第20話 姉とその友人がおかしい その3

「あんたに手伝って貰う作業は、花壇作りよ」


化学部で育てている植物用に花壇を新設するという話らしい。


なんで化学部がガーデニングなんだよ、活動が迷走してるぞと思わなくもないが、とりあえず単純な力作業なら問題ないので手伝いを了承する。


「道具とかは用意してるから、花壇の予定地まで運ぶところから始めるわよ」


姉の号令で作業を開始する。


まずは荷物運びからだ。


自転車置き場の近くの倉庫に道具を置いてあるらしい。


自転車置き場に行くと、確かに倉庫の前に道具が出してあった。


鋤や鍬、シャベルの他にレンガや園芸用の土なんかが置いてある。


「じゃあ、あんたは土とレンガをお願いね」


農具を持った化学部の面子の後ろを、土とレンガを満載した猫車を押して歩いて行く。


雑談しながら歩く皆について行くと、何故か地下空洞の入口の建物に到着した。


何も言わずに中に入ろうとする姉を呼び止める。


「ちょっと待った。どこに花壇を作るか聞いてないんだけど。もしかして...」


「そういや詳しく言ってなかったわね。花壇を作るのは地下空洞の中、15階よ」


「地下って植物育つの?」


「普通は育たないわよ。でも化学部で品種改良したやつは多分大丈夫だと思う」


化学部はどうやら地下で育つ植物を作るという試みに取り組んでいるらしく、今まで時間をかけて植物の品種改良をやってきたようだ。


移動の途中で教えて貰った概要では、地下で発芽に成功した種を地上に持ち出して育てていたらしい。


育った植物から取れた種をまた地下で発芽させる、という作業をくり返し、地下の環境に適応する種になるかを試験していた。


更にプランターとLEDを地下に持ち込んで、徐々に地下で育てる期間を延ばして品種改良を繰り返したようだ。


普通の植物は、LEDの光があっても地下空洞では途中で枯れてしまうが、品種改良した植物は徐々に枯れにくくなったみたいで、枯れる前に地上に持ち出して種が取れるまで育てるらしい。


そろそろ地下空洞に適応したようで、本格的に花壇を作って種が取れる最後まで育ててみよう、というのが今回の作業だった。


花壇を作ると聞いた時は迷走してると感じた化学部の活動だったが、正しくマッドな部活動だったんだな、というのが新たな化学部への印象となった。


こういう奴らが映画やゲームで出てくるモンスターを作りだすんだな...


「ここが化学部の花壇建設予定地よ」


品種改良の話を聞いたり、雑談をしながら移動していたら花壇を作る場所に着いたようだ。


そこは、地下15階の脇道の一つで、奥の行き止まりになっている所にプランターが置いてあり、横に設置されたLEDがプランターに植えられた植物に光を浴びせていた。


「だいたいこれくらいの範囲を掘り返してちょうだい。深さは50センチくらいでいいから」


地下空洞の地盤は固く、結構な重労働になったがそれほど大きな範囲でもなかったので、1日でなんとか終わりそうだ。


掘り返した地下空洞の土を砕いて石を取り除き、地上から持ってきた園芸用の腐葉土と混ぜるのだが、そっちの作業に時間がかかっていたようで、穴掘り要員の俺は気が付いたら結構な深さと広さを掘り返してしまっていた。


その日は余計な穴を埋めつつ、花壇を完成させて植物を植え替えたら遅い時間になってしまい、寮の夕食に間に合わなくなるところだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る