下手をうってしまいました
「この度はお誘いありがとうございます、ジリアン殿下」
ある晴れた日、わたくしはジリアン殿下の公爵家で行われるお茶会に参加いたしました。
ジリアン殿下も二人きりのお茶会はわたくしが遠慮すると思ったのか、数人を招いての小規模なお茶会です。
参加なさる方の年齢は様々で、下はわたくしのような15歳、上はジリアン殿下に釣り合うような20歳のご令嬢がいらっしゃいます。
皆様これがジリアン殿下の婚約者を探すお茶会だと思っているのか、並々ならぬ気合を感じられますね。
メイドに誘導された席に着くと案の定というか、ジリアン殿下と同じテーブルでこれだけで再び女性陣から好奇の目でみられ、微笑みの下で溜息を吐き出しましたが表向きは気にしていないという風を装います。
実際、爵位だけを考えればわたくしの位置は間違っていませんもの、堂々としていればいいのですわ。
「皆さん、今日は私の主催するお茶会に参加してくれてありがとう。お茶会と言っても淑女ばかりが集まるものではなく、男女が参加する気軽なものだからぜひ楽しんでいってくれ」
確かにお茶会と言えば女性が集まって行うものですが、今回のお茶会は男性も参加しておりますね。
もしジリアン殿下を逃しても有力な子息が参加していらっしゃるのでご令嬢も何かしら得るものがあるのではないでしょうか。
挨拶を終えたジリアン殿下が席に着くと、まずはわたくしではなく同じテーブルについている侯爵子息にお声をおかけになりましたが、まぁ妥当ですわね。
侯爵子息との話を終えると、次ににこやかにわたくしに声をかけていらっしゃいます。
「オフィーリア嬢も来てくれてありがとう」
「いいえ、せっかくお誘いいただきましたので
「一度と言わず何度でも参加していただきたいものだね」
甘い微笑みと言うのはこういうものを言うのでしょうか? ジリアン殿下の笑みが妙に甘く感じてしまいます。
この笑みはちょっとドキドキしてしまいますね。
「そう何度もお誘いいただいては誤解を招いてしまいますのでご遠慮申し上げますわ」
「誤解? ふふ、私としては誤解じゃなく本気で受け取ってほしいんだけどね」
ですから、その言動が誤解を招くと言っておりますのに、懲りないですね。
それともまだ国王陛下の言葉を聞いている最中なのでしょうか? 湾曲的に穏便に断りたいところなのですが、相手はジリアン殿下ですし一筋縄ではいかないのかもしれません。
わたくしは気を引き締めてジリアン殿下を見ます。
「最近、わたくしの周囲でジリアン殿下との噂が持ち上がっていて正直困っておりますの」
「困って?」
「ええ、わたくしには全くその気がないのにジリアン殿下がわたくしにプロポーズをしたという噂があって……。仕事にも支障が出てしまうかもしれませんし、このような噂は本当に困ります」
「それは……随分直接的なお断りだね。流石にちょっと傷つくかな」
「申し訳ありません。誤解が横行しても困りますので」
「やはり年が離れているのが気になっているのだろうか?」
「いえ、そもそもわたくしは結婚しなくとも生きていけますので結婚願望がございませんの」
わたくしとジリアン殿下の会話を聞いている同じテーブルの方々の表情が何とも言えない、むずがゆそうなものになっていますが、ここではっきりしておかないといけませんので話を続けるといたしましょう。
「自立している女性は大変好ましいと思うよ」
「わたくしもそう思いますわ。ですので、無理に結婚や婚約と言うものに縛られる必要はございませんわよね」
「う~ん、オフィーリア嬢は思ったよりも難敵だね。私は純粋に君を好ましく思っているのだけれども」
「ありがとうございます。けれどもそれは妹に感じるような好ましさだと思いますわ」
ズバリ言い当てられて驚いたのか、流石のジリアン殿下も目をきょとんとさせて言葉をなくしたご様子です。
「ふっははっ。なるほど妹に対するものか……確かに私には妹がいないからそういう存在に憧れたのは否定しないよ」
「ええ、ですから――」
「でも、オフィーリア嬢に対する感情は確実に恋愛感情だ。妹に対するものとは全く違うさ」
きっぱり恋愛感情と言われてしまい、今度はわたくしがきょとんとしてしまう番でした。
「勘違いという事は?」
「ない。いったい何年君を想っていると思うんだい?」
「それは存じ上げませんが」
「君がエディット殿下と婚約する前から君を知って見て、想っているんだ」
やはり幼女趣味なのでは?
「だからと言って先日言ったように幼女趣味ではないよ。オフィーリア嬢にだけだ」
やはり心を読まれているのでしょうか?
「君は自分が思っているよりも顔に表情が出ているよ。もちろん、親しいものにしかわからないだろうから安心していい」
「安心できるのでしょうか、それは……」
「私や家族以外にはわからないのだから、安心してくれ」
「そうですか」
ジリアン殿下にわかる時点で安心できませんよね?
ともあれ、公式の場で恋愛感情で好ましく思っているなどと宣言されてしまっては噂の払拭どころか増長させてしまったようなものですね。
下手な事をしてしまいました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます