逸脱者たち 前編(4 / 6)
「もぉ~~~! 私なのですぅ、マヌゥなのですよぉっ!」
「……マヌゥ? えぇっ!?」
そのタケノコ系キラキラ美少女は、あの腕のある鍛冶屋たちが集まることで有名なゾロイメイコの町で出会った沼の精霊、マヌゥらしい。
「もう……酷いのですよ、忘れているなんて……!」
「いや、忘れてたわけじゃなくてさ……外見が変わり過ぎじゃないか?」
つい忘れていたとか、そんな言い訳でもなんでもない。本当に一見してそれがマヌゥだとまるで分らなかったのだ。だってマヌゥはジャンヌやロジャと違って……俺が会ったときの面影がまるで無いのだ。
──まず、俺の記憶にある幼いマヌゥのその顔立ちは、美少女ではあったものの、常に眉を八の字にしている感じで、どこか薄幸な印象があった。しかし今のマヌゥは正反対。星が散ったような瞳に幸せ満点な表情で輝きを放っている。
──次にその体。俺が知っているマヌゥの姿は10歳前後の少女のものだったはず。だけどいま俺の目の前にいるのはザ・女性だ。しかも出るところがハッキリと出ている……グラビア雑誌に載っているような、20代前半くらいのそんな美女だった。
「そうでしょうかぁ……? あまり自分で自分の外見を意識したことが無かったので分からないのですぅ……」
「喋り方は昔と変わらないな……だから辛うじてマヌゥだって言われて納得はできるんだけどさ。しっかし……何があったらそんな風に変身できるんだ? しかもあんな攻撃能力まで……俺の知ってるマヌゥにそんな能力は無かったと思うんだけど」
「うーんと……特別なことは何もしていないのですがぁ、でもとにかくいっぱい能力を磨いたのですよぉ。生まれて初めて努力というものをしてみたのですぅ!」
「生まれて初めて努力って……そりゃすごいな、ある意味」
「えへへぇ! がんばったのですぅ! そのせいでか、最近は時間の流れがすごく濃かったなって思うのですよ。たぶんこれまで過ごしてきた3000年近くの日々よりも濃い5年だったのです」
「時間の流れが濃い、ねぇ……」
3000年の日々で10歳前後までしか外見の成長が無かったマヌゥが、この5年で20代前半くらいの年齢の女性の風貌にまで成長しているってことは何か仕掛けがあるんだろうけれど……まあでも、深く考えるのは今じゃないか。
「マヌゥはそれで、あのゾロイメイコの町からわざわざ俺を探しに来てくれたのか?」
「はいっ! テツトさんの生命エネルギーは記録していたので、それの痕跡を追って来たのですぅ!」
「生命エネルギーって……なんだか新しい概念が出てきたな……」
生命エネルギー……ゲームとかでいうところのHPのことだろうか? それはニオイのように痕跡が残るものなのか……? 正直ぜんぜんピンと来ないが……でも実際こうして俺のところに来てくれてるあたり、マヌゥにとっては頼れる情報だったのだろう。
「まあなんであれ、助かったよ。あのままじゃ悪意なくロジャに人殺しをさせてしまってたかもしれないからな……」
「へっ? 悪意なく……? さっきの人間はテツトさんの敵ではないのですかぁ?」
「まあなんというか……長くなるし、町に引き返しがてら話すよ」
俺は小さくアザになったお腹をさするシバとクルクルと目を回しているジャンヌたちの安否を確かめると、みんなで町に向けて歩き出した。
* * *
高原から町までの道のりで特に戦闘が発生するようなことはなかった。ただ、マヌゥのことをシバたちに紹介したり、新しく分かったロジャの目的についてをみんなに話していると、もう夜も近い。そしてフェルマックが言っていた通り、町に到着するとそこには新たな来訪者たちの姿があった。
「あら、テツトくん」
俺たちが取っている広めの宿の1階を占拠していたひと際目立つ集団。その中から歩み出てきたその女性の握手に俺は応じた。
「久しぶり。元気だった?」
「お久しぶりです、ベルーナさん。こちらはまあそれなりにやってます」
「おや、テツトくん? 何やら少し失礼なことを考えてはいなかったかしら……?」
「い、いえっ? 決してそんなことは……」
手を握る力が強くなった気がしたので、俺は必死に首を横に振る。オレ、ナニモカンガエテナイ。ネンレイ、パートナー、キニシナイ。
「そういえば叙勲式が終わったあと、テツトくんの姿だけ見えなかったから少し気になっていたのよ。帝都で馬車は拾えなかったでしょうに。どうしていたの?」
「ああ、それはまあ……誰かさんに一杯食わされまして」
その場に居るフェルマックの方をそれとなく見ると、当人の誰かさんはビクッと肩を震わせた。いくら伯爵家の次男様だろうが、超有名Sランク冒険者チームに不興を買うのは怖いらしい。
「……ああ、なるほどねぇ。なんとなく事情は察したわ」
ベルーナさんは呆れたようなため息を吐くと、俺の耳元に顔を寄せてコソリと話す。
「テツトくんが何をされても動じないし戦果を挙げまくるものだから、目の敵にされちゃってるのよね。彼、勲章なんかもテツトくんに負けたくないからと必死に家におねだりしていたようだし。要は妬かれてるのよ、あなた」
「ああ、そうなんですね。俺はてっきり弱みを握っているからとばかり……」
「弱み?」
「あ、なんでもないです……。にしても、妬みかぁ……」
「心当たりあるでしょ? 確か一番酷いヤツだと、テツトくんに指揮の任された前線の予備武器をぜんぶタケノコに変えられてたらしいじゃない?」
「ええ、まあ。でも古いタケノコはけっこう硬いんで武器になるんですよ」
「まさかタケノコで戦ったのっ!?」
タケノコは突き刺せるし先っちょを持って振り回せば棍棒の代わりにもなるのだ。まあ確かにあれは死線のひとつではあったものの、ハイ・オークくらいであれば余裕をもって撲殺できたからな。何とかなった。
「……その時はさすがのフェルマックも『やり過ぎだ』って普段懇意にしてた上官に怒られていたらしいわ」
「まあさすがにそれは怒らないと軍腐り過ぎだろってなりますね……」
「普通は処刑ものだけど。さすがは伯爵家のご威光、って感じね。まあ、とにかく」
コホンとベルーナさんはひとつ咳ばらいをする。
「次に変な絡まれ方をしたら私に相談なさいね。彼、私には強く出れないみたいだから。私にできることはするわ」
「それは頼りになります。ありがとうございます」
「ん。大事な後輩だからね。お姉さんが守ってやりますとも」
逞しげに胸を叩くベルーナさん。まったくもって性格も良いな、この美人は。漢らしくて、色んな人に慕われる理由も分かろうというものだ。
「──おい、ベルーナ。テツトも。そろそろ役者が揃ったところで、そろそろ本題に入りたいんだが」
「あら、もう? まだ他のSランクも来ると思うけど……」
「要らん。相手が相手だ。来ても足手まといになるだけだ」
鼻を鳴らしてそう言うのは目立つショッキングピンクの派手なローブに身を包み、ネオンブルーとグリーンに髪を染めた派手な見た目の少女──クロガネイバラに所属するSランク冒険者のひとり、魔術師のネオンだ。
「ヴルバトラを倒すほどの力量……相手は【
「アウト……サイダー?」
それは初めて聞く単語だった。シバたちも、フェルマックもポカンとしている。クロガネイバラの面々だけがそれを理解しているようで、顔つきが変わった。
「……ネオン、
「……そうだな」
ベルーナの提案らしきその言葉に、ネオンは少し悩んでから頷いた。
「これは
ネオンはこちらを見定めるようにジッと見つめた後、口を開いた。
「
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