逸脱者たち 後編(1 / 5)
朝、俺はシバとジャンヌを連れて町を出ようとする……と、
「遅いぞ。やる気あるのか、冒険者テツト」
「えっ……」
町の出口付近、ムスッと不満げなネオンが俺たちの前に現れた。
……昨夜はベルーナに諭されて引き下がってくれたけど、やっぱり内心は反対のままらしいな。
「ところで昨日のやたらキラキラとした変な女は……ん? テツト、お前が侍らせていた女がひとり足りなくないか?」
「っ……!」
「確か……マヌゥといったか? ちょっと聞きたいことがあったんだが、留守番か? 宿で待ってるのか?」
「いえ、宿では待っていないといいますか、今もいっしょには居るといいますか、なんというか……」
どう答えたものかな……。つい、返答に困ってどもってしまう。
「ほほぉ?」
すると耳ざといネオンは、ニンマリといやらしく口を歪めた。
「おいおい、勘弁してくれよ。こんな大事な時に痴話ゲンカでもしたか?」
「いやいや、ケンカとかじゃないんですけど、マヌゥは今日は……」
「くっくっく、若いのはいいがな……時と場合を選べよ?」
「いや、だからそうではなく……」
「天才魔術師であるこのネオン様からひとつアドバイスだ。いいか? ハーレムなんてのは所詮は男の幻想なんだ。女ってのは口では『2番目でもいいから』なんて甘言を口にするが、大概じゃ腹に据えかねて──痛っ!?」
ネオンの後頭部にチョップが振り下ろされ、ゴスンという鈍い音がした。呆れ顔で背後にいたのはベルーナだ。
「まったく、ダル絡みはやめなさい、ネオン」
「ぐっ……ベルーナ! これからテツトにたんまりと女とかいう意味不明な常時恋愛特化型メンヘラ生物たちの支離滅裂な思考回路を聞かせて女性不信にしてやろうかという、とても面白いところなのにっ!」
「なーにが面白いのよ。『常時恋愛特化型メンヘラ生物』なんて偏見も
「うるさいっ! 私は天才魔術師だから例外だ!」
「はぁ……いいからこっちに来なさい」
「くっ……ローブを引っ張るな、千切れたらどうする! 特注品なんだぞ……っ! ぐへっ!」
ベルーナがネオンにチョークスリーパーをかけつつ、俺にウィンクを寄越す。
「ウチのおバカがお邪魔したわね、テツトくん」
「は、はぁ……というか、クロガネイバラのみなさんはなんでここに? ロジャへの対応は1日待ってもらえるって話だったはずじゃ……」
「ええ。手は出さないわ。でも高原には同行させてもらうつもりよ」
「えっ……?」
「だって邪魔でしょ? 他のモンスターが」
ベルーナはそう言って、ネオンを抱えながら先頭で町を出る。
「露払いはクロガネイバラに任せていいわ。あなたたちは周りのことは気にせず、本命だけに集中なさい」
* * *
──午前の高原に、血の雨が降り注ぐ。
「す、すご……!」
モンスターたちを一切寄せ付けることなく討伐していくクロガネイバラのその火力は、他の冒険者チームとは天と地ほどの圧倒的なまでの差があるものだった。
「ハァァァッ!」
前衛のベルーナの持つ、その鞭のような長剣がしなり、周辺の上位モンスターたちを軒並みひと振りで排していく。クロガネイバラのメンバーのもうひとりの戦士職は後衛としてチームの背中を徹底的に守り抜き、聖職者は絶えずそんなフロントサイドたちにバフ系魔術や回復魔術をかけて支援する。
その様子はまるで鉄壁──いや、押し寄せるモンスター全てを弾き返す鉄の
「美しいチームワークですね」
「むむ、ボクたちも負けてはいないと思うけどな~! でも、強いのは確かだね」
ジャンヌとシバもクロガネイバラたちの戦いっぷりに見惚れていた。
……まあ、それも仕方がないか。俺たちはどちらかといえば個々の長所をひたすら戦場に叩きつけるタイプで、クロガネイバラの熟練の戦い方とは対照的なんだよな。
経験を積んでいけば、俺たちもいつかはこんなチームになれるだろうか……?
「──おい、ボサっとしているな」
「えっ……」
俺の隣から飛び出してきたのは、ネオン。浮遊魔術で文字通り宙を翔けると、俺たちの横に集まってきたモンスター群を爆撃のような威力の炎魔術で蹴散らす。
「お前らはこっちの道を先に行ってろ。私たち目掛けて厄介なモンスターたちが向かってきているようだからな。ここで二手に分かれるぞ」
「厄介なモンスター……?」
「おいおい、気づいてなかったのか? 命が惜しければさっさとチームに魔力感知のできるメンバーを入れておけ。もうすぐモンスターが来る……ホラ、お出ましだ」
ネオンが指さした高原の丘の先、ズシンと大きく響く足音を立てながら姿を現したのは──
「先日の魔王軍の幹部、クリムゾン・タイタンほどの力は無いが……知能が高いヤツらだからな。群れ単位での討伐適正ランクは──まあ私かヴルバトラくらいのものだろう」
「クロガネイバラだけで大丈夫か……? 俺たちも少し手伝った方が……」
「ふんっ、愚問だな」
ネオンはそう言うと、身を翻して宙を翔ける。そして先頭の巨人めがけて突っ込んだかと思うと、火薬が弾けるような爆音を響かせてその巨人を蹴りつける。
「喰らえ、
さらに追い討ち。ネオンが巨人の顔面に手を当てたかと思えば、それは七色の炎を散らして弾け飛んだ。ネオンが『どうだ見たか』とばかりに得意げな表情をこちらに向けてくる。
「……うん。まあホントにネオンさんたちに任せて大丈夫そうだな」
「じゃあ、ボクたちはロジャのところに行く?」
「ああ、行こう」
シバとジャンヌを連れ立って、俺たちはネオンが空けてくれたスペースを駆けて、モンスターの密集地帯を抜ける。
「テツトさん……それでその、本当に大丈夫なんでしょうか……?」
走りながら、ジャンヌが心配そうな声音で問いかけてくる。
「これから会う昨日のロジャという方……語弊を恐れず申し上げると、私たちとは強さの【格】が違います。もちろん、神格としてはテツト様の方が上ではありますが」
「だから俺は神じゃないってば」
「それこそ私は昨夜、
ジャンヌの不安げな瞳が俺に向けられた。
「師弟の手合わせ……勝てる勝てないという話ではないのは分かっています。でも、相手にするだけで本来は無謀なのです……」
「確かに昨日までだったらそうかもしれなかった……でも、大丈夫だよ、ジャンヌ。俺はひとりじゃない。これは物理的な意味でな」
そうだよな? 頼りにしてるぞ──マヌゥ。
『任せてくださいなのですぅ~!』
俺の頭の中に、そんな明るい声が響いた。
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