逸脱者たち 後編(2 / 5)
フェデラ高原の昨日とまったく同じ場所に、やはりロジャは居た。腕を組んで、その大剣を隣に深く突き刺して、他の誰でもない俺を待っていた。
「……待たせたな、ロジャ。昨日は不完全燃焼で終わらせてしまってすまない」
「……」ジーッ
「それと、会いに来るのが遅くなってごめん。6年、長かったよな」
まさか戦争が5年も続くとは思っていなかったとはいえ、全然会いに行けなかったからな。ロジャは俺のことを本当に慕ってくれていたから……その寂しさはきっと簡単には推し量れないものだったろう。
「ずっと鍛錬を欠かさなかったんだな。偉いぞ、ロジャ」
「……」
「改めて……見せてもらおうか。お前の成長を」
「……!」コクリ
ロジャがその大剣を地面から引き抜いた。俺はシバとジャンヌを後ろに下げ、腰の剣を抜く。直後にロジャが加速した。昨日の最後に見せた、人間を超越した速度の動きだ。
「……やるぞ、マヌゥ」
『はいなのですぅ!』
光の粒子が俺の目の周りに集まった。光の瞬きにチカチカする視界の中でしかし──ロジャの動きはハッキリと追うことができる。
「……!」ブオンッ
ロジャが振り下ろしてきた大剣を、ヒョイと横に避ける。
「……っ!」ブブブオンッ
大剣を振るっているとは思えぬスピードでの連続攻撃もまた、俺はすべて避けて見せた。
……目がチカチカとする。でもその代わり、時間の流れがとてもゆっくりだ。
『テツトさん、大丈夫そうでしょうかぁ?』
「ああ。ちょっと頭がクラクラするけど……問題ないよ」
頭の中に聞こえるマヌゥの声に応じつつ、俺はいったんロジャから距離を取ることにする。
──トプン、と。地面の中に潜り込むことで。
「……っ!?」
ロジャの驚きの横顔を、俺はそこから10メートル離れた横の地面から飛び出して目撃した。やっぱ驚くよな、これ。
……これは、マヌゥの力。【
『私は沼から離れられませんのでぇ、どうしたらテツトさんの旅についていけるかを考えたのですぅ。それで思いついたのがぁ……この沼からまったく同質の沼を1センチ横に作り上げる作業を半永久的に行い続ければ、沼自体を歩かせることができるのではないかなぁ、と』
俺はそんなに頭がよろしくないので説明の内容を真には理解できなかったが……要約すると、【どこにでも好きなところに、何でも出し入れ自由な沼を移動することができる】ようになったということらしい。
「さて、そろそろしっかり戦おう。準備はできているか、マヌゥ」
『もちろんなのですぅっ!』
これまで俺の目のみに集中させられていた光の粒子が、俺の全身を覆っていく。体にも溢れんばかりの活力が巡り、バチバチと弾けるようで少し痛い。
『充填完了なのですぅ!』
「おう、サンキュー!」
普段から精霊であるマヌゥの周りを漂っている謎の光の粒子……それを俺が
……マヌゥと【合体】したことで俺にも宿るようになったそれは、俺の体を桁違いに強化してくれていた。
「これで……渡り合える」
ロジャが再びこちらへと突撃をしてくる。俺はそれを正面から剣で受け止めた。力にも速度にも、もはや押されることはない。その次の攻撃も受け止める。受け止める。受け止め続ける。
「……ッ!」
「……ははっ!」
──
「今度は俺の方からいかせてもらうぞ、ロジャ」
態勢を整え直すためか後ろに身を退いていたロジャへと、俺は愛用の剣を囮として投げつける。
「ッ!?」
それはどうやらロジャの不意を突いたらしい。剣は避けられたものの、一瞬ロジャの動きが固まる。その隙に俺は一気に距離を詰めた。
『──【
頭の中のマヌゥの合図とともに、俺の両手に突如として地面から現れた2本の剣が収まった。それらは、名工が打ったものにも劣らぬ鋭い剣。
……【
「はぁぁぁッ!」
「ッ!」
2本の剣で俺はロジャへと攻め入った。上から下から、横から。その連撃を受け止めおろそかになったロジャの大剣を、こちらの2本の剣が折れるのを犠牲に叩き落とす。
『──【
しかし俺の手には再び、地面に突き刺したのとは別の新しい2本の名剣が握られる。それをロジャへと突き付けて……今回は俺の勝ち。この前とは立場が逆転した。
「……ロジャ、強くなったな」
「……」
地面に片膝を着いていたロジャの瞳に映るのは、
「……分かってるよ、ロジャ。【まだまだこんなもんじゃない】、そうなんだろ?」
「……ッ!」
「ははっ、相変わらずすぐに顔に出るよな、ロジャは」
そんなところは昔からぜんぜん変わらない。
……何だか俺は、それが無性に嬉しいよ。
「ロジャ、お前はずっとずっと、どんなヤツが相手でも出し切れないほどの力を持て余してきたんだよな」
「……っ」
「分かるよ……だって俺は、いつだってお前の師匠なんだから」
「……シショーっ……!」コクリ
「ああ。ロジャは俺の一番で、最高の弟子だよ」
俺は手を差し伸べる。ロジャはそれを掴んで、立ち上がった。
「シショー……」
「いいんだよ、ロジャ。今の俺ならきっとお前の全力を受け止められるから……全部出し切っていいんだ。俺がロジャのこれまでの全ての努力を見届けてやる」
ロジャに大剣を握らせる。そして再び距離を空ける。
「やろう、ロジャ。やるだろ?」
「……うんっ!」
「さ、かかってこい。6年前と同じ……手合わせの時間だ!」
「──シショーッ!」
「来い、ロジャッ!」
ロジャは大剣を背負い、押さえきれないような、そんな笑みで俺へと迫ってきた。
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