの声だ。
「なっ、なんじゃっ!?」
「行ってみましょう!」
俺たちは頷き合い、悲鳴の方向へと駆け出す。すると出くわしたのは、凶暴な雄牛型のモンスター。それが複数体、街の大通りを暴れ回っていた。
「はぁっ──!」
「ゴッド・バァァァストッ!」
襲われかかっていたイースの住民を守るように、俺と女神様はそれぞれ左右のそのモンスターを撃滅する。だけど、それだけで事件は終わらない。まだまだ、街のあちこちからモンスターの雄叫びが響いていた。
「テツト……マズイぞっ! もしやすると、イースの外壁が崩れてモンスターが流れ込んできとるのかもしれんっ!」
「なっ……!」
「テツト、お主は仲間と合流してイースの住民を助けに動くのじゃ! 我は崩された外壁を特定しに行く!」
「ちょっ……!」
女神様は浮遊魔術で高く飛び上がる。
「女神様っ、単独行動は危険ですッ!」
「案ずるな、我は最強の女神! ひとりで充分じゃ! お主はまず自分の身の心配をせよっ!」
そう言って、建物の障害なども飛び越えて、一直線に外壁へと向かっていった。
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