困ってる子供2号 オークに襲われてるエルフちゃん(1 / 2)

俺が冒険者登録をして、1年半が経った。


この頃になると俺は急速に剣の腕を上げていった。まだ弱いモンスターばかり相手にしてるから冒険者ランクは1番下のDだけど、ゴブリンやスライム、ヘルドッグなどの小型モンスター相手には、それがどれほどの集団であっても、もはや遅れを取らなくなっていた。


「そろそろ鉄の剣が欲しいところだよな……高いけど」


ついついため息が出る。相変わらず俺が腰に差しているのは木剣だ。かれこれもう10回折れて、これは11代目である。


「マジで無一文から異世界生活始めるのはハードモード過ぎだって……。ああ、どこかに金の粒でも落ちてないか?」


山奥の森を注意深く歩きながら、地面に目を凝らす。


「キノコ、キノコ、石、苔、キノコ……」


金なんて輝かしいものはどこにも無い。せいぜい俺は依頼にあった貴重な薬草を採取して、少しでも多く銅貨を稼ぐしかないみたいだ。


……ふいに、大きな足跡を見つける。


「……あっぶねぇ、こっちはダメだな」


いま俺がいる山に登る者は少ない。数ヶ月前から近くの冒険者ギルドから警告が出されているからだ。『現在モンスター大量発生中につき、入山制限アリ』、と。なんでも魔王が勢力を拡大する影響で、世界各地のモンスター発生率が上昇しているらしい。


「まあこんだけ【ヤツ】の足跡があれば……誰も山になんて登りたがらないだろうさ」


迂回を決める。俺は足跡に背を向けて歩き出して、




「──キャアアアッ!」




しかし、唐突に聞こえたその甲高い叫び声に、思い直して振り返り、俺は走り出す。


「子供の声だッ!」


もしかしたら【ヤツ】に遭遇して襲われたのかもしれない。ならば──助けるしかない。


「子供を助けるのが大人の務め……! 俺まだ17歳だけども!」


俺は草木をかき分けて悲鳴の聞こえた方角へ向けて駆ける。


しばらく進んだ先でモンスターの醜悪な叫び声が響く。それと同時に目視した。身長2メートルはありそうな大きな【オーク】が、怯える少女に立ちはだかり──今にもその手の太い棍棒を振り下ろそうとしている。


「やらせるかぁぁぁッ!」


「きゃあっ!?」


俺はその場に走り込んで、立ちすくむその少女を突き飛ばした。それと同時に、棍棒が俺の肩をしたたかに打った。ミシリ。骨が軋む音がする。


「いっだぁッ……! こんの野郎ッ!」


〔ブォォォンッ!?〕


腰の木剣を抜き、大きく横に振る。それはオークの鼻に当たって、その巨体をのけ反らせた。


「せぇぇぇいっ!」


振り抜いた剣を返し、喉を突く。苦し気に膝を着くオークの頭に、俺はトドメとばかりに木剣を振り下ろした。しかし、


〔ブオッ……ブォォォッ!〕


「くそっ……! さすがに木剣じゃ仕留め切れないか……!」


オークは再び立ち上がり、その棍棒を構えた。


……逃げるか? いや、ダメだ。さっき俺が庇った少女は腰を抜かして歩けそうにないし、よしんば走れたところで、子供の脚じゃオーク相手に逃げきれず追いつかれてしまうだろう。


「やるっきゃないな……!」


俺に少女を見捨てて逃げる選択肢なんて無かった。もう、こうなったら後は死ぬ気で戦って勝つ他ないッ!


「らぁぁぁ!」


〔ブォォォオッ!〕


俺は木剣でオークへと打ちかかる。オークの攻撃を紙一重で避け、時には直撃に呻き、しかし木剣を握る手が痛くなるほどに何度も攻撃を叩き込んだ。


オークと戦うのはこれが初めてだった。なんせ、オーク討伐の適正冒険者ランクはCの上位からBなのだ。まず冒険者ランクDの人間が相手するモンスターではない。


現に俺はオークに体格では完全に劣っており、武器にしたって木剣1本と心もとない。だけど──大丈夫! 


この1年半で磨いた腕と、くぐり抜けてきた修羅場が俺に自信を与えてくれる。


「──はぁっ、はぁっ……」


そして10分後、俺の足元には物言わぬオークの巨体が転がっていた。


「なんとか、倒せたか……」


めちゃくちゃ疲れた。それに、体のあちこちがズキズキと痛む。もしかすると骨にヒビが入っているかもだ。


「あ、あの……」


「うわっ!?」


「きゃっ!?」


ドテン、と。いつの間にか俺の背後にやってきていたその少女が、俺の声に驚いて尻もちを着いてしまっていた。


「あぁっ! ご、ごめん! まさかまだ居たなんて……俺が戦っている間に逃げたものだとばかり思ってたんだ」


「い、いえ。その、戦いから目を離せなくて……木陰に隠れて見ていました」


「そうだったのか」


どちらかといえば俺が引き付けている間に逃げていてほしかったのだが……いや、でもそれはそれで危ないな? なんせ今、この山はオークが大量発生中なのだ。


「あの、助けていただき本当にありがとうございました」


「ああ、気にしないでいいよ。たまたま通りがかっただけだから」


そこで、「ん?」と。俺は違和感に気が付く。


「俺、少女と普通に話せてる……」


「?」


目の前の少女がキョトンとしていた。まあそりゃそうだろう、当然の反応だ。驚きは俺の中だけにある。


この少女、もしかして……俺の【女の子ロリにモテる】という特殊能力が効いてないのかっ!?(歓喜)

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