第14話 技術職員がおかしい その5

イヌ、ヘビ、ツノが生えたウサギ、イノシシ、オオカミ、シカなど色々な敵が出て来た。


どれも真っ黒い体躯で赤い目をして、内臓は黒いヘドロだった。


そしてついに二足歩行だ。


小学生くらいの小さい体躯、長く尖った耳と鼻。あれはどう見ても...


「先生。あれってゴブリ...」


「サルだ」


小鬼みたいな二足歩行を大剣で真っ二つにしながら即答された。


「地下ザル。石なんかを投げてくるから気をつけろよ」


どう見てもサルというより、ゴブリンや小鬼という感じ。


まさにファンタジーな感じで、是親が喜びそうなネタだな。


「人型に近いのを狩れるかどうかで、進路とか研究内容とか選択肢がきまるからなあ...」


北村がゴブリンの腹の中から石を取り出しながらそんなことを呟く。


「試しに一匹ってみるか」


北村は暗い脇道を指差しながら言ってきた。どうやら、脇道の奥にも一匹いるみたいだった。


「なんか、疲れてるのか体が重いんですけど」


ここまでかなり荷物に気を使って移動したからか、体が思い。


下の階に降りるほど体が重くなるような感覚が強くなり、今では息苦しさも感じるくらいで明らかに体調が良くない。


「なんか空気が重いような息苦しさも感じて、呼吸するのにも力を使う感じです」


「あっ!」


北村は何か忘れてたことを思い出したように声を上げた。


「そういや地下の深いところは、慣れてないとただ立ってるだけでも余計なエネルギーを使うらしい。言うの忘れてた」


気圧とか、そんなものの関係なのか、高山病みたいなことになったら命に関わるのではないか、とこの時の俺は少し怯えていた。


後の是親曰く、地下は深ければ深いほど「ダークパワー」が濃くなるそうで、このダークパワーが色々な物理現象にも影響を及ぼしているらしい。話半分で聞いてたから詳しいことは忘れた。


というか「ダークパワー」って何だよ。頭の中ファンタジーな是親らしい解釈だ。


「俺なんかは逆に地下深くに潜るほど力が湧いてくるんだが、慣れてない人は力がロスするみたいだ。まあ、高学年の奴らは慣れたみたいで、バンバン潜ってるから問題ないだろう」


こいつ、適当言ってるんじゃないか?俺の中で北村の信用度は急落しつつあった。


「大丈夫、大丈夫。一匹釣って来てやるから、荷物を脇に置いて待ってろ」


北村はそう言い残すと脇道に入って行った。


俺は言われた通りに荷物を道の端に置くと、脇道の方を向いて短剣を構えながら待つことにした。


頭にランタンが乗ってるので、激しい動きをすると首が折れそうになる。できるだけバランスを保つようにするには、攻撃や防御のときでもあまり動かないほうがいいだろう。


最小限の動きを頭の中でシミュレートしながら北村の帰りを待つ。


そんなに時間をかけることなく、すぐに北村が走って帰ってきた。そんな北村の後ろではゴブリンが追ってきている。


脇道から灯りの設置してある本道に戻った北村は、脇道の入り口横に立ち止まって足を脇道に伸ばした。


北村の後ろを走っていたゴブリンは、北村の動きに対応できず、そのまま北村の足に躓いて転倒した状態で本道に飛び出てきた。


いつの間にか北村は俺の後ろに置いてある荷物の所に立っており、立ち上がろうとしているゴブリンは北村を見失っている。


「やられそうになったらフォローしてやるから、がんばれ」


ゴブリンは完全に目標を俺に定めたようで、俺を睨みながらゆっくり立ち上がった。


ネズミ退治なんかと違う、これが俺の初めての戦闘となった。

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