本職とラブレター

 卒業を決めたわたくしの行動は早く、翌週には魔法学院を卒業いたしました。

 惜しむ声もございましたが、お茶会や社交界には今まで通りに参加するとお伝えしましたら、皆様お会いできるのを楽しみにしているとおっしゃってくださいましたし、魔法学院に研究のために通うことがございますので学院内で会う事もまたあるでしょう。


「師団長~、例の通信機ですけどやっぱ魔力吸われまくって長時間の会話は常人には無理っすよ~」

「困りましたね。距離も魔力に関係しているようですし、原理は出来上がっているのですから、なんとか普通・・の魔力でも使用できるように改良しないといけませんね」

「そもそも師団長の魔力を基準に開発を進めたのが間違いなんだって言ってるじゃないですか」

「そうは言ってもな~、ここ最近の開発物は全部最初は師団長の魔力基準じゃん? そっからどうにかしていくのが俺らの仕事だし~」


 魔法学院内にある魔塔で研究を進めていると必ず発生する問題に、今回も苦笑していると研究員の皆さんも同じく苦笑なさいます。

 ここにいらっしゃる皆さんも魔力量は多いのですが、中でも飛び抜けて魔力の量が多いのがわたくしですので、基準にされやすくこういった問題が多々出てしまうのです。

 あとはどのぐらい使用魔力量を減らせるかが課題なのですが、今回作成している通信機は少々扱いに難しく魔力量を下手に抑え込んでしまうと同時に使っている他の通信機と干渉してしまう欠点があるのですよね。

 それに、通信機自体が大きいという事もあって持ち運びも大変そうです。

 出来れば手のひらサイズのものにしたいのですが、中に組み込んでいる魔法式が大きいので難しいですし、簡易化しすぎてこれまた干渉されてしまっても問題です。

 ゆくゆくは国家間を超えて通信できるようにしたいのですが、わたくしの魔力を使っての物でしたらお母様の祖国と通信できることは確認できているのですが、それ以上の距離はまだ確認できておりません。

 やはりここは根本的な魔法式の見直しが必要なのかもしれません。


「魔法式を見直してみましょう。無駄な魔力消費や文言があるのかもしれません」

「そうは言っても師団長、この魔法式だって数か月かけて完成したものですよぉ」

「けれどもこのままでは実用化は難しいのですから、第二師団としての誇りにかけて使えるようにするしかありませんわ」

「は~い」

「そういえば師団長」

「なんでしょう?」

「ジリアン殿下に口説かれてるって本当ですか?」


 ここですらその話題が出るのかと思わず溜息を吐き出しそうになってしまいましたが、顔には相変わらず笑みを浮かべたまま「誤解です」と返しました。


「ジリアン殿下は国王陛下に言われているに違いありませんわ。そうでなければ10歳も下の小娘に声などかけるはずもないでしょう」

「う~ん、確かに師団長を国にとどめておくには有効な手段でしょうけど、あのジリアン殿下がそんなことに協力しますかね?」

「と言いますと?」

「いくら兄弟仲がよい陛下とジリアン殿下でも、オフィーリア様を弄ぶような真似はしないと思うんですよ。ましてや白紙になったとはいえエディット殿下の瑕疵で婚約がなくなったわけですし」

「弄ぶというのはいささか違うのではございません?」

「いーや、エディット殿下との婚約が白紙になってすぐにプロポーズするなんて、はたから見たらオフィーリア様を王家が弄んでいるように見えますよ」


 そういうものなのでしょうか? 確かにわたくしの友人が同じ目にあっていたらわたくしも怒っていたかもしれませんね。

 なるほど、そう考えてみると弄ばれているという意見にも納得がいきます。


「まぁ、どちらにせよわたくしの次の婚約に関してはわたくしの好きにしていいと陛下のお墨付きをいただいておりますので、ジリアン殿下には申し訳ありませんが言い寄られても困りますわ」

「わ~ぉ、ジリアン殿下お気の毒っすね」

「はいはい、皆して師団長の邪魔をしないの。ほら、さっさと開発に戻ってちょうだい」


 副師団長がそう言って皆を解散させますと、わたくしの前に書類をどさりと置きました。


「師団長、開発予定の魔法と魔道具の予定表と承認表、それから予算表とその他決済諸々の書類です。どうぞ本日中に目を通してくださいね」

「シフォンさん、この量を今日中にしたらわたくしが研究する時間が無くなってしまうのでは?」

「王子妃教育がなくなったのですから、時間に余裕は出来ているはずです」

「ふう、そうは言ってもこの量は……」


 積まれた書類の山に、通信機の開発の前にわたくしの助手を探すほうが先かもしれないと思わず本気で溜息を吐き出してしまいました。


「それから――」

「まだございますの?」

「ジリアン殿下よりラブレターが届いておりますがいかがなさいますか?」

「ラブレター?」


 その単語に訝しげにシフォンさんを見ると、品のある封筒が揺れているのが見えます。

 透かし彫りを見るに確かにジリアン殿下のもので間違いありませんね。

 無視をするわけにもいきませんので、手紙を受け取って中身を拝見いたしますと、先日は急にプロポーズのようなものをしてしまって申し訳ないというお詫びから始まり、今度改めてお茶会の席を設けたいという物でした。

 さて、どうしたものでしょうね。下手に断って何度もお手紙をいただくのも面倒ですし、一度行ってきっぱり断ったほうがいいかもしれませんわ。

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