婚約の白紙と大いなる勘違い
あのお茶会の一か月後、お父様からわたくしとエディット殿下の婚約が正式に白紙になったことを告げられました。
それに伴い婚約契約書を破棄するのですが、その書類にサインするためにわたくしは王宮に来ております。
もちろん両親も一緒です。あちらは国王陛下と母親の側妃様が同席なさるそうですし、妥当なところでしょう。
場を整えられた応接室で待たせていただいておりますと、エディット殿下たちが入っていらしたので、わたくし達は立ち上がって臣下の礼を取ります。
「楽にしてくれ、アルフィーネ侯爵家の皆。此度はわざわざ足を運んでもらい感謝する」
陛下の言葉にお父様が「当然のことをしているまででございます」と返し、陛下たちがお座りになったのを確認してからわたくし達もそろって着席いたしました。
「では、婚約を白紙にするためにこちらの契約書にこの魔道具でサインの上書きをお願いいたします」
神官長がわたくしとエディット殿下の婚約の契約書とそれを無効にする魔道具をテーブルの上に置きました。
この魔道具は魔法師団第二師団で開発したものでして、魔力を流し込むことで契約を結んだりそれを破棄したりすることが出来るのです。
もちろん、契約は一方だけのサインでは無効にはなりませんので、契約者
わたくしの婚約の場合、陛下とお父様、そしてエディット殿下とわたくしのサインが必要になりますね。
この魔道具の欠点として、サインした誰かが死亡なり身体的な障害でサインが出来ない場合でも契約の無効には
現在は理由があってサインが出来ない場合の契約の無効を行える魔道具の開発も考えているのですが、悪用されないとも限りませんし、他にも色々開発しなければいけないものがありますので、後回しになっているのですよね。
契約が無効にできないことを逆手に取った犯罪もございますし、なかなか難しいものです。
考えている間に陛下とお父様がサインを上書きして無効化すると、わたくしに魔道具を渡してきましたのでわたくしもサインを上書きいたします。
これでわたくし達
「エディット、早くサインをしなさい」
陛下がエディット殿下をそう促しますが、なかなかサインをなさろうとはなさいません。
「どうした、早くサインしなさい」
「……私は別にオフィーリア嬢との婚約白紙を望んではいません」
その言葉に流石にわたくし達は唖然としてしまいました。この期に及んで何をおっしゃっているのでしょうか?
エディット殿下はわたくし達から視線を逸らしたまま、「たかが学生の遊びで婚約を白紙にするなんて馬鹿らしい」と言うと、今度はわたくしを睨んで来ました。
「たかが学生の遊びだと? 本気で言っているのか?」
「我が娘も、陛下も王妃陛下も散々エディット殿下に態度を改めるよう伝えております。学生だからなんだというのです、王族に、いえ貴族ですらそのような言い訳が通じるとでも?」
「アルフィーネ侯爵の言うとおりだ。成人前の子供ならいざ知らず、お前は成人しているのだぞ。学生だからと言ってその行動や言葉に責任が伴わないわけがないだろう」
「それはっ……だったらオフィーリア嬢はどうなんですか。魔法師団第二師団長なんて
エディット殿下の言葉に陛下は今度こそ眉間にしわを作り、側妃様は扇子を握り締めて震えていらっしゃいます。
お父様とお母様も呆れているというか、怒っているような微笑を浮かべておりますし、わたくしもここまでくると呆れを通り越して思わず笑ってしまいそうです。
「お言葉ですがエディット殿下、本気でそのようにお考えなのでしょうか?」
「あ、ああ。前線で戦うわけでもないのだから安全なところでのオフィーリア嬢の遊びだろう」
「信じがたいことをおっしゃいますね」
お父様は微笑みを浮かべていらっしゃいますが目は笑っておらず、エディット殿下は少々驚いたように返しました。
これが王子教育と帝王学を受けた方なのでしょうか? この国の重要機関の役目を理解していないなど
「まったくだな。エディット、いいからサインをしろ。これはお前のわがままでどうにかなる問題じゃない。既に婚約の白紙は決定したことだ」
「しかし父上っ、私は……」
「控えよエディット。これは父親ではなく国王としての命令だ。さっさとサインをしなさい」
国王の命令と言われて、流石にわがままが通じないと思ったのかエディット様は渋々魔道具を持つとサインを上書きなさいました。
4人のサインが上書きされた瞬間、婚約の契約書が燃え上がり神官長が婚約の白紙が成立したことを宣言いたしました。
はあ、やっと肩の荷が下りた気分ですね。
「オフィーリア嬢」
「はい、なんでしょうかエディット殿下」
「この私との婚約がなくなったこと、せいぜい後悔するんだな」
「あら、どうして後悔しなければいけないのでしょうか? わたくしといたしましては今後面倒な王子妃教育も受けなくて済みますし、エディット殿下が
「負け惜しみを言っていられるのは今のうちだ」
負け惜しみでもなんでもないのですが、エディット殿下は何をおっしゃっているのでしょうね。
さて、婚約の白紙ですので慰謝料などは発生しませんが、王家はわたくしの次の婚約に口を出したくて仕方がなさそうですので、エディット殿下に退席していただいた後はその話し合いをお父様達がなさることになります。
わたくしも同席したいところなのですが、お父様が簡単に婚約をさせはしないとおっしゃってくださったので、お任せしようと思います。
「ではお父様、わたくしはこれで失礼いたしますわ」
「ああ、あとで行くから
「そうさせていただきますわ」
エディット様よりも先にわたくしが退席するのですが、背後でエディット様と側妃様が陛下に部屋で謹慎するように言われているのが聞こえました。
邪魔者は早々にご退席というところですか。
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