夜を過ごす(with マヌゥ)(1 / 2)
「──どうやってロジャを褒めてあげるか……ぶっちゃけ、それが1番の問題だ」
疲労が溜まっているハズなのに眠れぬ夜。俺はひとり、宿の一室のベッドで横になりながら思考の海に沈んでいた。
……問題はもはや、ヴルバトラをいかに無事に取り戻すかではないのだ。だってもう、俺が1人で行けば確実に取り戻せるもん。
俺はロジャを信じている。あの子は見ず知らずの他人を無理やり拉致して害を与えるなんてことは絶対にしない、と。今回のことはきっと、何か理由があってのことなのだ。
「他ならぬロジャが、かつてはその被害者だったわけだしな……身勝手に攫われるその苦痛がどれほどのものか、誰よりも知ってるはずだ」
だから、もう一度ロジャに直接会えたならば、こちらが武器を捨てて無理やり話し合いの土俵に持っていけば、さすがのロジャも大人しく言葉を聞いてくれるはずだ。
「でもなぁ、せっかくの6年越しの再会なんだよなぁ……もっとこう、特別感がほしいな。ちゃんと褒めてあげたい」
ヴルバトラの安全はすでに保証されているようなもの。だからこそ、これは師弟の間の【褒め方】の問題なのだ。
「ロジャは6年間、ヴルバトラを倒せるようになるくらいのすごい努力をしてたんだ。それなのに、『強くなったかどうかはひとまず置いておいて、とりあえずヴルバトラを返して』って言うのは……ナンセンス過ぎる」
やっぱり理想はこう……弟子と手合わせをして、その成長の証を全部正面から受け止め、
『この6年よく頑張ったな、ロジャ。凄まじい成長だぜ。ロジャは俺の誇りなんだぜ』キラーン
というような主旨のセリフをカッコよく言って、まずはロジャとの再会を心から喜べるものにしたい。
……でも、もうそんな上から目線の言葉は掛けられないんだよな。だって、今の俺とロジャでは実力がかけ離れ過ぎてる。弟子がちょっと……いや、あまりにも強くなり過ぎてしまった。
「俺ときたらロジャの初手を防ぐので精一杯だったからな……成長の証を全部見る前に俺が死んじゃうよ」
どうしたものか……ロジャは、恐らくはまだ全力の片鱗すら見せていないだろうし。
「あるいは……別の方法で特別感を出して再会を喜べるものにする、か」
発想の転換だ。戦闘でロジャに敵わないのであれば、別に気を引けるものでアプローチをするのはどうだろう?
「ロジャの気を引けるもの……剣技以外で……うーん……」
あまり思いつかない。そういえばロジャとは旅しては剣の特訓をしての繰り返しだったからな。
「気を引ける、引ける、引ける……気を引けるってことは、ロジャの好きな物……? 好きな物、モノ、者、人……それはやっぱり、俺か」
ロジャと出会ったのは彼女がまだ11、12歳の頃である。すなわち……俺の【女の子供にモテる】能力がバツグンに効いてしまっていた。懐かれてその内に剣の師匠と呼ばれるようになったのもそれ故である。
「俺が何かをしてあげる、とかか?」
美人になったねと容姿を褒めるとか、ヨシヨシしてあげるとか、あるいは……もっとこう、密接的で肉体的な男女の──。
「って、いやいや。そのスピード感はいくらなんでもやり過ぎか……」
頬をつねって、頭の中に浮かんできたロジャの成長した肉体(自主規制)をかき消す。なんというか……自分の節操の無さにため息が出てくるな。
シバにジャンヌと、立て続けに昔出会った女の子に再会して【そういった関係】になってしまって、ずいぶんと貞操観念が毒されてしまっているのかもしれない。いや、まあ毒されてても別にいいんだけどね。
──シバはとても元気でいっしょに居て楽しい。ハツラツ系の美少女で体力に満ちていてスタイルは抜群……胸もお尻も大きめだ。
──ジャンヌは基本的には大人しくてお淑やか。清楚系美少女でこちらもスタイルが良い。スレンダーなのは、それはそれで最高です。
こんな2人とイチャコラできるという天国よりも純潔バンザイな貞操観念を優先するのか? スマンが俺の答えはNOだ。泣きの1回で手に入れたこの異世界ファンタジーのセカンドライフで、変にガマンして人生を終わらせたくはないからなっ!
「……って、俺はなんで今そんなこと考えてるんだよ……」
俺はロジャをどうやって褒めてやれるかについてを考えていたハズだろうに。どんだけとりとめのない思考をしてるんだ、俺は。
「しかもなんか、ちょっとムラムラしてきたし……」
シバとジャンヌとの色々を思い返してしまったからか、ちょっと下半身が切ない。
……もう今日は何を考えるにもダメそうだ。さっさと寝るとしよう。
──コンコンコン。
「んっ?」
俺がベッドに入ろうとするのと同時に、扉がノックされた。
「えっと……どちら様?」
「あ、テツトさん。あのぉ……マヌゥですぅ」
「マヌゥ? どうしたんだ?」
ドアを開けに行く。
「や、夜分遅くにごめんなさいなのですぅ……」
「いや、別にぜんぜんいいんだが……それより、どうかしたのか?」
「いえ、ただ……テツトさんとお話がしたかったのですぅ」
マヌゥは恥じらうような表情で……しかし、とても期待の込められたまなざしを俺へと向けていた。
……ふむ。これはもしかして……。
「分かった。入ってくれ」
「あっ、ありがとうございますぅ!」
宿の部屋には椅子が一脚しかなかったので、マヌゥを座らせる。代わりに俺がベッドへと腰かける。
「あっ、私もお隣よろしいでしょうかぁ?」
マヌゥがすぐさま立って、俺の隣……ベッドへと腰かけた。そして、俺の二の腕辺りに、抱き着くようにしがみついてきた。距離感はもう、恋人そのものだ。
「えへへっ、こんなにテツトさんが近いのはとっても久しぶりなのですぅ~」
「……」
「ずっとずっと、テツトさんのことを思い返すたびに心がポカポカしてきましたぁ。でも、やっぱり実際に触れると、もっとポカポカしますぅ。胸もドキドキして……」
「……マヌゥ」
「えへ、本当に嬉しいのですぅ……! この5年ずっとガマンしてきましたが……もう、ガマンなんてしなくてもいいのですねぇ。もう、限界ですぅ……テツトさん、どうか私とぉ──」
ゴクリ、俺は音を立てて生唾を飲み込んだ。
──遠路はるばる俺に会いに来て、そして助けてくれたマヌゥ。その日の夜にひとりで俺の部屋を訪れたかと思えば、恋人のように寄り添ってきて、期待のまなざしで俺を見上げている……。
……これはつまりアレだよな? いや、きっと間違いなくアレだ。恒例のパターン。シバやジャンヌが俺に迫って来てくれた時と同じく、俺はマヌゥに誘われているんだよなっ……?
据え膳食わぬは男の恥だ。そうと決まれば行動を起こすのみ。俺は意を決してマヌゥの両肩を優しく掴んだ。
※内容修正について
修正日 :2023/04/20
修正内容:性表現の省略
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