非モテ俺、【女の子にモテる】転生特典もらっても非モテ。もうモテ路線は諦める。それより子供たちが困ってるみたいだし助けに行くとするか(10年後、何故か急にハイスペック美少女たちにモテ始める)
困ってる子供4号 埋め立て直前の沼の精霊ちゃん(3 / 3)
困ってる子供4号 埋め立て直前の沼の精霊ちゃん(3 / 3)
「──ふぅ、ゴウマンさんも野次馬も全員消えたな?」
10分もするとその林の正面からはすっかり人波が引いて、もう誰もこちらに関心を寄せる人はいなかった。
「あっ、あのぉ、お兄さん!」
「俺の名前はテツトだ」
「テ、テツトさん……この度は本当にありがとうございましたぁっ!」
ペコリ、と精霊の少女が頭を下げてきた。
「いいさ。別に頭を下げるようなことじゃないよ。それに俺にだって下心があったわけだからな」
「し、下心……というと、やっぱりエッチなことなのでしょうか……!」
「違うっ!」
何度も言うが俺はロリコンじゃないっ!
「君に訊きたいことがあるって言ったろ? えーっと、名前は……」
「名前は別にないのですぅ。みんなには沼の精霊って呼ばれるくらいでしたし、母からも名付けられた記憶はないのでぇ」
「ふーん、精霊ってそんな感じなのか。でも沼の精霊って呼ぶと長いし、じゃあ今日から俺はマヌゥって呼ぶよ」
「沼を反対に読んでマヌゥっ!? あ、安直なのですぅっ!」
とまあ、そんな感じで自己紹介も済んだところで、俺はマヌゥと共に、マヌゥたち精霊が代々守ってきたという沼までやってきてその
「えっ? 『精霊がどうやって人間を強くするのか知りたい』……ですかぁ?」
「ああ。とある天界のスジから漏れ聞いてな。俺がこの世界を生き抜くためには精霊という存在がキーになるっぽいってことが分かったんだ」
そう、それは例の女神との会話での出来事だ。いかにも口を滑らせたという感じで【精霊】というワードを口にした彼女は、天界警察に連行されていた(たぶん)。
「精霊には人間を強くするスキルか魔術が何かしらがあるんだと思う! だから頼むよ、何か知ってたら教えてほしい。魔王軍との戦いが近いんだ!」
「えーっとぉ……ごめんなさい。ちょっと心当たりがないのですぅ」
「……マジで? こう、手をかざしたりしたら俺にめちゃくちゃパワーがみなぎったりとかしない……?」
「し、しないのですぅ。そ、そもそも、私が使える能力はそういった系統のものではありませんのでぇ」
「……マヌゥは知らなくても他の精霊は知ってるかも。ちょっと知り合いの精霊に声をかけてもらうことってできる?」
「ほ、他にも精霊っているのですかっ? 私、自分以外の精霊はお母さん以外に会ったことがないですぅ!」
「……」
ガクリ、と。俺は膝から崩れ落ちるしかなかった。
……日本の価値にして億を超えるだろう宝石を犠牲にして、収穫ゼロ……!
「メンブレ案件だわ、これ……しかも今までより感情の伴わない喪失感がめちゃくちゃデカいぞ……」
これがもしかするとギャンブルで大金をスッた人の感覚なのだろうか? できれば一生知りたくはなかったが……。
「ごっ、ごめんなさいなのですぅ! あのっ、やっぱりエッチなことしておきますかぁ……?」
「それは要らん、本当に興味が無い……」
「即答されるとキツいですぅっ!」
マヌゥがなんか言ってるが、今の俺は絶望でそれどころじゃない。
……あー、キツい。メンタルが相当傷ついてる。あー…………。
「……とはいえ、失ったのは所詮ただの金だしな。それに自分が生き残るためのひとつの手段として消費したわけだし、必要経費と言えなくもない、か……よしっ」
俺は体を起こした。
「オッケー、もう大丈夫。とりあえずマヌゥの能力がどんなのか見せておくれよ」
「メンタル回復が異常に速すぎませんかぁっ!?」
なんだか驚かせてしまったようだけど、ゴメン。これが俺の平常運転なんだ。ただ、異世界に来てからは色々とあり過ぎて、さらに回復力の強さに拍車がかかってる気はする。最近はものの数分でメンブレ状態から回復するようになったからなぁ。
「コホン……まあ、その、立ち直っていただけたならよかったですぅ。では、能力についてですがぁ……私の精霊としての能力はこういうものなのですぅ」
マヌゥは目の前の沼に手をかざすと、「ふぬぅっ!」と可愛らしく力を込めた。すると……
「おぉっ!?」
沼からブクブクブクっと、何か変な鉄の塊みたいなのが浮かび上がってきた。
「よいせっ、よいせっ、よいせっ……!」
マヌゥは沼からそれを引きずり上げて、俺の目の前に置いた。
「なんだ、これ……?」
その鉄塊は所々が錆びついて真っ黒になっていた。辛うじて分かるのは形。何だか十字架みたいな……それにしたって古臭い。どっかの教会が潰れたことでこの沼に捨てられた廃材って感じだ。
「まさか、沼に不法投棄されたゴミを浮かび上がらせる能力なのか……!?」
「ゴミじゃないのですぅっ! これは、剣なのですぅっ!」
「剣っ!?」
「私がいま、この場で作り出した剣なのですぅ……」
ワタシガイマ、コノバデツクリダシタ、ケン……
「……えっ? どういうこと? ゴメン、理解できない……」
「わ、私の能力は【
「それでいったいどうして粗大ゴミができるんだ?」
「粗大ゴミじゃないのですぅ……それが私が作り出そうとした剣なのですぅ! でも、不器用でぇ……」
「ぶ、不器用ってレベルか……?」
「馬なら作れるのですけどぉ……」
「
ブクブクブクっと、ナポレオンが上に乗っていそうな感じの、めちゃくちゃリアル志向な馬の彫像が沼の上に浮上していた。プロの芸術家レベルだ。
「なんでこのレベルの馬が作れて剣がダメなんだ?」
「興味が無いと全然ダメなのですぅ」
「……そうかい」
それはまあ仕方ない。格言にもあるように、『好きこそものの上手なれ』ってやつなんだろう。
「それに、不器用だろうが不器用じゃなかろうが、どっちみちこの能力じゃ人を強化するっていうのはできなさそうだしなぁ……」
「お、お役に立てず申し訳ないのですぅ……」
「いや、それはもう気にするな。もともと俺が勝手に期待してただけなんだから。それよりも……もっと何か他に精霊についての情報を知らないか?」
「精霊についての情報、ですかぁ……」
俺はポツポツと思い出すようにして話すマヌゥの言葉に耳を傾けた。
──結論から言えば、ほとんど収穫らしき収穫はなかった。
マヌゥはそもそも母以外の精霊を知らなかった。ほとんどの時間は何も考えずに宙にプカプカ浮いてるとか、ご飯は食べないウンチはしないとか、沼で溺れそうになってた小鳥をつい50年ほど前に助けたとか、他愛もない話ばかりだった。
「あ、あとは……精霊は【恋】をすると【進化】するという話をお母さんから聞いたことがありますぅ」
「進化?」
「はい。進化すればお母さんみたいに強くなれたんですけどぉ、私はまだ恋ってよく分からないですし……相手もいないのでぇ」
「ふーん」
それからは、本当にただの雑談だけが交わされた。マヌゥの話を聞き終わると、俺が転生してきたことだったり、これまでの旅についてを話したりして……結構盛り上がった。
「ふふっ……男の人とちゃんとお話するのは初めてでしたがぁ、とても楽しかったですぅ。テツトさんといっしょにいると、なんだか心がポカポカしますしぃ……」
「そうかい。そりゃあよかった。とはいえ、もうそろそろ俺は行かなきゃだ」
「えっ……? もう、なのですかぁっ!?」
マヌゥがとても寂しそうな目で俺を見上げてくるけど……しかし時間は有限だ。
「もうすぐ、魔王軍との戦いが始まるんだ。俺はそれに備えなきゃならない。だから……また来るよ。そしたらその時に今日の続きを話そう」
「あっ……」
じゃあな、と別れを告げて俺はマヌゥと沼に背を向けた。
……まあ、本当に収穫は無かったけど、でもあの宝石の使い道はこれでよかったんじゃないかな。マヌゥは変わらずこの場所で過ごせるわけだし、俺もいい話し相手ができたし。そう思うことにしよう。
俺は余りの金でゴウマンの店で剣を含めた装備を一新すると、ゾロイメイコの町を後にした(ゴウマンは機嫌が良くて装備をめちゃくちゃ安くしてくれた)。
* * *
「……テツトさん、本当に行っちゃいましたぁ……」
マヌゥはひとり残された沼の畔で、ポツンと立っていた。
「私もいっしょに行きたかったなぁ……って、アレぇ? なんでだろう、私、この沼から離れたいなんて思ったこと、一度もなかったのにぃ……」
……この沼を持ち運ぶことができたら、私もどこへだって行けるのになぁ。
「……そうだぁ。じゃあ、【この沼からもうひとつの沼を作り出せる】ようにすればいいんじゃないかなぁ?」
……そうだ、そうすれば沼を持ち運べる。そうなれば私もテツトさんにもついていけるようになる。ずっとお喋りしていることができるようになる。
「テツトさん、剣が作れないのを残念そうにしていたなぁ……じゃあ、それも作れるようになったら、喜んでくれるかなぁ……?」
マヌゥは今、3000年の月日の中で初めて『無条件に自分以外の誰かのためを思って何かをしたい』と考えていた。
「不思議……この気持ちはどこから来るんだろぉ……? 心がぽかぽかして、止まらない……!」
──それからマヌゥは自身の能力【なんでも沼】を使って、ひたすらに沼の生成と剣の生成の練習をし続けることになる。精霊は食べない、排泄しない、そして眠らない。だからこそ練習は続く。365日24時間、一瞬も休まずに。
「すごぉい……テツトさんとまた喋りたい、いっしょに居たいって思うだけで、いくらだって集中できちゃいますぅ……!」
そうして瞬く間に5年という月日が過ぎたとき、マヌゥの姿は変わり果てていた。それは、とても良い意味で。精霊の成長はこれまで過ごしてきた時間の密度によって決まる。恋は盲目ゆえに……精霊の時間の密度を跳ね上げて
それをテツトが知ることになるのは、もう少し先のことだ。
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