不穏な予言
「オフィーリア嬢」
「……エディット殿下、ごきげんよう」
魔塔を出ると
ここ最近は魔塔にいらっしゃらないとお聞きしていたので安心していたのですが、油断を誘っていただけだったのでしょうか?
「わたくしに何か御用でしょうか?」
「……君はその……、叔父上と付き合っているのか?」
「付き合っておりませんが」
「そうなのか」
わたくしの言葉にどこか安心したような顔をなさったエディット殿下に、思わずため息を吐き出しそうになりました。
最近どこに行ってもジリアン殿下とわたくしが付き合っているというような噂が飛び交っておりますわね。
これもジリアン殿下の計算のうちなのでしょうか?
魔塔の中まで時折通っているという話はいつの間にかわたくしとの逢瀬を楽しむためだというものに変わっているようです。
「けれども、わたくしがどなたと付き合おうとエディット殿下と関係はありませんわよね?」
「それはっだが……叔父上の交際相手は私にも関係があるだろう」
「なるほど? では改めてお付き合いはしておりません。これでよろしいですか」
「あ、ああ」
「それではわたくしは失礼いたします」
「待ってくれ!」
その言葉と共にエディット殿下がわたくしに一歩近づこうとしますが護衛に阻まれて奥歯をかみしめる様子が見えます。
何がそんなに気に入らないのでしょうか。
「エディット殿下、わたくしにかまっている暇があったらマルゴット様と友好を深めてはいかがですか?」
「君には関係ないだろう!」
「ええ、関係ございませんわね。ただちょっとした思い付きを口にしただけですわ」
だって本当に関係ありませんもの。
そう言って他にご用事があるのかと再度尋ねますと、話があると言われてしまいました。
今さら何の話でしょうか?
「申し訳ありません。突然話があると言われましてもこちらにも予定というものがございます。後日先ぶれをいただき予定の空きを確認してからお越しいただけますか?」
「叔父上はどうなんだ。魔塔に入り浸っているそうじゃないか」
「入り浸ると言うほどいらっしゃっていませんし、あの方がいらっしゃると研究の助言をいただけてわたくし共も助かっておりますわ」
「だったら私も助言をすれば魔塔に入れるんだな」
「何をおっしゃっていますの? 現場に出たことのないエディット殿下の助言などたかが知れているではありませんか。そもそもエディット殿下からすればわたくしの仕事は
「ぐっ……」
以前自分がおっしゃった発言を思い出したのか、エディット殿下が眉間にしわを寄せましたので、わたくしはわざとらしくため息を吐き出しますと「もうよろしいでしょう」と言ってその場を離れました。
背後からエディット殿下の声が聞こえましたが、わたくしの予定も詰まっておりますので本当に構っている余裕がないのですよね。
急ぎ足で馬車に乗り込むと王宮にいる魔法師団総師団長様のところに向かいます。
魔法師団総師団長様は御年58歳ながらもいまだに現役でいらっしゃり、むしろ年々そのお力を増していると言われている方でいらっしゃいます。
今回は次の魔物討伐に関しての緊急会議という事ですので、わたくしは第二師団長としての正式な参加になるのですよね。
会議室に到着すると第三師団長以外はすでに席におつきになっていて、わたくしは頭を下げて入室すると所定の位置に座りました。
「まーた第三師団長がビリだわね」
「今回は緊急会議の事を覚えてるといいのだけど」
「流石に3回連続で忘れるという事はないのではないでしょうか?」
「いんやー、あいつならありえる」
第一師団長と第三師団長はとても仲がよろしいのでこのような軽口も叩けますが、本来なら緊急会議にせよ通常の会議にせよ遅刻はおろか開催を忘れるなどという事は許されません。
第三師団長のお人柄ゆえに見逃されているというのが現状ですわね。
そのまましばらく待っていると、バタバタと足音が聞こえ大きな音を立てて会議室の扉が開き第三師団長が入室していらっしゃいました。
「セーフッ」
「時間的にはセーフだわね」
第一師団長が時計を見ておっしゃいましたが、時間的にはぎりぎりと言ったところでしたね。
今回は会議を忘れていなかっただけましという事にいたしましょう。
「ほんで総師団長、緊急会議なんて開いてどうしたの?」
「エステラ、本題に入るの早すぎ。僕まだ息が整ってない」
「知るかいな。ギリギリで来たのが悪い」
「そりゃそうだけどさ~」
ふふ、第一師団長と第三師団長は本当に仲がよろしいですわね。
「ごほん。今日集まってもらったのはほかでもない。東の森に大量の魔物が発生するという予言が出た。至急部隊を編成して討伐に向かって欲しい」
その言葉に、場の空気が一気に緊張感を帯びました。
予言というのは神官が神より賜るものですが、それで魔物の大量発生が予言されたというのであればそれは余程のことに違いありません。
「……と、言いたいところなのだが第一師団の者は王都に残って守護にあたってほしい」
「どういうこと?」
「予言は一つだけではなかった。王都に影が落ちる、という予言もまた出ているのだ」
「影とはまた曖昧ですわね」
「だなー。まぁ、
「甘く見るなよってな。とはいえ、予言で出るほどのものだと油断もできないか」
わたくし達が緊張の表情を浮かべていると、総師団長様が「そこで」と切り出しました。
「今回は第二師団のメンバーも前線に出てもらいたい。もちろん、王都の守護と東の森の討伐の両方にだ」
「つまり、第二師団を二つに分けるという事ですわね」
「理解が早くて助かる」
総師団長の言葉に、わたくしは皆にどう伝えたらいいのかと少しだけ頭を抱えそうになってしまいました。
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