逸脱者たち 前編(2 / 6)
「──なるほど……最後までヴルバトラはお前たちを庇いながら謎の女戦士と戦って、そのまま倒されたと」
「そうだ。私たちはその女戦士に早々に打ち払われてしまっていたゆえ……」
「ヴルバトラは斬られたのか?」
「いや、剣の柄頭で体を打たれて気絶したように見えた。そしてその女戦士に抱えられて高原の奥、森の中へと消えていった」
「ふーん……」
フェルマックからは当時の状況を細かに聞くことができた。時間帯、場所、それに加えて女戦士の特徴などなど……。さすがにフェルマックの中でも【ヴルバトラの安否>自分のプライド】という優先順位はあったのだろう。非協力的なわけではなかった。
……それにしても【親衛隊】ってなんだっけ? 守るのと守られる対象の立ち位置が逆転してない?
まあ俺は大人なので、言わなくてもいい余計なことは言わないけどさ。……いや、言った方がいいのか? 少なくともヴルバトラのためにはなってないし。
「それはともかくとして……じゃ、さっそく行くとするか。シバ、ジャンヌ、いいよな?」
「うんっ! サクっと行って解決しちゃおー!」
「もちろんです。テツト様のお気の召すままに」
というわけで俺たちは歩き出したのだが、
「……は? おいおい、待て待て!」
フェルマックが慌てて止めにかかってくる。
「貴様ら、まさか自分たちだけで行くつもりかっ!?」
「えっ? そうだけど……」
「依頼内容をちゃんと見たのかっ!? 相手は帝国最強の勇者ヴルバトラ様が【敗けた】謎の女戦士なのだぞっ!? 成り立てのSランクとそのチームだけでどうにかなる敵じゃない!」
「ああ、そういうことか」
「夜にはあの帝国一のSランク冒険者チーム【クロガネイバラ】がこの町に到着する予定だ。それからも何人かのSランク冒険者が来るはず。それを待って全勢力で叩くのが確実だろう!」
うーん、まあ確かにフェルマックの言うことはもっともなのだろう。堅実な案であることには違いない。しかし、それは相手が本当に【謎の女戦士】であればの話だ。
……フェルマックから聞いたその特徴は10代後半と思しき見た目の褐色肌の少女。大剣をレイピアのように軽々と振るい、敵ながら思わず見とれてしまうほど流麗な剣技を持っていたそうだ。
「安心してくれ。いちおう心当たりはある相手なんだ」
「は? 心当たり……?」
「とにかく、俺たちは一度その女戦士とやらに会ってみるさ」
「バカな。犬死にするだけだぞっ?」
「犬死にねぇ……ちなみにもうひとつ訊きたいんだけどさ。ヴルバトラが連れ去られた際、親衛隊のメンバーの死者数はどれくらいだった?」
「は……? 死者数? そんなもの聞いてどうすると……」
「いいから。教えてくれよ」
フェルマックは怪訝な顔をしながらも答えた。
「0人だ。ヴルバトラ様の温情と尽力のおかげだろう」
……まあ、そうだろうなぁ。
それはヴルバトラがどうこうって話ではないだろう。俺の知るその謎の女戦士──【ロジャ】はむやみやたらと人を殺すような子ではない。ヴルバトラを攫ったのもきっと何か理由があってのことのはずだ。
まずは久しぶりのロジャに対面して、それを聞き出すところからだな。
* * *
〔ご主人、ご主人っ! それでボクたちはまずどこに行くのっ?〕
町を出て高原に足を踏み入れ、モンスターの死屍累々の山を築きながらシバが訊いてくる。俺は、右手から襲い掛かってくる【
「とりあえず高原のモンスターの量を減らしつつ、ヴルバトラたちが交戦したっていう場所まで行く。これは根拠もない俺の予想だけど……たぶんそこにロジャは居る」
〔ロジャ……その子もご主人の知り合いの女の子なんだよね? しかも半年もいっしょに旅をしてたっていう……〕
「ああ。天才的な剣のセンスを持ってたからな。ヴルバトラを倒せる女剣士といったら、きっとロジャに違いない……っと!」
〔了解っ! それにしてもザコが多いねぇ~~~えいっ!〕
俺とシバはふたりで辺りのゴブリンたちを微塵切りにしながら会話に興じる。
「まあ……そもそもなんで勇者のヴルバトラたちがこの高原に居たのかっていえば、特訓がてらこの高原に大量発生してるモンスターたちを討伐し尽くすため、って話だったからな」
この高原はなんでも昔大きな内戦があった地らしく、たくさんの死傷者が出たことにより元々魔力の淀みが大きいらしい。それに加えての魔王軍の活性化で、もう手のつけられない有様だったそうだ。
〔ブモォォォッ!〕
「こんなキング・オークまで
〔ブモモモモォウッ!〕
「うるさいな」
突進してくるキング・オークに向けて剣を振るう。つい最近習得した【真空斬】だ。一撃でキング・オークの首か落ちる。
「【
ジャンヌのスキルによって緑の波動が高原の一面を包む。俺が感じていた疲労感はたちまちに解消され、ついでに俺やシバか倒したモンスターたちは塵になって消えて空気も軽くなった。
「しかしロジャさん、ですか……。羨ましい子。テツト様と半年もいっしょにふたりきりで旅をしていたなんて。まるで聖書の一節の物語のよう……」
「いや、何度も言うけど俺は神じゃないからね? 聖書に書かれてないからね?」
「いえ、これから私がしたためる予定の聖書のです。『まず
「その切り出し方、俺が創世の神になってないっ!?」
軽口を叩きながらモンスターたちを切り伏せる。
……しかし、なんというか、モンスターに囲まれている現状ではあるがとても余裕があるな?
俺自身の力が様々な苦難を経て高まったこともあるけど、やはりそれ以上にシバやジャンヌという規格外の存在が大きい気がする。
「……たぶん、Sランク冒険者チームの申請も普通に通りそうな気がするな……」
そんな余念を抱えつつ、あらかたモンスターを排除し終える。しかし本当にモンスターの数が多かった。今度、発生源となっている場所を突き止めて、ジャンヌの聖女の力で淀んだ魔力を浄化しておいた方がいいかもしれない。
「さて……いろいろ邪魔は入ったけど、そろそろポイントだな。ヴルバトラたちが戦ったっていう……」
〔止まって、ご主人〕
高原を歩いていると、横を歩いていたシバからストップがかかる。
〔この先、居るよ……ものすごく強いのが〕
これまで陽気な声を弾ませていたシバの声が、突然引き締まった。
「……人か?」
〔うん。たぶん。でも……なんでだろう、そこからちょっと離れた場所から、ボクがこれまで嗅いだことの無いニオイもする……〕
「……? そうなのか。分かった、じゃあ警戒を怠らずに行こう」
シバを正面に、ジャンヌを真ん中に、俺は一番後方で背後に気を配りながら進む。
……謎の女戦士が本当にロジャなのであれば、きっと人のニオイしかしないはずだ。ロジャはアマゾネス部族の子ではあるが、本質的には人間に違いはないのだから。別のニオイがするということは……他にも何かいる可能性がある。
この異世界じゃ何があってもおかしくはない。それがこの10年間で学んだことだ。慎重に行動するに越したことはない。
「誰か、居ますね」
ジャンヌが口を開く。確かに目視できる距離に人影があった。高原の、丘になっているその頂上に仁王立ちをしている。その姿は間違いない。
「ロジャ……!」
俺がそう言葉を発するやいなや、ロジャのその眼が俺たちを捉えた。
「──ッ!」
直後、ビリビリ! と。気迫のようなものが向けられて、俺たちの肌を弾いた。
〔グルルルッ!〕
「よせっ、シバッ!」
俺は反射的に牙を剥くシバを制する。
〔ご主人、でもアイツ……やる気だよッ!〕
「……分かってる」
殺気、ではない。色濃い敵意を感じるわけではない。しかし、ロジャが俺たちへと向けてきたのは間違いなく【戦闘意欲】だった。
「…………」スッ
ロジャが、自分の真横の地面に垂直に突き立てていたナニカに手をやった。ズボッ! という音と共に地面をえぐるようにして引き抜いたそれは……恐らく2mは超えているだろうかという程の大剣だ。それをユラリと持ち上げ、俺に向けてくる。
「ロジャ……! いったいなんで──」
「……ッ!」
ロジャが大剣を肩にかけ、強く地面を蹴った。バビュンッ! という風を切る音と共に、人間を超越した速さでまたたく間に俺の目前まで迫ってくる。
「クッ……! ロジャァァァァァッ!」
振り下ろされたロジャの大剣を受け止めるように、俺は魔力全開の【フォアハンドストローク】を振り上げた。
──直後、空を割るような轟音。ぶつかり合った互いの剣が起こす衝撃波によって辺りの草花が散り、俺の足元の地面は崩れる。
かつての師弟の再会の一声の代わりを為したのは、豪快な
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