困ってる子供4号 埋め立て直前の沼の精霊ちゃん(1 / 3)

異世界に転生して4年半の月日が流れた。


俺は奴隷売買組織の壊滅やオーガ集団の殲滅、村のダンジョン化現象の解決などの成果が認められ、冒険者ランクAになっていた。


「あと……とうとう魔王軍との戦いの日が迫ってきましたよ、女神様」


『ようやくか! 長かったのぅ……』


頭の中に女神の呆れ声が響く。俺は今、またもや『神託を受けた!』と興奮気味の神父に教会へと引きずり込まれ、女神へと近況報告中なのだ。


『いつになったら魔王討伐に向かうのやらとゲンナリしておったところじゃぞ』


「いやでも、機会は考えないと……さすがに俺ひとりじゃ勝てるはずもないでしょう?」


『まあそれはそうじゃが……しかし魔王軍と帝国軍の全面戦争か。ずいぶんな事態になったものじゃ。おぬしは隊長やら指揮官やらでも任されるのか?』


「えっ? いやまさか。まだ役割とかは知らされてはいませんけど、多分ただの兵士ですよ。帝国には有能な指揮官多いってウワサ聞きましたし」


『……え? ふ、ふむ、そうか……』


「? どうしたんです?」


なんだか突然に声色が暗くなった気がするんだが……。女神は咳払いをする。


『いや、なんでもない。我は神ゆえに、使命を授けた後は必要以上に人間と関わってはならぬのだ。特に未来の話と世界の核心に迫る秘密は禁足事項。だからおぬしを待ち受ける未来を教えるわけには……いや、でもなぁ……』


「なんかもうめちゃくちゃ不穏な事態が待ち受けてそうだなってのはその口調から察しましたけどね」


『我はおおまかな未来は分かるが、個人個人の未来を見通せるほどの神通力は持っていないのでな、具体的におぬしに何が起こるかまでは分からぬが……まあ、その、気をつけることじゃ。希望を持って、な? 最期まで諦めずに!』


「その十中八九死ぬだろうけどいちおう気遣っておこう、みたいな雰囲気出すのやめてくれませんかっ!?」


恐らくは帝国側の兵士が大量に死ぬかなにかするのだろう。俺もそれに巻き込まれるのかな……。


「はぁ……」


辛……メンブレするわぁ……。俺、いったいどんな殺され方すんのかなぁ……痛いの嫌だなぁ……。


「……ま、いっか! いまから考えても仕方ないし。戦争は半年後なんだから、それまでに俺が強くなっとけばいいだろ」


『相変わらずメンタル回復が爆速なんじゃわ、おぬし』


女神が呆れたように言う。


『言っておくが半年なんてあっという間じゃぞ。せいぜいその世界で手っ取り早く強くなりたいのであれば精霊を探すくらいはするんじゃな』


「精霊?」


『なんじゃ知らんかったのか? 確かそっちの世界にはいるはずだった気が……あっ、しまった。これも禁則事項か……?』ウゥ~~~ッ‼


「えっ? 女神様? なんかパトカーのサイレンみたいな音が聞こえるんすけど?」


『ヤベッ、天界警察来たッ! もうダメぽ──』


「女神様ぁっ!?」


……それっきり、女神様の声は途切れた。なに? 捕まったの?




まあいくら気にしても天界の状況が分かるわけでもない。俺はそんなわけで教会を後にして、まずは装備を整えに行くことにした。




「もう鉄の剣も3年近く使い込んでボロボロだからなぁ……」


愛着もあったし、出来るだけ研いでずっと使っていたわけだが、さすがに死ぬかもしれない魔王軍との戦争で出し惜しみをするわけにもいかない。


「装備するだけで身体強化される防具とか魔剣とかあるらしいし……生存率を上げられるためにできることはしておこう」


そういうのは軒並み高価なので俺はまだひとつも持っていなかった。でも、今の手持ち金であれば……買える。


「ふふっ……この億万長者テツトにかかれば容易いことよ」


ついこの前の【村のダンジョン化現象】を解決した際、そのダンジョンの最奥で俺はお宝をゲットしていたのだ。しかもかなりのレア物。鑑定に出してみたところ……前世基準の価値で表せば都内に戸建てが1軒建てられるほどのものらしい。


「ふへへへ……高級装備を爆買いじゃー!」


俺は名工揃いとして有名なゾロイメイコの街までやって来た。どこもかしこも武器や防具を売る店ばかりだ。


「しかもやっぱ全部高いな……魔剣とか、前世の価値で換算すると安くて数千万円もする!」


どうしたものかな。無理をすれば買えないこともない。だが、魔剣を諦めてその分を防御力が上がりそうな防具に当てるのもアリだ。


「……ん?」


色んな店を巡っていると、なにやら街の端に少し人だかりができているみたいだった。


……なんだろう? 街の裏手にある林の入り口付近をみんな見ているようだが。


「さっさとそこをどかねーか! この林を潰してもっと店を建てるってのは決定事項なんだよ!」


「いっ、いやですぅっ! この林にある沼はずっと私たち一族が守ってきた場所なのですぅっ!」


「うるせぇ! 精霊だかなんだか知らねーが、この土地の権利書は俺が持ってるんだよ! 開拓する権利が俺にはあるんだ!」


「そ、そんなの人間の勝手なのですぅ! お前たちがウホウホ言ってる時代から、私たちはこの沼で暮らしてましたぁ……!」


「バカにしてんのかこのガキが!」


どうやら人だかりの中心で言い争いをしているのは中年の男とキラキラとした粒子をまとった、10歳前後の小さな女の子のようだ。


「……えっと、これってどういう状況なんです?」


俺は近くの野次馬に尋ねてみた。


「あの男の方……ゴウマンさんっていうそこの街1番の装備店の店主なんだけどね、どうやら最近経営が上手くいってないみたいでさ。古くから所有する土地を平にならして売りに出そうとしてるみたいなんだ」


「ほうほう?」


「でもその林には神域って呼ばれてる沼があってね、そこには精霊の一族が住んでるんだ。昔の精霊はかなり力もあって口も達者だったからゴウマンさんも手が出せなかったんだが……最近その精霊が若い女の子に代替わりしたようで、ここぞとばかりにゴウマンさんが沼を潰しにかかってる」


「それはひどいな」


いくらお金が入り用とはいえ、若いどころかまだ子ども同然の女の子相手に、中年の男が怒鳴り散らしているのかよ。みっともないな。


……それにしても、精霊か。なんだか最近聞いたな、そのワード。


よし。ちょっと介入してみるか。


「おいおい、やめとけよ。ゴウマンさんとやら」


「あぁっ!? 誰だテメー! 部外者は引っ込んでやがれ!」


「部外者だろうがなんだろうが、いい歳したオッサンが女の子をイジめてるところを見て見ぬフリはできねーな」


「女の子だぁ……? 何をいってやがる。このクソガキ精霊はもう1000年は生きてやがるぜ」


「フッ、言い訳はやめなゴウマンさん。それにその子のどこが1000歳を超えてるように見えるってんだ。どう見ても10歳前後だ。タチの悪い冗談だよまったく」


やれやれと精霊の少女を見やる。やはり、それはどっからどう見ても小学生くらいの女の子──


「いえ、1000歳は超えてますがぁ」


「はっ?」


「確か3,250歳くらいですぅ!」

 

「うそぉん」


超えてたよ……それも大幅に。精霊って長寿なんだなぁ。


「ハッ、だから言っただろうが。テメーの用はそれだけかぁ!? じゃあもういいな、木は切って沼は埋めて平らにならして売りに出ぁーすっ! さあやっちまってくれよ力自慢の木こりたち!」


ゴウマンが指示を出すと、その後ろに控えていた筋骨隆々の木こりたちのひとりが早速木の1本に向かってその大きな斧を振りかぶった。


「ああっ! やだやだ、イヤなのですぅ! 本当に大切な土地なのですよぉっ!」


「うるせぇっ! 居ても居なくても金にならない精霊なんぞ居ない方がマシだ! 沼が無くなったらとっととこの街から失せやがれぇっ!」


木こりの斧が振り下ろされるが、しかし。俺は一瞬でその場までかけて剣でそれを受け止める。


ガキンッ!


「ゴウマンさんよぉ、まだ話の途中なんだけどな」


俺は斧を受け止めた剣に少し力を込めて振り上げる。木こりはバランスを崩して尻餅をついた。

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