第15話 体調がおかしい その1

俺は今、ゴブリンと向き合ってお互いに出方を伺っている状態だ。


後ろでは技術職員の北村が様子を見ていることだろう。


体は重いし、頭の上にはクソ邪魔な重いランタンが乗っている。こんな状態じゃ剣を振り回したり、動き回ったりは出来そうにない。


ゴブリンは頭上から強い光を発する俺を警戒している様子だ。


「おーい、あんま時間ないから早くしろよ」


後ろから北村の気の抜けた声が指示が聞こえてくる。


お前が装備させたとんでも発明が邪魔んだよ。とか思いながら俺は動き出した。


「はっ!」


短剣を腰だめに構えて、体当たりだ。


まるでドスを構えて相手に突撃するヤクザのような感じだ。


「おっ、やるじゃん」


北村も感心するくらい、上手く動けたようだ。


俺の構えた短剣は見事にゴブリンの胸に突き刺さった。


まるで、砂が満杯に詰め込まれた袋にシャベルを突き刺したような感触だった。


油断はしていなかったが、胸を刺されたゴブリンがそれでも暴れて俺に掴みかかって来ようとしたのが少し意外だった。


このままではゴブリンの体重や暴れている勢いが、刺さった短剣を支える俺の手首にかかってしまう。


短剣を手放すか、すぐに引き抜かないといと手首を痛めると判断した俺は、ゴブリンの胸から力一杯に短剣を引き抜いた。


胸に穴の空いたゴブリンはバランスを崩し、胸からヘドロを垂らしながら俺の方に倒れてきた。


咄嗟に横にずれた俺の前で、ゴブリンは胸を押さえて跪くような格好で膝をついている。


まだ生きている。刺突では命を奪えていないと判断した俺は、目の前にあるゴブリンの細い首に目が吸い寄せられる。


ここなら、切れる。


スコップでネズミを両断したときと同じように、刃が首と垂直に入ることを意識して、振りかぶった短剣を振り下ろした。


スパン。


そんな音がしそうなほどあっさりとゴブリンの首は切れ、頭が近くに転がっていった。


「おお、初戦闘とは思えない見事な手際。最近の学生はすげーな」


北村がそんなことを言いながら近付いてくるが、俺はそれどころではなかった。


胸が、熱い。心臓というか肺のあたりが熱く脈打っているような感覚を覚え、思わずツナギの胸の部分を握りしめる。


痛いと言うほどではないが、とにかく熱い。幸い胸の熱さはすぐにおさまったが、この感覚が何なのか北村に尋ねてみた。


「戦ってるとき、相手が死ぬとなんとなく分かるんだよな。ネズミとか小さいのはよく分からんが」


なんとなくとかいうレベルじゃなかったのだが、北村はそこまでの強い熱を感じたことはないそうだ。


「とにかく、初戦闘おつかれさん。この石は記念に持って帰っていいよ。しばらくしたら蒸発して消えちゃうけどな」


北村が倒したゴブリンから取り出した石を渡してくれた。


俺はその石をポケットに入れると、壁際に置いた荷物を背負い直した。


「それじゃあ時間もないし、ここからはスピードアップして行こうか。敵は全部こっちで処理するから、離れずに着いてこいよ」


どうやら、これ以上の戦闘はしなくていいようだ。


俺は重い体に鞭打って、早歩きのようなペースで進みはじめる北村を追いかかるのだった。

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