第2話 1995年の遠足
16、7の高校生にとって、遠足はさほど心躍るものではなく、むしろ私服披露会の緊張感があった。気が重いイベントだ。
制服姿でもおしゃれさん認定をされる女子や、目立つ男子はいるわけで、ほとんどが華やかなスポーツ系部活に属していた。もちろん、さえない私はそこに入っていない。
遠足の行き先は、沖縄市にある、沖縄こどもの国。
幼い頃から何度も行っている場所で親しみも愛着もあるが、それどころじゃない。
まずはアクティブな場所と行事であるから、自然かつダサくない格好を探さねば。
親友と一緒に北谷のジーンズショップ・ユーや浦添のマルエーに行き、試着を繰り返した。
流行の「チビT(ピタTともいう)」は肩幅のある私には全く似合わず、肩のラインは鎖骨に迫る。明らかにサイズミスだが仕方ない。基本、全部小さいんだから。
迷いに迷って選んだのは水色のチビT。アメリカのお菓子のパケみたいな、赤と白のポップなプリントがいい感じだ。
パンツは、薄いベージュのピタッとしたベルボトムにした。
とりたてて派手でもなければ地味でもなく、いい感じ。セールでしか服を買わないのに初めて定価に手を出した。
内田有紀や広末涼子に憧れて、流行りのショートヘアにしたせいで肩の丸みも二の腕の太さも隠せないけど、もういいや。おしゃれに見られたい気持ちが勝っていた。
まじめキャラの私、「へぇ意外とおしゃれだね」と囁かれるのを妄想しひとり悶える。
遠足当日。
私とそっくり同じTシャツを着た、小柄で華奢なアユミ。
学年一、大人びて美人なサヤカは、私と同型同色のベルボトムを履いていた。
同じTシャツを着ても二の腕が余りまくっているアユミと、同じパンツが少しもパツパツではない美女サヤカ。陽キャふたりのコーデを半分ずつもらった陰キャの心を 想像して欲しい。
「帰りたい」
迷って吟味して、思い切って、この仕打ちか。
けれど「誰も私を見てはいない」と自分に言い聞かせて乗り切ることにした。アユミとサヤカのそばに立たないようにだけすればいい。幸い私は、メンタル強めの陰キャだった。
さて今後も毎年くる遠足のために、せめて学習しようとまわりを見回す。
やはり「おしゃれさん認定」の子たちはさすがだ。
那覇の浮島通りにある古着屋で買ったピンクのポロシャツに、70年代風のワイドなベルボトムデニム、ピンクのリュックに栗色のおかっぱをなびかせたリナ。
「切りすぎたー」とあちこち触れ回っているぱっつん前髪が「かわいい」の賞賛待ちなのは見て取れたが、憎らしいよりかわいいが上回る。
おしゃれ男子は、なにやら分からないが洋楽のバンドTシャツのようだ。そうか、あれがカッコイイのか。変な英語が書いてあるがきっと良いのだ。
そしてアムラーのミカは貫いている。こどもの国でも黒い厚底がまぶしい。
もう服装チェックは終わりだ。「写ルンです」で写真を撮る度に、お腹くらいはへこませよう。
久しぶりに来たこどもの国は、緑の葉先をとがらせたヤシの木や赤いハイビスカス、園内をさーっと吹く風も懐かしかった。
そうだ、おばあちゃんとよく来たなと思う。
大人と一緒にしか来たことがなかった場所を、友達と歩いている。
猿山も象やキリンも、どきっとする蛇コーナーも見覚えがあるのに、一段あかるい太陽に照らされているみたいだ。
両手でつかんでいた柵をいつの間にか自分がゆうに超えたことも、背伸びをしないでも動物を見られることも、初めて気が付いた。
初夏の陽ざしは容赦なく照り付け、ぴちぴちのTシャツからむき出しの二の腕は焦げる様だったけど、なにやら清々しかった。私は成長したのだ。
それにしても、強がっても、やっぱ今日のコーデは恥ずかしい。
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