この世全てのエルフを束ねる者
──宴会の翌日、午後。
二日酔いになっていた面々をジャンヌの【
俺とシバにジャンヌ、それにマヌゥ(融合中)とロジャを加えた俺たち5人はさっそく町を出立することにした。本当は高原に多発するモンスターたちを倒して、発生源の魔力の淀みを正常化してから町を後にしようと思っていたのだが、
『それは私たちに任せてもらおうか。勇者奪還の依頼をテツト任せにした上に、その他の仕事までお前たちに取られては敵わんからな』
ネオンたちクロガネイバラにそう言われてしまい、討伐を手伝わせてもらうことはできなかった。
……まあ、クロガネイバラほどの実力者たちがいるのならば、そもそも俺たちの出番など無かったのかもしれないけど。
ちなみにヴルバトラは帰還命令が軍より出ているらしく、もうすでにフェルマックら親衛隊たちと共に帝都へと旅立った後だ。ヴルバトラは町を去る際、
『そろそろ例の作戦が始動する。テツトも備えておいてくれ』
と言い残していった。
例の作戦──これまでの5年間に及ぶ魔王軍との戦争で奪われた街、【オグローム】の奪還作戦のことだろう。
「さて、俺ひとりだったらいざ知らず。方針を考えなきゃな……」
シバ、ジャンヌ、ロジャ、マヌゥ。4人の少女たちを魔王軍との戦争に巻き込んでいいものか……まずは俺の中でじっくりと考えて、それからみんなの意見も聞かなくては。
……とはいえ作戦はまだ先の話だし、とりあえずはどこに行くかを決めないとだ。
というわけで、冒険者ギルドで情報を求めることにした。
「テツト様、本日はどのような依頼をお探しでしょう……?」
訪ねるとすぐに応接間に通され、目の前にはギルド長が。Sランク上位にもなると、こういった扱いをされることも多いと聞いてはいたが……まさかウワサ通り、しかもヴルバトラ奪還依頼に引き続き2連続だとは思わなかったな。
「えっと、もしかしてまた指名依頼ですか?」
「いえいえいえ、指名というわけではないのですが……ですが、どうしてもSランク上位の、それもクロガネイバラの方々と同格近い冒険者の加勢が必要な状況でして、できれば……」
もはや、それは指名依頼も同然だ。この町に今来ているSランクはクロガネイバラと俺以外いない。俺たちと同じくヴルバトラ奪還依頼の話が来ていたはずの他のSランク冒険者たちは、自分たちの手には負えないと思ったからか結局誰も来なかったし……。
「まあいっか。今行く宛てもなかったわけだし」
そういうわけで俺はギルド長からの依頼を受け、南東最大の都市へと向かうことにする。なんでも知能の高いモンスターたちが大群を率いて、都市の防壁を突破しようと目論んでいるらしい。
「敵の幹部級モンスターにはアイス・ゴーレム、ヘル・ベロス、ゴルディウム・ガーゴイルといった最上級モンスターたちが顔を連ねているようなのです。1体1体がAランク冒険者チームに匹敵するほどの力を持っています。くれぐれもお気をつけて」
そんなわけで、俺たち5人での南東最大都市【イース】への新たな旅が始まった。
* * *
──テツトたちが町を発って2日後、冬が訪れたかと思うほど、その日のフェデラ高原には冷たい風が吹いていた。
「……こんなものか? 弱いな。これがこの時代の最強の
冷たいまなざしを向ける男の前で高原の地に臥しているのは──クロガネイバラの面々だ。
──鉄壁の守りを誇っていた前衛の戦士が持っていた盾は粉々に砕け散っていた。
──チームの優秀なバランサーであった聖職者はドクドクと大量の血を流しながら、うつ伏せに倒れたまま動かない。
──リーダーのベルーナの体もまた血に染まり、地面に両膝を着いて立っているのがやっと。その呼吸はヒューヒューと、おかしな音を立てていた。目の
「ぐ……かっ……!」
そしてチーム最強の天才魔術師、
「そういえばお前はどこかで見たことが……ああ、そうだ、思い出した。80年前の帝国との戦いで、愚かにも俺に歯向かった不死の【
「……ッ!」
「ヤツはどうした? 不届きにもこの俺に傷をつけた戦士の
男は、ニヤリと笑みを浮かべる。
「フン、これだから短命種は。まあ、俺にとって都合はいいがな。ちょうどいい、この機に侵略も再開してしまおうか」
「……ジル、アラドォ……ッ!!! お前、あの時死んだハズじゃ……!!!」
「……おい、調子に乗るな。この
ジルアラドと呼ばれたそのエルフの男は、その
「しかも猿にも劣る
「グッ──がぁぁぁ──っ!?!?!?」
ジルアラドの手から小さな黒い稲妻が奔ったかと思うと、ネオンが悲鳴を上げ始めた。
「フン……苦しいか? 俺の構築した痛覚倍増の拷問魔術だ。この80年、聖女が生まれるのを待っている間がヒマでな。いくつか新しい魔術体系を樹立していたのだ」
「ぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!」
「ハァ……
ネオンの体が投げ出され、地面を転がった。
──その隙を、ネオンは見逃さなかった。
「【
魔方陣がベルーナを始め、他のクロガネイバラのメンバーを包み込んだかと思うと、次々とその場から消していく。そして、ネオンもまた──
「──おい、調子に乗るな。この俺がみすみすお前まで逃すとでも思うか?」
「ッ! く……ッ!」
ネオンを包み込んだ魔方陣がジルアラドによってかき消され、ネオンはその頭を鷲掴みにされていた。
「なるほどな……瞬間転移魔術の超短縮詠唱を編み出していたか。どうやら80年経って少しはマシになっていたらしい」
「バケ、モノめ……!」
「言え。仲間をどこへ飛ばした?」
「ハッ……! ランダム転移だ、私にも答えは分からん。ざまぁ見ろ……!」
「……そうか。まあザコはどうでもいい。それよりも、」
ジルアラドは全てを見通すような淡い
「【ジャンヌ】というエルフの聖女と、【冒険者テツト】とかいう
「……ッ!」
「声に出して答えて、そして俺の前に頭を垂れて慈悲を乞え。そうすれば奴隷程度の身分は与えてやろう」
「……ハッ、知らんなぁ」
ネオンは、ニヤリと口元を歪めてみせる。
「ジャンヌ? テツト? そんなヤツら聞いたことも無いし、知っていたとして……お前なんぞに教える気は毛頭ないね。この極大ナルシストエルフが」
「……そうか。【ここから南東の都市、イースに向かった】、んだな?」
「……なッ!?」
「言ったろう? 新たな魔術体系をいくつも作った、と。先ほどの俺の問いに反応したお前の深層意識での回答を入手した。ゆえに、もうお前は用済みだ」
ジルアラドが手を掲げると、そこに紫電が集った。人が1mmでも触れれば弾け飛んでしまうだろうその膨大なエネルギーはジルアラドの手のひらの中央に収束し、暗黒のエネルギーの塊となる。
「……ハッ、それを私にぶつけるか……? いいだろう、やればいい。私は不死の魔術師。たとえ塵にされようが必ず生き返る……!」
「だろうな。だが、数カ月は体の再生ができまい。それだけの時間があれば俺の帝国侵略は終わる。次にお前が見るのはこの俺の支配下に置かれた
「……人間をナメるなよ、ジルアラド……! 人間は……テツトはッ! そう簡単にくたばるようなヤツじゃ──」
「くどい。早々に消え失せろ」
ジルアラドの攻撃はネオンもろともフェデラ高原にさく裂し、半径十メートル以内の全てを塵にしてみせた。
「フン」
ジルアラドは満足げに鼻を鳴らすと、瞬間転移魔術を無詠唱で行った。魔方陣がジルアラドを包み込む。
「待っていろ、冒険者テツト。個としての格の違いというものを教えてやろう。絶望の淵で手足をもいで、帝国が滅びゆく様をその目に見届けさせてやる……」
ジルアラドの肉体は空気に溶けるように消えた。
──そして余談だが、そのジルアラドについて、帝国史における公式の記録はここでプツリと途切れることになる。突然、その姿を消したのだ。
ジルアラドに襲撃を受けたクロガネイバラは幸運なことにメンバー全員が転移先で一命を取り留め、最寄りの町に保護された。後日復活を果たしたネオンを含めて、半年後にはチームを再結成。その後、帝国軍部からその襲撃に関する聴取が行われた。しかし、得られた情報は微々たるもの。
……最後にジルアラドのその姿を目撃したのはネオンだったが、その行先や目的については一貫して『答えられない』とした一方で、
『今はまだ語るべき時ではない。ただ──新時代はきた。ゆえに案ずるな。帝国の夜明けは近い』
短く、そう話したという。
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ようやくヒロイン4人が揃いました。
ここまでお読みいただき感謝です。
また、いつも応援ありがとうございます!
次回で第2章は終わり(予定)です。
タイトル(仮)は『どこか見覚えのある魔女っ子』。
タイトルにはいっさい要素が含まれておりませんが、今回のエピソードの最後に出てきたエルフのジルアラドさんもちゃんと出演します。でもこの小説のメインテーマはハーレムなので、ボスキャラっぽいジルアラドさんには悪いけどメインは新しい女の子です。
さて、次回更新はまた1週間後か2週間後となります。
「おもしろい!」
「続きが気になる!」
「今後の展開に期待したい」
などご感想を持っていただけたら、☆評価やフォロー、応援を入れていただけると作者がとても喜んで、執筆の励みになります!
また次のエピソードもお楽しみにしていただけると幸いです。
それではっ!
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