近づかない距離と魔道具
わたくしは早速魔法師団第二師団を二つに分けると、より実践的な研究をしている者を東の森に、そうでない者を王都の守護に残しました。
わたくしはどちらでもよかったのですが、何かあった時に連絡がつかなくては困るという理由から王都に残ることになりました。
ジリアン殿下も王都に残られるという事で、わたくし達は王宮の一室で状況に変わりはないかと待機している状態でございます。
「それにしても、王都に影というのはいったいどういう意味なのでしょうか?」
「さて……どちらにせよ不吉な予言に変わりはない。私たちは不測の事態に対応するしかないよ」
その言葉にそれもそうだと思いなおしてわたくしはお茶を一口いただきます。
今慌ててもどうしようもありませんし、東の森に行った方々はこのようにお茶を楽しむ余裕もないはずですので、残っている身としてはこの後に何が待ち受けていようとも心に余裕を持って対応すべきですね。
とはいえ、わたくしといたしましてはこの部屋の重苦しい空気は些か辞めていただきたいのですが……。
もちろん王族の保護が第一ですのでこの部屋に国王陛下や王妃陛下、側妃様方や王子、王女の皆様がそろっていらっしゃるのはわかるのですが、なんと言いますか仲が良い方悪い方がいらっしゃいますので、みんなで仲良くお茶をするという雰囲気ではないのですよね。
それにしても、王族がこうして一堂に集まっているというのも危険ではないのでしょうか?
ここを狙われたら一瞬で我が国の終わりですわよね。
そうならないように万全の守護体制をとっておりますけれども、世の中には絶対と言うものはございませんもの。
例えば……
「エディット殿下、先ほどから随分顔色が悪いようですがどうかなさいましたの?」
「いや、なんでもない」
「そうですか」
そうは言っても、先ほどから胸のあたりをしきりに気にしているようですが、何かそこにあるのでしょうか?
確認したいですが、流石に皆様の前で上着を脱いで身体検査をさせていただくわけにもいきませんね。
かといってわたくし以外では何か仕込まれている場合見落とす可能性もありますし、難しいところです。
「オフィーリア嬢、どうかしたのか?」
「ジリアン殿下、エディット殿下についてどう思いますか?」
「うーん、先ほどからこちらを気にしているとは思うけど、何かあるのかい?」
「少々気になることが」
わたくしはジリアン殿下の耳元でエディット殿下の胸元に何か仕込まれているかもしれないと伝えますと、エディット殿下の顔色が悪くなりました。
やはり何かあるのでしょうか。
ちらりと視線を向けるとエディット殿下は苦悶を浮かべた表情をなさってこちらを睨むように見てきます。
睨まれる覚えはないのですが、なんだというのでしょうか。
「エディット殿下、オフィーリア嬢になにか?」
「いや……叔父上と仲がよさそうだと……」
「そう見えるかい? それは嬉しいね」
ジリアン殿下の言葉に国王陛下は苦笑しつつもどこか嬉しそうな雰囲気をだし、エディット殿下はあからさまに機嫌を悪くしたようです。
はあ、まったくなんだと言うのでしょうか。
「ジリアン殿下、王都の主戦力をこの部屋に集めたのはいいのですが、この部屋が襲撃されたら一網打尽になってしまうのではないかとやはり思うのです」
「だからと言って何が起きるのかわからないのに戦力を分散させるのも危険だろう」
「それが分かっているだけに難しいですわね。総師団長様、この部屋の結界は本当に大丈夫ですの?」
「三重結界だからの、二つが壊される前に強化することも張りなおすことも可能だろう」
「それはそうですが、万が一ドラゴンなどが来た場合は持つかどうか自信はありませんわよ。流石にそこまでは実験していませんもの」
「その時は騎士団の出番だね」
「まったくだ。何でもかんでも魔法師団に頼りきりでは騎士団の名が泣いてしまうよ」
総師団長の言葉にジリアン殿下も乗っかりますが、わたくしといたしましては不安が消えたわけではございませんわ。
この部屋にかけられている三重結界は確かに強固なものですけれど、上には上があるというのが第二師団のモットーですもの。
「……エディット殿下、本当に顔色が悪いですわよ?」
「気のせいだっ」
いえ、どう見ても顔色が青くなっているのを通り越して白くなっているのではないでしょうか?
流石にどうかと思い立ち上がって近くに行こうとすると、エディット殿下が席を立ちあがりわたくしから距離を取りました。
「エディット殿下?」
「くっ来るなっ」
「……わかりましたが、まさかそこまで嫌われているとは思いませんでしたわ」
「ちがっ……これには訳が!」
「総師団長、エディット殿下はわたくしに近づかれるのがとことんいやなようでございますので、一つ頼まれごとをされてくださいませんか?」
「なんだ?」
「エディット殿下の胸元に何があるのか確認してくださいませ」
「やめろ!」
途端にエディット殿下が部屋の隅に逃げようとなさいますが、それを逃がす総師団長様ではございません。
すぐさまエディット殿下の傍に行きますと「失礼」と言って胸元を確認します。
「……このペンダントは?」
総師団長様がエディット殿下の胸元からペンダントを指に引っ掛けて引き抜きますと、エディット殿下が慌ててそれを奪い返しました。
「お前に関係ないだろう!」
「それにはまじないがかけられていますね。王家の物ではなさそうですが……」
「これはマルゴット嬢に貰ったものだ」
「ほう? どのような効果のあるものですか?」
「詳しくは知らない。渡された後に意中の男性と結ばれるための魔道具だと聞かされたんだ」
それはまた、なんと申しますか微妙な魔道具ですわね。
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