困ってる子供4号 埋め立て直前の沼の精霊ちゃん(2 / 3)

筋骨隆々のイカつい木こりに軽く尻もちを着かせてやったところ、ゴウマンはだいぶたじろいでいた。


「テ、テメー……! その身のこなし、まさか高ランクの冒険者かっ!」


「まあ、そうですね。なり立てのAランクですけど」


「じ、実力行使でオレに言うこと聞かせようってか!? 言っておくがなぁ、俺の店はSランク冒険者たちが御用達ごようたしの老舗だぜっ!? 妙なマネしやがったらソイツらが黙っちゃいね──」


「は? いや、別にそんなことする気ないですけど?」


というかもうすでに俺は剣を鞘に収めてるしな。


「文明人なんだから、話し合いでケリを着けようじゃないですか」


「くっ……剣を抜いてたやつが言うセリフかよっ!」


「おいおい、話し合いを途中で切り上げて木こりに斧持たせて実力行使に出ようとしたのはそっちが先でしょう? だから俺が剣を抜く羽目になったんだ」


「それはッ……もう話すことが無かったからだろうがッ!」


ゴウマンが顔を真っ赤にして、誤魔化すように怒鳴った。


「何度も言うがこの土地の権利はオレの手にあるんだ! この精霊のガキがオレにもたらすものなんて何もェッ! だが林と沼を潰せば土地が手に入り、その土地は金になる。じゃあ金にする以外の手は無ェだろうが!」


「だからって妥協案も何も考えず、先に住んでた相手を自分の利益のために一方的に追い出していい理由にはならないでしょう。できるかできないかって問題じゃない。倫理的に問題アリだ」


「倫理で飯が食えりゃ商人なんてこの世にいねーんだよっ!」


「……はぁ」


どうやらこのゴウマンは頑なに自分の意思を曲げる気はないらしい。まあ、それならここまで言い争いがヒートアップすることもなかったんだろうしな。


「うぅ……。私の沼……埋められたくないのですぅ……」


精霊の女の子が泣きべそをかきながら俺の方へとやってくる。


「お願いしますぅ、よく見たらすごくカッコイイお兄さん、どうか私の沼を救ってくださいぃ……! お礼はきっとしますのでぇ……!」


「ぐっ、やめろ……! 『よく見たらカッコイイ』は女の子が脈ナシ非モテ男子に使う言葉ランキングTOP3にランクインする言葉なんだ……」


「なんだかすごいダメージを受けてるのですぅっ!? で、でも私の本音なのですよぉ? これまで人間に対しては1度もそんな感情を抱かなかったのにぃ、不思議とホントにカッコイイと思うのですぅ……」


「……いいよそんなウソ言わなくても。俺もともと非モテだし、それに俺の特殊能力は人間以外には効かないって証明されてるからさ」


俺の【女の子にモテる】特殊能力を持ってからの異世界生活1年目、その時には人間の女児に嫌というほど追い回される経験をしていたので人間に対して効果がバツグンというのは分かっている。しかしそんな中でも柴犬のシバとエルフのジャンヌには別だった。シバにはペロペロ顔を舐め回されてたけど、それはワンちゃんとして並み程度の愛情表現だったし、ジャンヌも別に俺に気がある素振りは……なかったよな?


「だからお世辞は別に要らない。その代わりに助けたらいろいろと訊きたいことと……もしかしたら力を貸してほしいってことがあるかもしれない」


「え、えぇっ!? 助けてくれるのですかぁっ!? 是非よろしくお願いしますぅ! 助けてくれるのならなんでもするのですぅっ!」


「……仮にも女の子なんだし、今後は『なんでもする』って言うのはやめような?」


俺はロリコンじゃないから関係ないけど、この子も結構な美少女だし、人が人なら一発で児ポ案件待ったなしだから。まあこの精霊少女が本当に3,000歳超えてるなら児ポ対象ではないかもしれんが絵面的には完全アウトだ。そういうのはエロ漫画の中だけにしよう。


「おいおい、冒険者の若造! あたかもオレにこの土地を潰させない前提で話を進めてるのはいったいどういう了見だぁッ!?」


今にも胸ぐらを掴み上げてきそうなほどに息巻いて、ゴウマンが近づいてくる。


「テメーら冒険者の中にはよぅ、普段から腕っぷしをチラつかせてオレたち商人をゴリ押しできると思ってるヤツらもいるがなぁ……この街の商人を舐めてもらっちゃあ困るぜっ? こちとら毎日、威圧的に値切りにくるイカつい冒険者とバチバチにやり合ってんだッ!」


「いや、だから別に腕ずくで解決しようとなんてしてないですってば。要はゴウマンさん、アンタは金さえあればこの土地に関しては何も言うことがないってことだな? なら話は簡単だ」


俺はこれまで服の内側の小さなポシェットに入れていた、ソレを取り出して見せる。直後、ゴウマンが目を見開いた。


「お、お前……そいつはっ! この世界でまれにしか発生しないダンジョンのみで採取可能な、その中でも超激レアの【世界樹液の結晶ユグドラシル・アンバー】じゃねーかっ!」


「しかも鑑定書付きだぜッ!」


「なっ、なんだとぉッ!? そんな超激レア宝石をいったいどこで……!」


「ついこの前ダンジョンに遭遇したんですよ。そのダンジョン化した村の住民を全員救出してる時に偶然拾いました。売るかどうかでも悩みはしたけど……決めましたよ、俺は」


「なっ……何をだ!」


「ゴウマンさん、この世界樹液の結晶ユグドラシル・アンバーで、アンタのその土地を買わせてもらうッ!」


「……ッ! テメー……!」


ゴウマンはギリッと奥歯を噛み締めたかと思うと、


「お買い上げありがとうございましたァッ!!! 太っ腹のお客様ァッ!!!」


ゴウマンはめちゃくちゃ綺麗な直角にお辞儀をして、土地の権利書を差し出してきた。

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