第10話 技術職員がおかしい その1
やっと試験が終わったので実習の自主練習をしたいと思っているのだが、練習内容に悩んでいた。
基礎体力作りは継続しているが、ある程度余裕が出て来たので、より実践的な練習がしたかった。
というか、そもそも地下実習がどういう基準で評価されたりするのか不明である。
単純に若い労働力が欲しいだけで、このまま卒業まで土木工事を強制されるだけ、というのもありえると俺は思っている。
実習の実態や学習方針の相談相手の候補として、同じ学校にいる実の姉を頼るというの手段もある。しかし、こちらから姉を頼るのは最後の手段だと思っている。
姉とは特別に仲が良いわけでもなく、かといって仲が悪いわけでもない。適度な距離感を保てているとは思っている。
だが、弟の俺より上であろうとする傾向があるため、こちらが弱みを見せると何かにつけ無茶な要求が飛んできそうで、出来たら避けたい所である。
向こうは弟をアゴで使うのは当然の権利と思っている節があるので、学校ではできるだけ遭遇しないように注意している。
自主練習の方針に対する相談相手として選んだのは学校側の人間である。すごく真っ当な選択だ。
この学校には、授業とか実習を教える教員とは別に、技術職員と呼ばれる実習専門で準備や指導のサポートをする職員がいる。
今回はこの技術職員の人に相談しようと思っている。
という訳で、なんか工場?みたいな建物にやって来た。
地下空洞への入り口がある建物の隣にある、なんかよく分からない大型の機械がいっぱい置いてある建物だ。
工業実習?みたいな授業で一度だけ入ったことのある建物で、そのときは金属切るノコギリみたいなので鉄の棒切って棚作ったりしたな。
さて、建物の内部は天井が高い構造になっているが、入り口の近くだけ2階があって、その2階の部屋に技術職員が居るというのを聞いている。
階段を登って2階の部屋に行って、ノックして入ると3人の男性職員がパソコンに向かって作業していた。
「どうした?」
ちょうど近くにいた職員が部屋に入って来た俺に質問する。
「1年の津村です。実習のことで相談が...」
質問して来たのは1年生の実習で一緒に地下まで行って作業する職員だったので、俺のこともちゃんと分かっているようだ。
「実習の自主練習をしたいのですが、何をしたらいいか悩んでいて」
「おう、津村は実習評価が特に高いから、いまのままでも十分だと思うぞ」
担当職員からお墨付きが出たので少し安心したが、今回の試験のことを思うと安心できない。
「試験が...他の授業の成績が、多分壊滅的なんで。実習でカバーしないとまずいと思うんです」
俺を見る職員の視線が、まるで可哀想なものを見るようなものに変化したような気がした。
「俺には、もう実習しかないんです。実習でなんとかしないと2年生になれない...」
「いや、実習以外の教科も最低限、進級できるくらいの点は取らんと...」
「いいじゃないですか、ザワさん。津村くんには実習でどこまでも上を目指して貰いましょう」
話の途中で奥にいた若い職員が話に入ってきた。
「北村。お前何考えてんだ?」
ザワさんと呼ばれた50歳くらいの職員が胡散臭いものを見る目で若い職員の方を見ている。
「津村くん、これから地下に行くんだが、ちょっと手伝ってくれないかな。地下の奥の方に行くから2年生の実習の予習にもなるし」
年配の職員が何かを察したのか、若い職員を止めようとする。
「おい、設置作業に連れて行く気か?1年生は職員の引率ありでも15階までという規則が...」
「まあ、いいじゃないですか。メインルートを行くだけですし、危険はないですよ。津村くんの体力も1年生ではトップですし」
「お前、人手を増やして楽しようとしてるだろ。自分の仕事なんだから自分でなんとかしろよ」
「違いますよ。実習で将来有望な津村くんに、ちょと早く地下の先を見せてあげて、今後の自己鍛錬の方針を決めるのに役立てて貰うのが目的です」
年配の職員は何か考え込んでいたが、結局若い職員の提案を受け入れるようだ。
「津村くん、今日はこの北村の手伝いで15階より下に行ってみてはどうだろうか。
2年生以降は15階より下で実習するので、今後の自主練習の方針を考えるのに役に立つと思う」
「分かりました」
どうやら、何らかの作業を手伝うことで地下の15階より下に連れて行ってもらえるようだ。
先の学年の実習現場を体験できるとあって、俺は喜んで作業の手伝いに同意したのだった。
「じゃあ、早速準備して行こうか」
俺は北村と呼ばれた若い職員の後を追って、部屋を後にしたのだった。
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