困ってる子供1号 ケガしたフェンリルちゃん(1 / 2)

伏見鉄人は絶望した。


自分の貰ったスキルが【ロリ】にしかモテないものだと知り、悔しさに打ちのめされていた。10分、教会の床に膝を着いた体勢から動けなかった。


しかし──。


「はぁ……まあ、しゃーない。モテ路線は諦めるか」


よいしょっと。俺は立ち上がった。


「幸いなことに異世界ファンタジーの世界ってことは間違いないわけだし。そうだよ、そっちをメインに楽しむとしよう。とりあえず今日の寝床と食い物を確保しに行くか」


教会から出て近くの馬宿へ行く。馬宿の主にいろいろと説明して、馬房の掃除をするのと引き換えに馬房で寝る許可と1食を恵んでもらえることになった。ありがたやありがたや。


……えっ? テツト、お前、ついさっきまで絶望してたんじゃないのか、って?


「いつまでも絶望なんかしてたって、時間の無駄だからなあ……」


馬房に敷き詰められた藁の上に寝転がりながら大あくびする。もう眠い。どこでもいつでも寝れるというのは俺の長所のひとつである。


それともうひとつ、俺が人より優れていることがあるとすれば【立ち直りの速さ】だ。


自分が死んでしまったということが分かった時も、池沢にテニスで負けた後も、俺が好きだった女子の先輩が池沢を好きだと分かった時も、俺は30分掛からずに立ち直ることができていた。


メンタルが強い、というのとはちょっと違う。俺だってメンタルは毎回ちゃんとブレイクしてその度に死にそうなほど落ち込むんだけど、その修復速度が異常に速いのだ。


そんなわけで、強力なスキルも都合よく女子が惚れてくれるスキルも持たぬまま、しかしメンタルだけは回復を果たした俺の異世界ファンタジーは幕を開ける。


コツコツ、コツコツと、ひたすら地道に己を鍛え上げる日々が始まった──




──そしてそれから3ヶ月が経つ。その頃には俺も弱めのモンスターが相手であればまともに戦えるようになってきた。語るべき物語はそんなある日の中で起こった。




「……今月ヤベーな。あと20銅貨で過ごさなきゃならんのか……」


ここ最近、金欠だ。旅の途中の冒険者チームがこの町に滞在しているおかげで、全くと言っていいほど報酬のいいモンスター討伐依頼が受注できなくなってしまったのだ。


「もう1週間連続で薬草の採集依頼……この収入ってマジで1日の宿代とメシ代払って無くなるレベルなんだよな……まあほとんどリスクも無いし仕方ないんだけど」


ボヤきながら俺は町から出て平原を進む。向かうは森だ。


「ちょっと迂回していくか……せめてモンスターとエンカウントして素材を手に入れたいところだ」


俺はこの1週間の薬草採集で見つけた裏道を行くことにする。おそらく他の冒険者は誰も使ってはいまい。遠回りのルートだ。


「その分、狩られてないスライムとかが居たりするんだけど今日はどうかな……」


いつモンスターが飛び出してきてもいいように腰の木剣に手を当て、周囲を警戒する。この3カ月でいくつか死線をくぐってきた経験が、自然に俺にそうさせていた。


……マジで、気づいた時にはモンスターに囲まれてた! って状況が何度かあったからな。集団で襲って来る犬型モンスターを相手に、昼から深夜まで12時間も追われながら戦い続け、命からがら逃れたってこともあった。警戒は本当に大事だ。


「……ん?」


苦々しい記憶を思い返していると、遠くの正面に何か動くものが見えた。サッ、と。俺は身を屈める。風向きをチェック。風下だ……であれば、まだこっちの存在には気づかれていないはず。


モンスターだったら貴重な収入源だ。狩って素材を売れば金になる。俺は慎重に近づいていく……あれ?


「……犬?」


くぅん、くぅん。哀愁の漂う鳴き声が辺りに響いている。


「モンスター……なのか?」


そいつはどうやらトラバサミのような罠に前足を挟まれ、ケガをして動けないようだった。しかし、なんというか……


「小型の柴犬にしか見えん……」


そう、俺が犬なのかモンスターなのか判別がつかなかった理由、それは正面のそいつの姿が日本原産の犬種である【柴犬】そのものだったからだ。


「他の犬型モンスターはもっとハイエナっぽさがあるんだけどな……柴犬? なんでこんなとこに?」


辺りに他のモンスターの気配はない。柴犬(仮)も子犬のようだし、何よりケガをして動けなさそうなので危なくはないだろう。


「なら、助けるしかないな」


困っている柴の子犬(仮)を見過ごすわけにはいかない。なぜってそりゃあ……まだ子供だもん。子供だから助けたいという気持ちに、相手が犬とか人間とか区別するつもりは俺には無い。


それに俺は……犬派だからなっ!

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