転生しても非モテは非モテ(2 / 2)

メイン通りと思しき道を歩くこと5分。町の中心に冒険者ギルドを見つけた! ガッツリ看板に【冒険者ギルド】と書いてあったのだ。日本語じゃなかったけど読めるあたり、大変に都合がよい。


さっそく中に入ると受付嬢を発見する。しかも美人なお姉さんである。


……よしっ!


「あの、すみません。冒険者登録をしたいんですけど……」


「え? あ、はい」


意を決して声をかけると受付嬢がこちらを向き、そして俺の姿を一瞥いちべつする。


「……」


受付嬢はしばらく俺の姿を見つめていた。


……これは、もしかしてキタか? 一目惚れってやつが発動しちゃうのかっ? 『お仕事が終わったあと、よければ一緒にご飯でも』とか誘われちゃうか? やばい、ワクワクが止まらない……!


「……この辺りでは見かけない方ですね? この町へは今日来られたのですか?」


「えっ? あっ、はい」


「冒険者登録は初めてでしょうか?」


「あ、はい」


「では初めてですね。ご年齢は?」


「あ、16です」


「じゃあギリギリ登録できますね。前科も無いですよね?」


「無いです」


「では冒険者として活動をする際のお名前をここにお願いします」


「あ、はい」


紙を差し出されたので、そこに『テツト』と書く。それから少し待たされて、再び受付に呼び出された。


「どうぞ、テツトさん。こちらが冒険者プレートになります。裏側に現在の冒険ランクとお名前が彫られています。首から下げられるようになっていますので、ギルドに来る際は忘れないように。これが無いと依頼を受注できません」


「はい」


「依頼は掲示板に張り出されています。基本的には自分のランクと同じものを受けることをお勧めしています」


「はい」


「説明は以上です。何かご質問はありますか?」


「あ、大丈夫です」


「それではこれから冒険者としてがんばってくださいね」


「ありがとうございます」


冒険者登録が終わった。なるほど、これで色んな依頼を受けられるようになったわけだ。やったね!


「──って、違う違う! 俺の最初の目的はそうじゃないでしょ!」


俺は再びギルドの受付まで戻る。


「あっ、あのっ! 受付のお姉さん!」


「えっ? あ、さっきの……」


「はい、テツトです! その……訊きたいことが!」


「はぁ、なんでしょう?」


「その、俺を見て……何か思いませんでしたかっ?」


「えっ、何か……?」


受付嬢のお姉さんは小首を傾げる。


「何か、とは?」


「その、例えばカッコイイとか、好きとか……」


「……え」


「俺に思わず惚れちゃいそうになったとか、そういう感情が芽生えたりとか……」


「……」


ススッと。受付嬢のお姉さんが後ろにさがった。その顔は少し、青ざめている。


……あれぇ?


「あの、お姉さん?」


「す、すみません。その、私はもうちょっと……たくましい方がタイプなので」


「えっと、それってつまり……」


「あ、もう今日の受付は終了です! 依頼の受注は明日以降にお願いします!」


受付に『CLOSE』という立札が出される。受付嬢のお姉さんは逃げるように奥の部屋へと引っ込んでしまった。


「……え? どういうこと?」


今の反応、明らかに不審者に対するものだよね? いや、確かに俺の迫り方はかなりヤバげではあったよ? でも、それでも俺には【女の子にモテる】能力がついてる。だったら多少ヤバげな言葉でも悪印象は緩和されるはずだ。


池沢もそうだった。女子が差し出してきたスポーツタオルで顔を拭いて、『○○ちゃんの匂いがする』とか言ってその女子を良い意味でキャーキャー言わせてた。俺が同じこといったら悪い意味でキャーキャー言われることは間違いない。その違いはやっぱり、モテるかモテないかで決まってくると思うのだ。


「おかしい、いったい俺のスキルはどうなってるんだ……?」


ギルドを出て、ボーっと道の真ん中に突っ立っていると、ドンッ! 太もも辺りに何かが衝突した。


「イタタっ」


6、7歳くらいの女の子が転んでいた。どうやら道を走っていて俺にぶつかったらしい。


「大丈夫か? ケガしてない?」


「う、うん。ごめんなさい……」


女の子は俺が差し伸べた手を掴み立ち上がって、ピタリと動きを止めた。


「えっ?」


なんだ、どうしたんだ? 少女は俺を見て、口を酸欠の金魚みたいにパクパクとさせて、目をまん丸に見開いたかと思うと──。


「好きですッ! ケッコンしてくださいッ!」


「えぇっ!?」


プ、プロポーズっ!? 人生で初めてされたんだがっ!? 


……って、いやいやいや、落ち着こう。きっとただの聞き間違いさ。


「えーっと、キミ? 悪いんだけど今なんて言ったのかもう1度──」


「ひとめぼれですっ! ケッコンをゼンテーにお付き合いしてくださいっ!」


「食い気味に告白し直された!? ぜんぜん聞き間違いじゃなかった!!!」


おかしい。俺がいったい何をした? この子にぶつかられただけだ。それなのに……


「お願いします! 良い子にします! だから付き合ってくださいっ!」


目を輝かせる女の子はまるで何かに洗脳されているかのようだ。あと、この女の子が怖いだけならまだしも、それ以外にもマズいことがある。周囲の視線だ。


「えっ、何アレ……どういう状況?」


「この辺りじゃ見かけない男の人があんなに小さい女の子と……」


「まさか、ロリコンの不審者……?」


ヒソヒソと、大勢の大人たちが俺のことを遠巻きにして見ているではないか!


「ごっ、誤解だッ!」


ただその場で否定し続けてもむしろ怪しげだ。俺にぶつかった幼女には悪いが、俺はとにかくその場から離れるために走り去らせてもらう。すると、


「カッコイイお兄ちゃん! あたしと付き合って!」


「ケッコンしてー!」


「あいじんにしてー!」


俺はすれ違う女の子たちほとんど全員にワーワーキャーキャーと追いかけ回されるハメになった。これだけ聞けばあたかも俺の『モテたい』という夢が叶ったかのように思えるだろう……でも。


「なんで【子供】限定なんだー!?」


そう、俺を追いかけてくるのはどの子もみんな10歳に満たない女の子供たちばかり。


「無理無理! 法的にも無理だし好みとしても無理! 俺はロリコンじゃないんだっ!」


俺の好みはクールビューティーなお姉さんタイプ。恋愛対象年齢としてはせめて俺と同じ高校生くらいはあってほしい!


「はぁっ、はぁっ……! なんとか、追手ようじょをまいてこれたか……!」


俺が逃げ込んだのは無人の教会だった。扉を閉じ、ぐったりと椅子に腰かける。


「なんなんだよ……女の子には相変わらずモテないわ、かと思えば幼女に追いかけ回されるわ、これはいったいどういう……」


そこまで口にして、ハッと気づいたことがあった。それと同時、


『──あー、えーっと……伏見鉄人よ、聞こえるか?』


「えっ!?」


頭の中に直接、声が響いた。それは聞き覚えのある、ついさっきまで天界で会話をしていた女神のものだった。


「どうして、いや、どうやって俺の頭に……!?」


『おぬしが教会に来てくれたからのぅ。少しの間、地上のおぬしの頭に直接回線を通すことができたんじゃ』


「べ、便利っ!」


そんなことができるのか、教会って。初めて知ったそんな仕様に感心していると、


『それで、えーっと、あのな? これは断じて我のミスではないんじゃがのぉ?』


なんだろう、めちゃくちゃ歯切れ悪く、不穏な気配を感じるんですが? あと、何だか少し、その内容には心当たりがある気がするよ?


「あの……それってもしかして俺の特殊能力に関することだったりします?」


『…………』


「黙らないでもらえますっ!?」


おいおいおい、待ってくれ待ってくれ。なんだかおかしいな、と思ってはいたよ? 【女の子にモテる】能力を与えられたはずなのに、女性に全然見向きもされず、かと思えば幼女にめちゃくちゃ好かれるようになってるんだもん。


『じ、実はのぅ……』


「実は?」


『我はそっちの世界の神にのぉ、テツトに【女の子にモテる】能力を付与してやるようにと羊皮紙に書いて送ったんじゃ。そしたらなんと、そっちの神、【女の子】を【女の子供】と解釈してしまったようでのぉ……』


「……はいっ?」


女の子、じゃなく、女の【子供】? それって、つまり──。


『つまり、テツトに与えられたのは【女の子ロリにモテる】という能力になってしまったわけじゃ』


「……うそぉっ!?」


『ワッハッハ、ホントにまったく、嘘みたいな話じゃのぉ!』


「笑い事じゃないんですけどっ!?」


冗談じゃない! 俺が望んでいたのはもっと青春チックな女の子との交流だ! 決して児ポ一歩手前のスリリングな恋愛などではない!


「チェンジ! 特殊能力のチェンジを希望します!」


『そうしてやりたいのはヤマヤマじゃがのぅ、それは不可能じゃ。この異世界の神は頑固者ゆえ、基本的にチートスキルを認めておらんのじゃ。今回は無理を聞いてもらっているゆえ『もう1回お願い』とはさすがに頼めん』


「そ、そんな……」


思わず、教会の床に膝を着いてしまう。


……これ、あれじゃん。【せっかく転生したのにクソスキル引いちゃった系異世界ファンタジー】。


そういうのって大体は『使い方次第では実は強かった』とか『覚醒したら最強』だとかあるけど……俺の【女の子ロリにモテる】って……どうあがいても応用効かなそうなんですが?


『まあ、がんばれ』


「がんばりようがなさ過ぎる!」


『とにかく自分の腕をコツコツ磨いて──あ! ヤバいのじゃ、こっちの神が帰ってきおった!』


「えっ? どういうことっ!?」


『我はいま、この異世界の天界に不法侵入しておる身。見つかったら処される! というわけでサラバじゃ!』


「ちょっと!? え、そんなっ……」


以降、女神の声が頭の中に聞こえてくることはなかった。


……え? 俺、マジでこのまま異世界ファンタジーやらなきゃなの?

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