どこか見覚えのある魔女っ子(1 / 9)
フェデラ高原から出立して2日、朝。俺たちは馬車を乗り継いで、南方最大の人口を誇る城塞都市【イース】の近くまでやってきた。
「……ん?」
道なりに行った先の前方の小高い丘の頂上付近で、十以上の馬車とその護衛らしい冒険者チームが数チーム立往生をしている。
「いったいどうしたのでしょう?」
「止まっちゃってるねぇ。車軸が壊れちゃったとかかなぁ?」
「とりあえず、いったん降りるか」
俺たちは御者に馬車を止めてもらって、立往生しているそこの人たちへと話を聞きに行く。
「んっ? テメーらは──新手の冒険者チームだな?」
俺たちが近づいてくるのを察した内のひとり、ひと昔前のツッパリみたいなリーゼントヘアスタイルの冒険者が、困ったような顔で言う。
「あいにくだがよぉ、この先にはとうてい進めそうにないぜ」
「何があったんです?」
「何がって……見ての通りだぜ」
丘の上に立って、その下を見る。見えるのは広大な平原だ。その奥にそびえ立つ巨大な壁、その中に城塞都市イースはあるらしい。そしてその外壁に至るまでの道のりを──地面を埋め尽くさんばかりのモンスターの大群がひしめいている。
「うわっ……多いな」
「だろ?」
俺の率直な感想に、リーゼント冒険者は苦笑した。
「こんな状況ではあるが、まずは自己紹介からだ。俺たちゃAランク冒険者チーム【アカイカゼ】。リーダーは俺、Sランク冒険者アカヤだ。いちおう帝国内じゃあ結構ブイブイ言わせてるんだぜ。
「よろしく。冒険者テツトです。ランクはこの前Sになりました」
「おお、新人Sランクか。ノッてるじゃねーの。ウェ~イ」
俺は、リーゼント冒険者アカヤと固く握手を交わす。
「んで、向こうの別の馬車でたむろしているのは同じく冒険者チームの【セイテンノヘキレキ】と【リューイーソー】。どちらもチームランクはB。俺らと同じ、イースへの補給物資を載せた馬車の護衛任務としてここまでやってきたが……」
「なるほど、さすがにこのモンスターの大群が突破できなくて立ち
「ああ、そうだ」
確かに、並みの手段ではモンスターたちの襲撃に馬車もろとも飲み込まれてしまうに違いない。イースでは長期に渡る防衛戦によって物資の消耗が激しいというし……これらの補給物資は生命線となることだろう。
「イースじゃ今、自称【女神】の凄腕魔術師が前線に立っているらしく、それで被害は最小限で済んでいるらしいけどよ……食料が尽きかけているんだそうだ。早く届けてやりてーんだが……」
「自称女神……? なんか
……元より依頼も受けているし、だとすればこれからやることは当然決まっている。
「じゃあ、俺たちが囮になってモンスターたちの注意を引きますんで、そのスキにアカヤさんたちは物資の運び込みを済ませてしまってください」
「あっ?」
「よーし、じゃあみんな。そんなわけだから。イースへの入り口からちょっと離れた場所……あの辺で暴れるぞ」
俺が駆け出すと、シバたちがそれぞれ思い思いに返事をして俺の後に続いてくる。
「ちょ……ちょいコラぁっ!? テメーら、何を考えてんだッ!? 自殺行為だぞ、早く戻ってこいやぁぁぁッ!」
「【アカイカゼ】とその他のチームのみなさんはタイミングを見てイースに向かってくださいっ!」
俺は後ろにそうとだけ叫ぶとそのまま前に向かって走り続ける。
「ねぇっ、ご主人! ボク、元の姿に戻ってもいいかなぁっ?」
「ああ。頼む!」
シバはその場で服を早脱ぎすると、一瞬でその姿をフェンリルのものへと変えた。
〔アオォォォンッ! よぉーし、殺すぞーっ!!!〕
「物騒な。まあ、今回はそれでいいけど──ねっ!」
目の前に迫ったモンスターの大群に飛ぶ斬撃を見舞い……戦いが始まる。とはいえ、数だけがとりえの群団程度になら、そうそう苦戦などしない。
「みなさんを……強化っ!」
ジャンヌが神への祈りを唱えると、俺たちの体が強化される。信仰形の魔術なんだろうが、恐らくジャンヌの聖女という性質が相まって、これまで受けたことの無いほどの力の高まりを感じる。
〔ひゃっほぉぉぉ~~~!!!〕
シバが目にも止まらぬ速度で駆け抜けると、その周りにいたモンスターたちが巻き起こった風の刃に一気に切り刻まれて宙へと打ち上げられる。
「……!」ブオンッ!
ロジャは、脅威的な跳躍力でモンスターの大群の中心部へと降り立つ。振りかぶっていたその大剣の一撃が、ビシィッ! と空間にヒビを入れるような音を立てる。
いったいどんな技なのかは分からないが、ロジャの一撃を直接受けたキング・オークが体をひしゃげさせるに留まらず、その周りを囲うずっと奥のモンスターにまで大剣の攻撃の衝撃が波紋のように広がり、何十何百という単位で吹き飛んだ。
「マヌゥ、俺たちも行くぞッ!」
『はいなのですぅ~~~!』
俺も負けじとモンスターの大群の中央へと飛び込んだ。俺の両手に【
「よいしょぉぉぉッ!」
両手の剣を振るう度に、周囲のモンスターが切り刻まれていく。∞の世界で得た精緻な魔術操作能力、そしてマヌゥとの融合によって人間を超越した身体能力を得たことで、今や討伐適正Sランクのモンスターもまるで相手にならない。
──圧倒。
俺たちにチームとしての動きは未だ無いに等しい。しかし、各々が持つ力を戦場に叩きつけるだけで、とてもシンプルな結果が出る。すなわち、
そんな時間が15分ほど続いて……こちらに押し寄せるモンスターの密度はこの上ないくらい高くなっている。イースの街の外壁を囲っていたモンスターたちがみな、俺たちの方へと向かってくるのだ。
……いい感じに囮がやれているな。
なんて思っていると、
──プシュゥゥゥウッ!
赤い光の弾が俺たちの頭上に瞬いた。おそらく、何かの合図だ。
「──おっ、おぉぉぉいっ! テメーらっ! もう物資は運び終わったぜ! だから早く街に入れぇぇぇえっ!」
冒険者チーム【アカイカゼ】のリーゼント冒険者の声が、動乱の戦場の中で微かに聞こえてくる。どうやら、イースの入り口付近から叫んでいるらしい。
「みんなっ! 引き上げだ! シバの背中に乗って入り口までっ!」
「はいっ!」
俺、ジャンヌ、ロジャとシバの背中に乗り、イースの入り口までひと駆けする。アカイカゼの人はフェンリル姿のシバに驚いていたようだが、俺たちと共にモンスターを倒す姿を見ていたからか腰は引けつつも受け入れてくれる。
「おらっ、早く! モンスターまで入り込んじまう!」
開いた門の中へと体を滑り込ませる。それに伴ってモンスターが数体、イースの中へと駆け込みそうになっていたが、
「──エクストラ・ゴッド・バァァァストッ!」
何だか頭の悪そうな掛け声と共に、虹色に輝く光線がそのモンスターたちを薙ぎ払った。それはこれまでに見たことのない、強力で神々しい攻撃魔術だった。
「おうおう、物資か、食料かっ!? いやー、助かったのじゃ! 誰だか知らんが運んでくれて感謝感謝なのじゃ!」
何だか舌足らずな幼い女の子の声が聞こえ、そちらを振り向けば──街の階段をトテトテと可愛らしい足音を立てて降りてくる、ひとりの幼女の姿があった。
「お主らが勇猛にも戦死したあかつきには、我が天界へと口利いて極楽行きにしてやろう! わはは、どうじゃ? 心強かろう?」
「あれっ? もしかして……女神様ぁっ!?」
「ん、なんじゃお主……って、ゲェッ!? テツトぉッ!?!?!?」
それは、やはり俺のことをこの異世界に転生させてくれた女神様。その女神様が……なんだかものすごく【ちっこく】なって目の前に居るんですがっ!?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます