逸脱者たち 後編(5 / 5)
さて、精霊であるマヌゥと俺が性行為の果てに一心同体に【合体】してしまった件について、全てを話し終わった。
「な、ななな、なっ……!」
ヴルバトラは金魚のように口をパクパクとさせて赤面し始める。なんというかヴルバトラ……そっちの方面の話には弱いのかな。
「まあそんなわけでさ、俺にもどうしてこうなったのかはさっぱり……」
「『そんなわけでさ』、ではないっ! 貴君……自分が神話級にものすごいことをしている自覚がまるでないな……っ!?」
ヴルバトラは、彼女には珍しく上擦った声で続ける。
「精霊は基本的に人間に興味を持たない種族だし、なんなら人嫌いでもある。生物というよりかはむしろ生物の共通概念が具体化したものに近い存在なのだから」
「共通概念?」
「たとえば生物ならそのいずれもが感じる【熱】だとか、誰もが平地とは区別して考える地形のひとつの【山】だとか……そういったものだ。テツト、貴君は熱や山が人と恋に落ちる様を想像できるか……?」
「……いや、それはイマイチ分からんな」
「しかしいま貴君は、それをしていると言っているのだ。驚愕の出来事だぞ……」
まあ確かに、そんな風に言われてしまうと……ものすごく特別なことに感じてしまう。
「しかし、精霊は普段は姿を隠して生きており、その個体数は数十程度。人が一生涯に見かけることすら稀だというのに……いったいどこで出会ったというのだ」
「いや、普通に町の沼に居たんだけど……ついでにそこを町の住民たちに埋め立てられそうになってた」
「なん……だと……!?」
ヴルバトラがものすごく大きく口を開けて驚いている。申し訳ないけど、こんなに表情がコロコロと変わるヴルバトラはなかなか見れなくて、ちょっと面白いぞ?
「はぁ……なんだか10年分くらいの驚きをまとめて味わったかのようだ……」
「なんかスマンな」
「テツト……貴君には他の冒険者には無い雰囲気があるとは思っていたが……あまりにも
そんなこと言われても、俺にはどうしようもない。こっちとしてみれば普通に生きているだけなのだから。
「それで、その……せ、性交の最中に精霊と合体してしまった件についてだが……私はその現象を【精霊融合】と呼んでいる。精霊との【契約】を交わし、多くの【代価】を払うことによって実現する」
「代価、っていうと……ヴルバトラが言ってたところの血液みたいなものか?」
「そうだ。恐らくテツトも、行為の最中に無意識的に契約を交わし代価を渡してしまったのだ。貴君の場合の代価は、その……【アレ】だろう、確実に」
顔を背けながら口にするヴルバトラ。ああ、まあそうだよね……男のアレはアレと以外表現できないもんね……。
「それで、ヴルバトラ。その精霊融合っていうのは1度してしまったらもう戻れないのか? 俺とマヌゥはずっとこのままになっちゃうのか……?」
「いや、そんなことはない。融合の持続期間は渡した代価の量による。それで、ええと……テツトはいったい、ど、どれだけの量を精霊に注ぎ込んだのだ……?」
「た、たぶん、ロックグラス1杯分くらいかな……」
「グラスっ!?!?!? 普通そんなに出せるものなn──い、いや、なんでもない。そうだな、それだけあるとなると……」
ヴルバトラは取り繕うように咳払いをすると努めて冷静な様子で考えてくれる。
「たぶん1ヶ月は保つだろう。ものすごく異例なことではあるが」
「1ヶ月か……それまで融合しっぱなしって考えると、すごく長いな……」
「ああ。次からは契約の代価は少なめにした方がいい。互いに不便だろうしな」
「はい……気を付けます」
ヴルバトラからのアレの放出量についてのアドバイスをしかと受け止め、それから俺たちは町へと帰還した。
高原を行く途中であらかたのモンスターを討伐し終えたクロガネイバラと合流し、町へと帰還する。親衛隊の面々はヴルバトラの安否を相当心配していたらしく、ヴルバトラを救い出したということで俺はめちゃくちゃ歓待を受けることになった。
……フェルマックだけは喜びたいような、しかし俺に頼ってしまったことに悔したがりたいような、とても複雑な表情をしていたけれど。
ちなみにロジャの件もヴルバトラが弁解してくれて事なきを得た。
……まあ、終わり良ければ総て良し、だ。
その日の夜、久方ぶりに先の戦争で背中を預け合った面々が揃ったということもあり、ささやかながら宴会? という名の飲み会が開かれることになったのだった。
* * *
俺が酒に格別強いらしいと分かったのは18歳の時、初めて酒場に行った際のことだった。
……この世界では15歳から飲酒が可能なのだが、でもやっぱりお酒は怖い。そんな理由で敬遠してたものの……恐れより興味が勝ったのだ。
ただ、いくら飲んでもいっさい気分が変わらなかった。酔うまで飲んでみようと思って、酒豪とか呼ばれてたSランク冒険者と飲み比べしたのだが、そんな彼が潰れた後も俺はひとりケロリとしたまま。
……酒代の支払いのために泣きながら冒険者プレートを質に入れていたあのSランク冒険者、今も達者でいるだろうか……なんてボンヤリ考えていると、唐突に肩に柔らかな感触がのしかかる。
「どぅへへへ……飲んでるぅ? テツトきゅぅぅぅんっ!」
「ベルーナさん、酒くさっ!」
「どぅっへっへっへぇ~~~」
クロガネイバラのリーダー、ベルーナがベロベロになりながら椅子に座る俺に後ろからもたれかかってきていた。
「いやぁ、わらひはねぇ、テツトきゅんはやるときゃはやる子らと思っれらんよぉ」
「なんてっ? 呂律がぜんぜん回ってないっすよっ!」
「びびでぃばびでぃぶぅ」
「とりあえず水を飲んでくださいっ! ちょっと、誰か……そうだネオンさんっ! 水魔法で水をベルーナさんに──」
「……zzz」
「寝るな自称
クロガネイバラの面々は完全に酒に飲まれまくっていた。ちなみに他の
「ご主人ご主人……ボクのことずっと好きでいてくれるよねっ? これからもずっとずっといっしょだよねぇっ!?」
シバは泣き上戸なのかズビズビ鼻を垂らしながら俺の腰に抱き着いてくるし、
『ほわわわぁ〜〜〜視界がぐるぐるするのですよぉ〜〜〜』
俺と融合状態のマヌゥは俺が飲んだ酒の影響なのかやはり酔っ払っているし、
「でへへへへっ! もう、こぉ~~~んなにおっきかったんですからぁ! あとダイヤモンドくらい硬かったんですよぉっ!」
ジャンヌはちょっと離れた席でめちゃくちゃ愉快そうに笑いながら何かを語ってるし、
「そ、そうなのか……テツトのソレは、そんなに……!」
「……!」フンスフンス!
ヴルバトラとロジャはジャンヌの話を興味津々といった様子で聞き入っていた。
……ダメだ、なんだか酔っ払いの空気についていけない。
俺は腰にしがみついて離れないシバをなんとか寝かしつけると、ひとり、外の風に当たってくることにした。
「……ふぅ」
宴会の席から離れると、とたんに静かになった。賑やかな声が遠い。
「涼しくて良い夜風だ……。なぁ?」
『……zzz~なのですぅ~~~もう飲めないのですぅ~~~……』
「マヌゥ、寝てるのか……」
スヤスヤとしたマヌゥの寝息を頭の中で聞きつつ、ひとりで町を歩いていると……静けさがどこか懐かしく感じる。
「そういえば、ほんの2カ月前までは俺、ひとりきりだったんだよな……」
まだ最近のことなのに、もうずいぶんと遠い昔の話の用だった。
──神話の獣、フェンリルのシバ。
──エルフの聖女、ジャンヌ。
──天才女剣士、ロジャ。
──沼の精霊、マヌゥ。
4人の少女が立て続けに同じ旅路を行く仲間となった。
「ひとりが寂しい、と思った事はなかったんだけど……」
でも、今こうしてひとりで歩いていると、無性に彼女たちが恋しくなった。なんだかそれは、すごく嬉しいことのように思う。
「……さて、戻るとしよ──」
──突如、背後から口を塞がれた。
「っ!?」
「……シショー、ごめん。私」
それはロジャの声だった。直後、フワリと足が浮いて地面を離れた。俺の体がロジャの肩に担がれたのだ。
「ロジャ、これはっ……」
「……」プイッ
ロジャは照れたように顔を背けると、俺を肩に担いだまま高く遠く跳躍して、町の裏手へと俺を連れ去っていくのだった。
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