厄介な指名依頼
ジャンヌと初めてを過ごした夜。2時間ほど続いた行為の途中で隣の部屋で寝ていたシバも乱入を果たし、そこからさらに丸1日し続けて、そこまでしてようやく俺の局部は鎮まった。全員、精魂尽き果てて泥のように眠り、それから2日。
「──さーて、冒険者人生の再開だな……!」
宿を出て、久々の自由を満喫する。昨日は俺が目を醒ましたことを知った町長やら冒険者ギルド長やら偉い人たちがひっきりなしに挨拶に来たので、気疲れしてしまった。
……どうやら善い行いはすべきではあるが、あまり表沙汰にしてしまうと面倒な時もあるらしい。俺はひとつ学んだよ……。
あ、でももちろん良いこともあった。
『異邦の方……! この前も今回も、この町を救ってくれて本当にありがとうねぇっ!』
出立の際、宿のおばさんには何故だか最後にめちゃくちゃ感謝されたのだ。何でも前回この町に来た時に何やら恩を感じてくれたらしいが……あまり覚えてはいない。でもまあ、誰かの役に立てたのであれば良かったな。
「──ねぇねぇご主人っ! 今日からは何するの〜?」
町を3人で歩いていると、シバが俺の周りを忙しなくクルクル回る。お散歩にテンションが上がってしまったワンちゃんみたいな動きだ。
「お手紙に書いてたジャンヌのことは見つけたし、また討伐依頼を受けるの? ボク、討伐依頼だったら牛系のモンスターを狩りたいかな~~~。お肉をガッツリ食べたいんだぁ」
「シバはホントに肉ばっかだな……ジャンヌは? ジャンヌは何をしたいとかあるか?」
「え……えっ!? わ、私ですかっ!?」
俺が話を振るやいなや、ジャンヌは飛び上がりそうなほど驚いた。……なんというか、ジャンヌの俺に対する反応はずっとアイドルに偶然会ったオタクみたいなんだよな。いい加減俺という存在に慣れてほしい。
「そ、その……私もこの先の旅路について行ってもよいのでしょうか……?」
「えっ」
意外なその返答に、今度はこちらが驚く番だった。だって、そんなの──
「当然、いっしょに来るもんだと思ってたわ……」
「ボクも……」
なぁ? とシバと顔を見合わせて頷き合った。
「ジャンヌ、もしかして他に何か用事とかあったのか? それで俺たちとはいっしょに来られないとか……」
「いっ、いいい、いえっ! そんなわけないですテツト様が私の世界の中心なのですから! た、ただ……私はおふたりの邪魔にはなりませんでしょうか?」
ジャンヌは俺とシバを交互に見やって、言う。
「テツト様が神そのものというのは当然のこととして、シバさんもかの神獣と名高いフェンリル……一方で私はしがないただのエルフですから」
「いや、ジャンヌは聖女っていうめちゃくちゃすごい属性持ってるじゃんか。たとえそうでなかったとしてもさ……俺にとってはジャンヌは特別な存在だよ。お互いに命を助けて助けられたって関係の相手、なかなかいないもんだと思うぞ」
それにこの丸2日、飽きるほど互いの体を抱き合った関係でもある。いや、ぜんぜん飽きないけどさ。
「か、神様……! テツト様、神過ぎる……!」
「いや? 何度も言うけど俺は神じゃないからね?」
俺のそのツッコミは感激に目を潤ませるジャンヌの耳には全然入っていないようだけど、念押ししておく。諦めて受け入れてしまったらジャンヌの中で本当に俺という名の神様が居座ってしまう気がするんだよな……。
「っていうか、ふぇんりる? ってジャンヌさっき言ってたよな?」
「あっ、はいっ。シバさんのことですよね?」
「ふぇんりる、ってなに?」
「えっ」
ジャンヌが固まった。それとは対照的にシバが「はいはいはーいっ! フェンリル、ボクのことーっ!」とぴょんぴょん跳ね回った。
……ん? どういうこと?
──ジャンヌに説明してもらった。どうやらシバは柴犬では無かったらしい。この世界では最強の生物の一角に位置する神獣らしい。
「そ、そうだったんだ……」
「何も知らないでシバさんの心を射止めていたんですね、さすが神」
「いや、だから神じゃないって……それにしても、神獣ねぇ」
シバの頭を撫でる。シバは気持ちよさそうに目を細めていた。一見するとただの女の子にしか見えないけど……俺だってその内に秘めている力の絶大さは分かっている。フェンリルと言われても納得してしまえる。
「まあ、神獣だろうと柴犬だろうと、シバはシバに変わりないけどな」
「うんっ! ボクはボクだよぉ~~~!」
「こらっ、外であんまりじゃれつくなって」
ぎゅむっと抱き着いてくるシバ、シバを引きずりながら歩く俺。そして、その光景を微笑まし気に見守っているジャンヌ。なんだかずいぶんと賑やかになった。俺自身、自分が1カ月前まで独りで冒険者をやっていたなんて信じられないほどに。
「さて、じゃあさっそく3人で初めての討伐依頼受注といきますか──」
と、冒険者ギルドへとやってきて、依頼張り出しの掲示板の前に行こうとするやいなや、
「テツト様……! Sランク冒険者のテツト様……!」
「えっ?」
「突然のお声がけ申し訳ございません。その、ギルド長がお話したいことがあるそうで……」
俺はこの町のギルドの受付嬢に呼び止められて、そのまま奥の事務室まで通されることになった。
「急なお呼び立てをしてしまい申し訳ございません、テツト様」
「いえ、特に予定は無かったので全然大丈夫ですが……何かありましたか?」
「……ええ、冒険者ギルドの本部から、テツト様たちを指名した依頼が届いております」
「指名依頼……ですか」
有名な冒険者になると、依頼者から名指しで依頼をされることがある。それは自分が冒険者として巷で有名になっていることの証であり、とても誇らしいものではあるのだが……。
「冒険者ギルド本部からっていうのが……厄介そうですね。本部から来る依頼はほとんどが重大案件だし……」
「……はい。大恩あるテツト様に、またすぐにこのような大きな案件をお任せすることになってしまうのは心苦しいのですが……私が拒否できるものでもなく……申し訳ありません」
「いや、ギルド長が謝るようなことじゃないですよ。とにかく、依頼の内容を教えていただいてもいいですか?」
「……こちらです」
ギルド長は1枚の手紙を俺に差し出してきた。その紙質は明らかに普通ではない。高級貴族が使うようなものだった。
「そこに、依頼の内容が書かれておりますが……書かれている内容は決して口に出さず、また、他言無用で願います」
「はい……」
そのあまりの念押しに、やはり厄介ごとなのだろうと確信が強まる。
……前回指名依頼を受けたのはBランク冒険者の時。あの時は『奴隷売買組織の壊滅』の依頼で、それもそれで結構厄介なものだったのだ。今回はなんだろう……?
俺は手紙の内容に目を通して──
「はっ?」
俺は一瞬呆然とするしかなかった。
『依頼対象:全てのSランク上位冒険者並びにSランク冒険者チーム』
『依頼内容:【謎の女戦士】に拉致された勇者ヴルバトラ嬢の奪還』
『依頼詳細:帝国南のフェデラ高原付近において勇者ヴルバトラ嬢とその親衛隊が【謎の女戦士】に遭遇、襲撃を受けた。交戦の末、勇者たちは敗北し、勇者ヴルバトラ嬢のみが拉致された。犯人の目的、ヴルバトラの消息は不明。なお──』
……。
……。
……。
「ウソ、だろ……」
書いてある内容は理解できるが、いや、しかし、信じられない。
「あのヴルバトラが、負けた──?」
俺は驚きのあまり、開いた口が塞がらなかった。
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ここまでお読みいただきありがとうございます。
次はタイトル未定ですが残りのヒロインは全部出てくる予定です。
またまとめて更新します。更新日は近況ノートでお知らせします。
☆評価やフォローお待ちしております。
それでは~!
※内容修正について
修正日 :2023/04/20
修正内容:性表現の省略
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