隔離と優先順位

 シュリングル侯爵家はまじないで有名なおうちでいらっしゃいますし、家伝来の魔道具の一つや二つあってもおかしくはありませんが、そんなにエディット殿下の態度が不振になるようなものなのでしょうか?


「具体的に、どう結ばれるものですの?」

「それは……私が近親者以外と接触すると私が苦しむというものだと聞かされているし、先ほどからオフィーリア嬢の気配を意識するたびに胸が苦しくなる」

「この部屋にはわたくし以外の女性もおりますが、皆様同じ症状が出るのですか?」

「…………ああ」


 エディット殿下は確認するように室内を見渡して胸を押さえました。

 なるほど、どうやら嘘ではなさそうですわね。

 けれどもすでに仲睦まじいお二人ですのに、さらに結ばれようとするなんてこれはいよいよエディット殿下の次の婚約者はマルゴット様に決定なのかもしれません。


「総師団長様、エディット殿下のおっしゃっていることは本当のようですわ。その魔道具を詳しく調べたいですがわたくしが近づくと最悪エディット殿下のお命が保証できませんので、総師団長様が調べていただけますでしょうか?」

「やめろっこれを離すだけでも苦しくなるんだ!」

「あら」


 それでは調べることも難しいですね。

 そこまで強いまじないのかかっている魔道具だなんて研究し甲斐があるので、いずれマルゴット様にお譲りいただけないかご相談させていただきましょう。

 ああ、けれども結ばれるという物でしたら結婚まではエディット殿下が持ち続けるという事になるのでしょうか?

 うーん、王子妃教育をなさっていないマルゴット様とエディット殿下がすぐに結婚するにはエディット殿下が王位継承権を破棄して臣下に下る必要があるのですよね。

 王子は他にもいらっしゃいますが年が離れていらっしゃいますのでそれまでは臣下に下れないでしょうし、逆に王子妃教育を終わらせるほうが早いと考えられるかもしれません。

 なんと言っても体が弱かったとはいえマルゴット様は侯爵令嬢なのですから最低限の基礎は出来ておりますでしょう。


「ではマルゴット様とエディット殿下が言葉通り結ばれるまでお預けですわね」

「くそっ」

「あら、下品なお言葉……」


 王子らしからぬ言葉に思わずそう呟いてしまいますと、いつの間にか隣に立っていたジリアン殿下が「ふっ」と笑ったようです。


「オフィーリア嬢には馴染みはないかもしれないが、戦場ではあの程度の悪態よく聞くぞ」

「そうなのですか?」

「ああ」


 ジリアン殿下のお言葉に現場と言うのは随分とお下品、いえ、殺伐としているのだと思ってしまいました。

 とはいえ、現場に出たことのないエディット殿下があのような言葉を使うなど、どこで覚えたのでしょうか?

 友人の影響かもしれませんが、あのような下品な言葉を日常的に話すご学友が居るのでしたらお付き合いを控えるようにしたほうがいいかもしれませんわ。

 今回の件が片付いたら国王陛下に話してみるのもいいかもしれませんね。

 国王候補、もしくは国王陛下に近い臣下になる方の側近が下品では話になりませんもの。

 とにかく、エディット殿下が身に着けている魔道具がどういったものなのかわからない以上、エディット殿下には特別措置を取らせていただく必要がありますね。


「総師団長様。わたくしはエディット殿下の隔離を提案いたしますわ」

「そこまでするのか?」

「この部屋には王族がそろっておりますもの、何かあっては遅いのです。こういっては何ですが万が一の場合エディット殿下だけの被害で済めばそれでよいではありませんか」

「なっ! 不敬だぞ!」

「わたくしは効率の話をしておりますわ。如何でしょうか総師団長様、ジリアン殿下、国王陛下」


 この言葉に総師団長様はすぐさま「僕はオフィーリア嬢の意見に賛成だよ。危険は避けるべきだ。幾人か魔法師をつけて別室に隔離したほうがいいだろう」とおっしゃってくださいました。

 ジリアン殿下も少し考えた後に「騎士団の者と近衛騎士団の者も幾人か同行させてなら」と承諾してくださり、残るは国王陛下の意見のみとなりました。


「…………王位継承者全員を危険にさらすわけにもいくまい。エディットの退室と隔離を命じる」

「父上!?」


 国王陛下のご決断でエディット殿下は数名の魔法師、騎士団員、近衛騎士団員と共に部屋を出ていきました。

 叫び声が聞こえてきますが、国王陛下のおっしゃる通りにこの部屋に万が一のことがあっては遅いのですから仕方がありませんね。


「くそっなんで私がこんな目にっそれもこれもマルゴットのせいだ!」


 あら、呼び捨てにするなんてよほど親しくなさっているのですね。


「少し気の毒かもしれないね」

「あらジリアン殿下、どうしてでしょうか? エディット殿下は効果は知らなかったとはいえマルゴット様の好意を受け入れた結果でございましょう? 気の毒と言うのはどういう事でしょうか?」

「言葉のままだよ。エディット殿下はオフィーリア嬢に気が残っているんだろう」

「気とは?」

「好ましいと思っているのさ」

「まあ!」


 あのような冷淡な態度を続けていらっしゃったエディット殿下がわたくしを好ましいと思っていたなんてありえませんわ。

 本当に好ましいと思っているのでしたら、ジリアン殿下のようにわたくしにアプローチなさるはずですもの。

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