第17話 自習の方法がおかしい
俺は今、25階の脇道の奥で息を潜めて隠れている。
すぐ側の曲がり角の向こうからぺたぺたという足音が近付いてきている。
俺の経験から、この足音はゴブリン(地下ザル)のもので間違いない。
音の感じから一匹で歩いて来るようだ。
壁に身を近付けて気配を極力消すことを意識する。
まあ、気配なんてよく分からんもんが、ちゃんと消せているかどうかは不明だが。
あれから、技術職員の北村の手伝いで、何回か下の方の階に連れて行って貰うことができた。
もちろん、便器の設置作業の続きだ。
何回か潜る内に、下の方の階で動き回るのにも少し慣れて、体力の消耗も減っていた。
地下の害獣との戦闘も何回か経験させて貰ったのだが、慣れる前に便器設置作業が終わってしまった。
また、下の方の階で手伝いが必要になったら声を掛けて欲しいと北村には言ってあるが、あれからお呼びが掛かる機会はまだない。
どうにかして地下の深い所で活動する経験を積みたい俺が考えたのが、散歩(不正)という方法だ。
1年生は基本的に実習以外で地下空洞に入る機会はほとんど無いし、入れても15階より下に行くのは厳禁だ。
一人では地下に入れないので、同じ班の是親を巻き込んで地下実習の自習を嘆願した。
15階の本道工事で出た瓦礫を運ぶという自習をやりつつ、休憩中にこっそり散歩に行く。
散歩の途中で道に迷って下の階に行ってしまう。
というのが、俺が考えた地下修行の方法である。
もちろん、15階より下で他の人に見つかるとまずいので、基本的には気配を消し、本道を避けて出来るだけ暗い脇道を通って下の階を目指す。
途中で鉢合わせた害獣は殲滅。学生や教員がいたら見つからないように隠れてやり過ごす。
「フッ」
今ちょうど曲がり角から出てきたゴブリンに向かって飛びかかる。
ゴブリンの背中側に体を入れ、頭に腕を絡ませる。
横から飛び出した勢いも使って頭をねじ切るように力を入れた。
今回も無事成功したようで、ゴブリンの頭がねじれ、顔が背中側を向いている。
ゴブリンは音もなく死んだようで、そのまま倒れて動かなくなった。
なんでこんなコマンドーみたいな戦い方をしてるかというと、音を出さないようにというのもあるが、大きな理由は武器がないからだ。
北村の手伝いをしているときに使っていた短剣は、もちろん手伝いが終わったので借りることなどできない。
また、1年生が唯一使うことを許されている工事道具も、でかくて隠密行動しているような今の状況では移動の邪魔になる。
自費で包丁やナイフなんかを買うことも考えたが、それらを持ち歩く高校生なんて不審者以外の何者でも無い。
ということで、素手で戦うしか選択肢がなかったのだ。
さて、そろそろ是親のいる15階に帰るとするか。
今回もだいぶ長い時間、散歩に出てしまった。
「お前から自習したいって言い出しといて、なんでサボってんだよ!!」
なんて感じで、前回も是親にこっぴどく怒られた。
道に迷ったとかなんとか言って誤魔化したが、今日の言い訳はどうしよう。
腹が痛くなってトイレに篭っていたとでも言うかな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます