第13話 技術職員がおかしい その4

「津村は地下生物をぶっ殺したことあるか?」


まだ明るい整備された15階の道を歩きながら北村が質問してきた。


「ここらの工事現場でネズミやコウモリをスコップ(本物)でぶった斬ってました」


「じゃあ大丈夫だな。基本的に俺が全部このグレート北村でぶっ殺すが、未整備の道じゃ色々出てくるし、奥に行くほどでかいのや厄介なのが出てくるから警戒はしておけよ」


「分かりました」


襲ってくるネズミなんかを大剣をブンブン振り回しながら適当に進む北村に着いていったら、いつの間にか未整備の道になっていた。


「ここらの暗い道で一番やっかいなのはヘビだな。静かに暗闇から襲ってくるので知らないうちに噛まれたりする」


そう言いながら急に振り向いた北村が、俺の右隣の暗い空間で大剣を一振りする。


軽い何かをぶった斬った音がしたが、暗くてそれがなんなのかよく分からなかった。


「毒とかは持ってないヘビなんだが、防具以外の部分を噛まれたら体に牙が刺さって穴が開く。がまんできなくもないが、結構痛いので噛まれないように注意したほうがいい」


北村が暗闇に手を突っ込むと、頭だけになったヘビの死骸を見せてくる。


「まあ15階までは注意するようなのはヘビしかいないし、噛まれてもすぐに後退して安全な場所まで戻れば問題ない」


そんな注意事項を聞きながら歩いるとすぐに16階に降りる階段にたどり着いた。


「16階から下は出てくる敵も大きくなってるから、ここから先は武器が必須になる。だから1年生は15階の整備エリアまでしか行けない規則になってるし、本格的な武器の扱いとかは16階より下で実習する2年生で教えられる」


16階に降りて来た。16階になると道がほとんど整備されてないので、急に洞窟感が増大する。


だが、更に地下に向かう最短の道、正規ルートの壁には所々に灯りが設置されており、かなり暗いが道に迷うようなことはない。


「横道の前を通る時は特に気をつけろ。横道には灯りがないから、地下生物がよくうろついてる」


そのとき、真っ暗で奥の見えない横道から、何かが飛び出して来た。


急なことに思わず身を固くする俺だったが、北村の方は襲撃を予想していたのか、いつの間にか背負っていた大剣を手に握って、俺と横穴の間に移動していた。


北村が手に持っていた大剣を素早く振ると、飛びかかって来ていたイヌのようなものは、肩口から胴を斜めに真っ二つにされ、地面に落ちて動かなくなった。


「よし、切れ味十分。やっぱ地上の機械で研いだ方が早くて仕上がりもいい」


北村は自分の大剣の使い心地に満足しているようだった。


北村は手に握っていた大剣を背負い直すと、近くに落ちているイヌのようなものに近付き、切った胴体の中に手を突っ込んだ。


「地下にいて襲ってくるこいつらのことを、俺らは地下生物と呼んでるが、本当に生物なのかはあやしいところだ」


イヌの胴体の中で目当てのものを見つけたらしく、取り出した北村の手には小さな石がつままれていた。


手と小石に付いたヘドロのようなものを、手を振って飛ばした後、北村は小石をポケットに収納した。


北村の手は湯気のようなものを出しているが、あれは手に残っていたヘドロが急激に蒸発している様子だ。


「地下生物の死骸はそこらに放っておくと勝手に消えて無くなると教えられてると思う」


北村は体全体から湯気を出している犬の死骸を蹴っ飛ばし、道の端に寄せる。


胴体からこぼれ落ちたヘドロが道に散らばり、蒸発してたくさん湯気を出していた。


「基本的に地下生物は核石、骨、筋肉、皮を持っているんだが、こいつらがなんで動くのか、実はよく分かってない。脳みそとかはないんだが何故か動いてこっちに襲いかかってくる」


北村は移動を再開しながら講義を続けるみたいだ。


「たぶん、3年生以降の生物学の授業で詳しく習うと思うが、地下生物を構成する骨や筋肉なんかは全部ヘドロみたいなのが固まってできてるんじゃないかと言われている。ほっとくとヘドロと同じように溶けて蒸発して消えるからな」


日々研究されてるが、地下生物を地上に持って行くと急激に蒸発して消えてしまうので、研究もあまり進んでないらしい。


「だが、そんな中でもこの核石は他の部位より消えるのが極端に遅いんで、何かに使えるんじゃないかと地上で色々研究が進んでいる」


北村はさっき取り出した小石を見せてくれる。見た目は何の特徴もない黒い小石だ。


「2年生以降は実習でこの核石を集めたりもするんで、覚えておくように」


ちなみに、15階までに出てくるネズミやコウモリ、ヘビなんかは核石が小さすぎてすぐに消えてしまうので、石を取り出す意味はないそうだ。


学年が進んだ時に身につける知識を掻い摘んで教わりながら、俺は北村と一緒に地下を進んで行くのだった。


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