逸脱者たち 前編(1 / 6)

ジャンヌと再会した町を後にして、俺たちはさっそく帝国の南部にあるフェデラ高原を目指す。移動に高級馬車をと冒険者ギルド長に勧められたものの、あいにくシバの背中に乗る方がよっぽど速いので丁重に断った。


──そんなわけで、数時間ほどシバに走ってもらったらもうそこはフェデラ高原の近郊だ。


「……懐かしいな」


実はこの辺りには昔立ち寄ったことがある。それは、とある少女と気長な旅をしていた頃のことだ。


「……ロジャ」


正直なところ、冒険者ギルドにおいて依頼内容を知ったときにはすでに目星はついていた。勇者ヴルバトラを倒してしまう程の女戦士、その正体はきっと……元奴隷組織に捕まっていた褐色少女であり、アマゾネスでもあったロジャに他ならない。


……俺が面倒を見た半年ほどの期間だけでもロジャはメキメキとその腕を上達させていた。その成長速度と天性の才能を考えれば、5年以上経った今、勇者ヴルバトラさえも凌ぐ実力となっていても不思議じゃないんだよな。


しかし、いったいなんのためにヴルバトラを拉致したのか、その目的が分からない。とにかくまずは現地で情報収集をする必要が──。


「ねぇねぇ、ところでご主人」


俺が思案していると、人の姿に戻ったシバがワフワフと尻尾を振りながら俺にまとわりついてくる。


「これから助けに行くヴルバトラって子も女の子なんだよね? しかも知り合いなんだよね?」


「ん? ああ。そうだな」


「ご主人、仲の良い女の子が多いんだっ! じゃあヴルバトラを助けたらまたボクたちの旅路が賑やかになるねっ? ご主人、また交尾の相手が増えちゃうのかぁ……」


「え、いや、ヴルバトラはそういうのじゃないんだけど……」


俺は元々非モテなのだ。ヴルバトラだって俺のことは友人以外の目線では見ていないだろう。


「いえ、そんなことありませんよテツト様。世の女性がこんなにも強く優しく素敵なテツト様を放っておくわけがありません。しかも何と言っても神なんですもの」


「いや、だから俺は神じゃないってば」


「女の子は占いや神様が好きなところあります。そのヴルバトラとかいう女性もきっとテツト様への信仰に目覚め、テツト様の虜になるでしょう」


「まるで聞いちゃいないね? ジャンヌは急に耳が遠くなる系ヒロインなの?」


「ご安心ください。子種が尽きそうになってしまったら私の【聖女の回復セイントヒール】があります。これを使いさえすれば、いつも何度でもムクムクと……! ハァハァ……!」


「会話が噛み合ってない上に、だいいち俺はそんなことで悩んでないから!」


どこかズレているジャンヌツッコミを入れつつ、俺たちはフェデラ高原の端に位置する町へと足を踏み入れた。




* * *




その町はだいぶ簡素で、大きな建物は無く、ただ広かった。住民の大半が畜産業で生活しているらしく、町には多様な動物の鳴き声で溢れていて……そんな町並みの中でフェルマックたち親衛隊は居た。


「久しぶりだな、フェルマック」


「……は?」


勇者ヴルバトラ親衛隊隊長フェルマックは俺を目にすると、ポカンとした表情を向けてきた。


「冒険者テツト……? な、なぜ貴様がここに居るのだっ!?」


「なぜって……ギルドからヴルバトラの奪還依頼がきたからだけど」


「バカな……依頼がいくのはSランク上位の冒険者に限るはず……! お前はAランク冒険者だろうっ!?」


「この前Sになったんだよ。お前に足腰を鍛える機会を貰ったおかげでね」


「な……」


口をあんぐりと開けるフェルマック。とんだマヌケ顔だ。帝都で馬車を貸し切られた時の溜飲りゅういんが少し下がった気がする。


「さて、時間も惜しい。とりあえず事件の詳細を教えてくれよ」


「い、いや待てっ! 信じられるか! Sランク冒険者の……それも上位にこの短期間でなるなんてあり得んだろうっ!?」


「でもほら、プレート見てくれよ」


俺は首から下げていた金のプレートを見せる。純金である。冒険者プレートはランクによってその種類が変わる。Dランク冒険者は銅でそこから次第に銀の比率が増え、Bランクで銀プレートに、Aランクで金と銀が混ざり、Sになると純金製になるのだ。


「テツトって名前も彫られてるし、冒険者ギルドの印章も入ってるだろ?」


「ぐ……!? こ、こんなことが……!?」


「ほれ、さっさと当時の詳細情報を教えてくれ。早くヴルバトラを連れ戻しに行かなきゃならんのだから」


フェルマックは悔しそうに顔を歪めながらも、事件当日の状況を話し始めた。

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