第6話 実習がおかしい(初ダンジョン編)その2
「ステータス!」「ステータスオープン!」「メニューオープン!」「コマンドオープン!」...
「なにやってんだ堤?」
堤というのは是親の苗字だ。このときはそこまで親しくなかったので苗字で呼んでいた。
「いや、俺が読んだマンガや小説だと、ステータスが見えるようになって、チート能力に目覚めたりするんだよ」
是親は手や指を振りながらまたぶつぶつ言い出した。
こいつ、頭がアレなんだな。とそのときの俺は直感的に悟ったのだった。
この結論はコンビを組んでいる今も間違っていないと確信している。
「ダンジョンに入っただけだとステータスは見えないシステムなのか。やっぱ敵を倒してレベルアップしないといけないのかな...」
キョロキョロしながら真っ暗な脇道なんかを覗こうと、列から離れようとする是親。
「おい、列から離れるなよ...」
俺がそう注意した直後に教員からも注意が入る。
「入る前にも注意したが、お前ら列から離れるなよ。柵なんかで閉鎖されてるが、脇道は真っ暗で道も整備されてないんで転んで怪我するぞ」
是親以外にも何人かはフラフラしてたみたいで、教員から全員に向かって注意しているようだった。
「暗い所はネズミなんかも潜んでる。噛まれたり触られたりしたら病気になるから、洞窟内では生き物には絶対に近寄るな」
「ダンジョンの浅い層にいるモンスターはネズミとかなのか...」
ゲーム脳、アニメ脳の是親にとっては危険な野生動物もモンスター扱いらしい。
「倒したらレベル上がるかな?」
小学生か?こいつは。同じ班なんで実習の評価が下がりそうでいやになる。
落ち着きない学生達も、歩く時間が長くなると次第に口数も減って、足取りも重くなる。
だいたい1時間も歩いた所で天井の高い、開けた場所に到着する。広さはだいたい体育館の半分くらいだ。
「よし、ここが目的地だ。しばらくはここで休憩するので、この部屋から出ないように。各班の班員はまとまって行動しろ。班員がはぐれて行方不明にならないように注意しろ。あと、部屋の備品には触らないように」
衝立で部屋を区切ってるようだが、この広い休憩スペースの他に、機械みたいなのが沢山置いてあるエリアや、ひたすらロッカーが並んでいるエリアがある。
「上級生はここで追加の道具や装備なんかを持ち出して、更に奥に潜って作業をしている」
先生が雑談しながら他のグループの質問に答えているのをなんとなく聞いていると、是親がグループから離れて他のエリアに行こうとしていた。
「おい、はぐれるなって言われてるだろ」
「ちょっとくらいいいじゃないか」
「何があるか気になるだろう」
「やめとけって」
そんな問答をしている所を教員にみつかったようで、雑談していた教員がこっちに歩いてくる。
「おい、勝手に集団から離れるな。触って崩れると危ない機材とかもあるからな。あと、そっちは女子更衣室があるから別の意味で危ないぞ」
衝立の向こうを覗こうとしていた是親が慌てて戻ってくる。
「やばい、事故で変態認定されるところだった」
「お前なら事故らなくてもそのうち変態認定されると思うぞ」
もうこの時点で俺の中の是親の扱いはだいぶぞんざいになっていたように思う。
あと、こいつと同じ班だとこれからも振り回されそうだという嫌な予感をひしひしと感じていた。
「さて、休憩終わり。帰りの準備をするか」
しばらく休憩した後、帰ることになった。地下道を散歩しただけの変な実習だとこの時は思っていた。
「じゃあ、順番に向こうのエリアに行って荷物を受け取るように」
単純に帰るだけだと思っていた俺たちは、くそ重い手提げ袋みたいなのを持たされることになる。
「今日の実習はこの荷物を持ち帰ることが目的だ。多少落としたくらいじゃ壊れないが、袋を破らないように気をつけろよ」
「先生、中に何が入ってるの?」
クラスの誰かが質問する。
「くず石だな。この地下空洞で取れるちょっと価値のある石って感じだ。サイズが小さいから砂利みたいなもんだが」
そんなに価値もない石の運搬をさせられると聞いて、クラスの中から不満の声があがる。
後から聞いた所、この石運びは最初の方の実習で1年生が毎年やらされる伝統的なカリキュラムらしい。
なんか、古代の労働奴隷になった気分が存分に味わえる嫌な実習だった。
単純ではあるが、ただでさえ体力のない1年生には過酷な内容だったため、地上に戻った時にはクラス中がうめき声を上げながらへたり込む地獄のような光景が出来上がっていた。
今ならこの程度の楽な実習で合格がもらえるなら大喜びなんだが、当時は本気で学校をやめるか考えるクラスメイトもいたりしたのだ。
まあ、そのうち慣れるのだが。
時間割の中でこの実習が必ず午後に入っているのは、1日の最初の方で実習をやると、学生がその日は使い物にならなくなって、別の授業に支障をきたすためらしい。
という訳で、最初の実習はこんな感じで、是親は最初からアレな感じだったというお話でした。
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