ある町の救世主(4 / 5)

人喰いを一掃したあと、俺たちは北の山にオークたちが生息していることを確認して、町へと帰ってきた。山は他の動植物も生活をしていることもあって、シバの力で軒並み吹き飛ばしてしまうことができなかったのだ。


だから俺は町に来るオークを正面から迎え撃っての殲滅戦を行うことに決めた。夜、ヤツらの方からこの町に来てくれるのならば都合がよい。


「というわけで、CランクとDランクの冒険者諸君。初めましての人は初めまして、久しぶりの人は久しぶり。Aランク冒険者のテツトだ」


今回、オーク殲滅戦をするにあたって冒険者ギルドに声を掛けて、10人程度の冒険者を貸してもらった。本格的な戦闘になるということもあり、念のため俺以外の冒険者たちには町や人への被害を最小限にするために動いてもらおうと考えたのだ。


「で、でもテツトさん……本当にオレたちは参戦しなくて大丈夫なんですか?」


「ああ。話の行っている通りだ。町の外に出ての戦闘は俺たちだけで行う。お前たちは仮にオークたちが町の内部に入ってしまった場合に備えて、住民の避難指示や保護にあたってほしい」


「人喰いたちは……もう倒したっていうのは本当なんっすか?」


「ああ。討伐証明は持って帰っているし、それをギルドの方で確認してもらったから今こうやってオーク殲滅戦に臨もうとしてるんだ」


冒険者たちから「おおっ!」という希望に満ちた声が返ってくる。


「人喰いたちを倒せたテツトさんなら、オークたちも……!」


「ああ、絶対に俺たちがなんとかしてみせる」


「……頼みました、テツトさん。本当に気を付けてくださいね。オークは数十体はいます。それにキング・オークだって……。アイツに何人やられたか分かりません。その中には、テツトさんと同じAランク冒険者もいました。」


「キング・オークか……」


「討伐推奨ランクは……Sのモンスターです。個体としての強さは人喰いの王を凌ぎますよ」


「ああ、分かってる。その上で任せてくれ」


その存在は昼に人喰いの王キング・グールーの姿を確認したときから予想はしていた。人喰いの王が率いる群れとオークの群団が渡り合っていたのだとすれば、居て当然だろうと。


「……分かりました。我らが町1番の冒険者のテツトさんがそう言うなら信じるっす! ……あと、それともうひとつお訊きしたいんですけど……」


「なんだ?」


「そちらの女の子は、いったい……?」


まあ、そりゃあ気になるよな。俺の横にさっきからずっと、武器も何も持たない犬耳と尻尾の生えた女の子が立っていれば。


「ボク? ボクはねぇ、ご主人の奥さん候補でーすっ!」


「シバ、お前なぁ……」


シバが明るく、勝手なことを述べるのでついため息が出る。いや、結婚申し込みを完全に否定したわけじゃないから候補っていえばたぶん間違いではないんだけど。


「えー、冒険者諸君。まあ今のはこのシバのちょっとした冗談で──」


「あのまるでモテないテツトさんに、とうとう恋人が……!」

「それもすげぇ美少女だ……!」

「よかったなぁテツトさん、長い女日照りが解消されて……!」


「──コラ、お前ら」


俺が戦争に徴兵されるまでの間よろしくやっていた親しい冒険者の男衆がめちゃくちゃ言ってくれる。……いや、これまで全然モテなかったのは否定しないけどさ!


「シバは俺の……今はチームメイトみたいなもんだ。こいつはこの見た目に反して相当強いから、お前たちは心配せずに自分の配置場所をしっかりと守るように」


「チームメイト、っすか」


「そうだ。それがどうかしたか?」


「え、いや、別に……」


「……? なんだよ、歯切れ悪いな」


「いや、ホントになんでもないっす! ただ、それに関しても良かったなぁって」


「良かった、って……なにが?」


「そりゃ、テツトさんが背中を預けられる人を見つけられたことですよ。そうだよなぁ、みんな?」


その冒険者の言葉に、他の冒険者たちも頷き合っていた。


「テツトさん、この町の冒険者になってからすごい速度で成長していって……俺たちじゃ足手まといにしかならないから、早く釣り合う人が現れてほしいって思ってたんすよ。だから、ようやく本当の仲間と出会えたんだなって、ちょいと嬉しかったんです」


「……お前ら、そんな風に思ってくれてたのか……」


「いやぁ、すみませんね。ホント俺たちの勝手な心配でして」


それから、みんなは口々に「良かった良かった」とワイワイ言いながらそれぞれの配置場所へと向かっていく。


……まったく、これからオークが来るってんだから、自分たちの心配をしろっての。ホント、仕方のないヤツらだ。


「ご主人……この町の人たち、良い人だねぇ」


「……だな」


「ご主人……ひょっとして泣いてる?」


「ぐすっ、別に泣いてないし……」


久々に帰ってきた町と、そこでかつて共に過ごした冒険者仲間たちの温かさにどうやらエモがバカになってるようだ。じんわり涙がこぼれてくる。


……今日はマジでいくぞ、俺は。ひとりの犠牲者だって出してはやらん。

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