学院内の噂とわたくしの考え

 婚約が白紙になった後、エディット殿下は魔法学院内でどうやらご自分がわたくしの事を振ったと言いふらしているようでして、わたくしは事情を知らない・・・・・・・方々から同情の眼差しを送られております。

 別によろしいのですよ? 害はありませんもの。ただ、ほんの少し不快ではありますね。

 なんでもわたくしはエディット殿下に未練があって復縁を迫られて困っているそうなのですが、そんなことを申し上げた記憶は一切ございません。

 加えて言うのであれば、婚約を白紙にする際にごねたのはエディット殿下の方でございます。

 まったくもってよく回る口ですわね。

 ご自身はマルゴット様を相変わらず傍に置いていらっしゃるようですし、わたくしの事などもうお気になさらずに好きな方とご一緒に過ごせばよろしいのに、このようにわたくしの事を話せばその分逆にわたくしに未練があるように思われるのではないでしょうか?

 わたくしにとっては知ったことではございませんが、好奇の目にさらされるぐらいでしたら本気で卒業してしまいましょうか?

 そうですわね。友人と離れてしまうのは少し寂しいですが、研究機関には顔を出しますし会う機会もあるでしょう。

 ああ、それが一番いい気がしてきました。

 そうと決まればお父様にお願いして早速卒業の準備を進めていただきましょう。

 お父様は国王陛下との話し合いでわたくしの今後の婚約についてはわたくしに一任するという権利をもぎ取って来たとおっしゃっていましたし、国王陛下からジリアン殿下が何かを言われていても、それをたてにお断りすることが出来ますね。

 それにしてもわたくしにいきなり求婚してくるなんて、ジリアン殿下もお人が悪いですわ。

 見目麗しく地位もある、社交界でも人気のあの方に突然以前から想っていたなんて言われたら、普通の女性だったらときめいてしまうのではないでしょうか?

 もちろんわたくしはそれが嘘だと理解しておりますけれども、驚きは致しましたわね。

 冗談であのような事を言うとは思いませんし、国王陛下のご命令でもあのような事を言うのは矜持に関わるのではないでしょうか?

 一歩間違えれば自分を貶める発言なのですもの。

 ジリアン殿下に限って国王陛下に利用されるなどという事はないと思いますけれども、お国の為と言われたら動かないとも限りません。

 そう考えるとジリアン殿下も難しい立場なのかもしれませんわね。

 わたくしの場合は国に忠誠を誓っているわけではございませんので、もしこの国で不都合なことが起きたら別の国に行きますしね。

 ……こういうわたくしのことを薄情と言うのかもしれませんが、面倒な婚約から解放された今、わたくしは自由に生きてみたいのです。

 思う存分に魔法や魔道具の研究をしてみたいですし、実際に現場に出てその効果を試したいとも思っています。

 今まではエディット殿下の婚約者だから危ないことをしてはいけないと言われておりまして、現場に出ることは出来ませんでしたからね。

 報告は受けていましたが、自分で実際に試したり目にしてみたりするのでは違うと思うのですよ。

 もちろん、最低限の実験は行ったものを現場にはご提供しておりましたが、それでは物足りないというかなんともうしますか……満たされないのです。

 もっと滾るようなものを作り出し、経験したい……そう考えるのは研究者としては仕方がない欲求なのではないでしょうか。

 探求心とは抑えきれないものなのです。


「オフィーリア様、どうかなさいましたの? 例の噂をお気になさっているのでしょうか?」

「噂ですか? わたくしがエディット殿下に捨てられたという物でしたらまったく気にしておりませんし、事実無根なのでどうでもよろしいですわ」

「まあそうなのですか? いえ、それではなくジリアン殿下がオフィーリア様に求婚をしたという噂です」

「そのような噂が?」


 噂が出回るのが随分早いですね。これは王家が絡んでいるとみてよろしいでしょう。

 王家も手段を選んでいられないのでしょうか?

 自分でいうのもなんですが、そこまでわたくしの血を取り込まなくてもいいと思いますし、いくらかは遺伝に左右されるとはいえ魔力は個人によるものが大きいのでわたくしの子供がわたくしと同じだけの魔力を持って生まれるとは限りませんのにね。

 確かに貴族で魔力なしは珍しいですがいないわけではないですし、逆に平民にも膨大な魔力を持った方が生まれたりするものです。

 国王陛下だってその事はご存じのはずですのに、うーん……やはりお母様の祖国の血を取り込みたいのでしょうか?

 外交上そこまで重要視される国ではないと思いますが、国王陛下にはわたくしには見えていない未来が見えているのかもしれません。なんといっても一国の王ですものね。


「それで、ジリアン殿下は本当にオフィーリア様に求婚なさいましたの?」

「あれを求婚と言っていいのかはわかりかねますわね。ただ、冗談で昔から想っていたとは言われましたわ」

「まあまあまあ!」


 友人たちは嬉しそうにはしゃぎ始めると、「ジリアン殿下となら年は離れていますがお似合いです」などと言い始め、わたくしは事態の収拾を兼ねてやはり早々に卒業すべきかと意思を固めました。

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