異邦の救済者
とある平野にあるその町は、つい最近までオークと
「あぁ~平和って、幸せぇ~~~!」
冒険者ギルドのベテラン受付嬢のサラサは、受付カウンター内の椅子の背もたれに大きく寄りかかって、ググッと伸びをした。
「テツトさんたちのおかげで助かったわ、本当に……それにしても各所で溜まってた討伐依頼もたったの1週間で片付けるなんていったいどうやったのかしら……馬車での移動だけで2週間はかかるはずなのに……」
とはいえ、モンスターの討伐証明もしっかりあるので、仕事をしっかりこなしているのは間違いない。
「まあ、細かいことは考えなくていいわよね……後の問題は、畑の作物の成長不良かぁ。まあでも、悩みがそれだけになったというのは大きいわね」
他の町では今もなお冒険者不足に苦しみ、モンスターの脅威にさらされている町がほとんどだ。この町における高難度の討伐依頼を全てこなしたテツトたちは今、そんな町々を転々としている最中だ。
「なんでもかんでもテツトさんたち任せにするわけにもいかないものね。テツトさんたちが帰ってくるまでに畑の課題は解決しておくことにしましょう」
サラサは受付の業務をあらかた済ませると外に出る準備をする。その目で作物の様子を見て、他の町にいる専門家へと手紙で状況を伝えるためだ。
──そこに、チリン。とギルドの扉を開ける音がした。
「あ、いらっしゃい、ませ……?」
サラサが途中まで言いかけて首を捻ったのは、その来訪者がこの辺りでは見かけない女性だったからだ。しかもフードを目深に被って、顔があまり見えない。
「えっと、なにか冒険者ギルドに何か御用でしょうか? ご依頼の張り出し要望とか?」
「……いえ」
フードの女は辺りを見渡して、少し気落ちするような素振りを見せる。
「あの、誰かをお探しですか?」
「……ええ。テツト、というAランク冒険者がこの町にいらっしゃるかと思うのですが」
「ああ、はい。確かにこの町を拠点にされていますよ。あと今はAではなくてSランクですね。【
「S……いつの間に」
「ついこの間キング・オークの討伐をした件と、戦争での功績を鑑みられてSへの昇格が認められたんです」
「……すごい、さすがはテツト様……。二つ名というのは……?」
「Sランクの中でも上位に所属する冒険者のみに与えられる称号のようなものなんです。テツトさんはこれまで帝国の各所で人命や町村の存亡に関わるような依頼を、フラリとひとり訪れては解決していった方なので……【異邦】がその体を表す名に相応しいのではと冒険者ギルドの本部が判断したようです」
「……確かに。そういう方でしたね、テツト様は」
女はそのフードの奥で微笑んだ……ようにサラサには見えた。
「あの、もしかしてテツトさんのお知り合いの方でしょうか?」
「ええ、そんなところです。ですが、知り合いと言うにはあまりに共有した時間は短く、そして受けたご恩は大き過ぎる……」
「? え、えーっと……残念ながら、テツトさんはしばらくの間は他の討伐依頼が溜まっている町を転々とする予定のようなので、この町には当分帰ってこないかと」
「……なんと」
フードの女はそれを聞くや否や背を向けた。
「貴重な情報をどうもありがとうございます。それでは私はさっそく旅立たねばなりませんので、これで」
「あ、はい……」
「ところで、話は変わりますが、この町にはずいぶんと邪気が溜まっているようです……最近まで何か大変なことが?」
「えっ? ああ、はい。そうですね」
サラサはかくかくしかじかと、町がモンスターたちによって存亡の危機に立たされていた話をする。
「なるほど、それでこんなにも淀んだ魔力が……」
「えっ?」
「テツト様が過ごす町だというのに、このままにしてはおけません」
フードの女は、そのマントの内側から細長い木製の杖を取り出すと、その石突き部分でしたたかにギルドの床を打った。
「【
瞬間、サラサはこの冒険者ギルドの窓という窓が全て開けられて、美しい緑の空気が吹き込んでくるような錯覚に囚われた。
「……えっ、今のは……!?」
「これでもう、大丈夫で……くっ」
「ちょ、ちょっと!?」
フードの女がよろめいて倒れそうになったのでサラサはとっさにその体を支えに行った。その際に女のフードが脱げ、その下の顔があらわになる。
──それはまごうことなき美少女だった。とても色白な肌に白金色の髪、サファイアのように輝かしいブルーの瞳、そして何よりも特徴的な尖ったその耳は……
「う、うそ……! あなたまさか……!」
「……私のことは、誰にも話さないで」
「えっ……」
「今は誰にも捕まるわけにはいかないのです。この命が尽きるその前に、ひと目、テツト様に……」
フードの女はそれだけ言うと、呆然と立ち尽くすサラサを置いて、苦しそうにしながらも冒険者ギルドを去っていった。
「……エルフが、なんでこんなところに」
ギルド内に取り残されたサラサはひとり、そう呟いた。
──エルフ。それは数十年昔に帝国内で、人間と種族を挙げての内戦を繰り広げた亜人種である。エルフは負け、帝国内のそのほとんど全てが葬られたはずだった。生き残りが居たとしても人間を酷く嫌っているから人里に降りてくることなど絶対に無いハズだ。
「テツトさん、いったいエルフと何があったというの……?」
胸中に不安がよぎる。サラサは『エルフの少女がテツトさんを探しているようです』と手紙をしたためる。エルフの反応から他者にその存在がバレるのはマズいのかもしれないと考え、厳重に封をした。
……これからテツトさんが寄るであろう冒険者ギルドに手紙が渡れば、たとえ入れ違いになったとしても、ギルドがその次にテツトさんが向かう町を知っているだろうから……最終的には本人にたどり着くはずだ。
「変なことにならなければいいけど……」
サラサはそれから予定通りに作物の元気がないという畑へと視察に向かった。しかし不思議なことに、そのどの作物もが新しい命を得たかのようにツヤツヤと元気を取り戻していた。
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ここまでお読みいただきありがとうございます。
また、たくさんの応援ありがとうございます。
次回の話はエルフメインのエピソード。タイトルは【淵緑の呪術神】です。今回と同じくキリの良いところまでまとめて更新します。
更新日は近況ノートで告知しますので、チェックいただければ嬉しいです。
また、フォローや☆評価などお待ちしております。
今後ともよろしくお願いしますー!
※性描写について
ハーレム作品なので、物語の進行上、必要に応じて性描写は今後もやっていこうかなと思っています。※ガイドラインは守りつつ……。
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