不機嫌なお茶会と王弟殿下の登場
「ごきげんよう、エディット殿下」
月に一度のお茶会でそうご挨拶申し上げましたが、エディット殿下からの返事はありません。
何度も国王陛下と王妃陛下から王族としての品性を守るように言われているはずですが、やはりその言葉は届いていないのですね。
もう呆れかえってご注意申し上げる気力もありません。
ただ、こういったエディット殿下の態度はもれなく控えている者によって報告がいくのですが、以前それをご忠告申し上げたのは覚えていらっしゃらないのでしょうか?
用意された席に座り、提供されたお茶をいただきますがその間わたくしたちの間に会話は一切ありません。
沈黙が続く中、わたくしはまっすぐにエディット殿下を見ますが、相変わらずわたくしを無視するように視線はこちらにありません。
「……いまだにマルゴット様を贔屓なさっているようですが、いつになったらおままごとに飽きるのでしょうか?」
「ままごとだと?」
わたくしの言葉に機嫌を悪くしたのか、眉間にしわを寄せてやっとこちらに視線を向けたエディット殿下の声が低く響きます。
「違いますか? 仮にも婚約者が居る身で他の女性と懇意にして、あまつさえそれを見せびらかすなど王族としての品性に関わります。今ならまだおままごととごまかせるのではございませんか?」
「ふざけるなっ」
わたくしとしては事実を申し上げたのですが、エディット殿下はそれが気に入らないらしく声を荒げます。
感情を抑制することもできないなんて、帝王学や王子教育を学んでいるはずですのにあまり成果が出ていない証拠ですね。
「マルゴット嬢は体が弱いんだぞ。そんな令嬢を守って何が悪い。嫉妬に駆られて醜い発言はよしてもらおう」
「嫉妬ですか? わたくしがどうしてマルゴット様に嫉妬しなければいけないのでしょうか」
心の底から不思議に思って問いかけましたが、エディット殿下はご機嫌を損ねたままのご様子で音を立てて席を立つと「ふん。言うだけは立派だが、お前に私の私生活にまで口を出す権利はない」と言ってお茶会の場から離れて行ってしまいました。
はあ、また途中退席ですか。
わたくしは視線を侍女に送りますと、侍女も心得たものなのか小さく頷きました。
とりあえずわたくしは
せっかく天気もよく風が花の香りを嫌味なく運んでくれますし、相変わらず出されるお茶は最高級品ですし、お茶菓子もおいしいですしせっかく王宮まで来たのですから
一口サイズのフロランタンをつまんだところで、人の気配がしたのでそちらを向くと、王弟殿下のジリアン殿下がおいでになりました。
流石に座ったまま挨拶するのは失礼ですので、立ち上がってカーテシーをします。
「ごきげんよう、ジリアン殿下。本日は良いお天気ですわね」
「やあ、オフィーリア嬢。エディット殿下はどちらかな? 兄上から言伝を預かっているのだが」
「さようでしたか。あいにく先ほど席をお立ちになりました」
わたくしがそういうとジリアン殿下は何となく事情を察したのか、「やれやれ」と言って先ほどまでエディット殿下が座っていた席に座ると、わたくしも着席するようにおっしゃってきましたので、遠慮なく座りなおさせていただきました。
すぐさまメイドがジリアン殿下にお茶をご提供なさいますと、ジリアン殿下はゆっくり香りを楽しんだ後に一口お茶を飲み、深く息を吐き出しました。
「兄上……陛下はエディット殿下の態度が変わらないようならこの婚約について再考するとおっしゃっていた」
「あら、やっとお考えになってくださったのですか」
「今頃侯爵家にも話がいっているだろうね」
「お父様が喜びますわね」
わたくしもカップを持ちあげて香りを楽しんだ後お茶を口に含みコクリと飲み下すと、にっこりと微笑みました。
「君の家は婚約の白紙を望んでいるからね。陛下としては是が非でも君を取り込みたかったんだろうけど、肝心のエディット殿下が今のままじゃ逆にこじれるとやっとお考えになったんだろう」
ジリアン殿下はフィナンシェをつまみ口にすると、再びお茶を飲んでわたくしをじっと見つめて来ました。
「どうかなさいましたか?」
「いや、この婚約が白紙になったら君はどうするのかと思ってね」
その言葉にわたくしはカップを置くと「そうですわね」と頬に手を当てました。
「特に考えていませんが、魔法師団第二師団長としての任を全うするために研究に専念するのもいいかもしれませんわね。そう思いませんか、騎士団総師団長様」
にっこりと微笑んで言うと、ジリアン殿下も微笑んで「それもいいかもしれないね」とおっしゃってくださいました。
そう、ジリアン殿下はこの国の騎士団の総師団長に就かれていらっしゃいます。
王族を守護する近衛騎士団とはまた別ではありますが、関係がないわけでもなく、近衛騎士団に入るためには現在はジリアン殿下の推薦が必要になるのです。
魔法師団から近衛騎士団に派遣を出すこともありますが、その際はよほどの緊急案件でない限り魔法師団総師団長の承認を得る必要があります。
ちなみに、魔法師団から近衛騎士団や魔物狩りに派遣されるのは基本的に第一師団と第三師団になります。
わたくしが師団長を務めている第二師団は魔法や魔道具の研究を主目的としているところなのです。
言ってしまえば内勤がメインなのですが、新しい魔法や魔道具の開発をしているため決して侮ることが出来ない部署でもあるため、所属しているメンバーは魔法師団第二師団に所属していることに誇りを持っております。
「それにしても、こんなことを申し上げるのはどうかと思いますが……エディット殿下の態度は変わらないと思いますわ」
「どうかな? 婚約が白紙になると言われたら流石に態度を改めるかもしれない」
「お言葉ですがジリアン殿下。エディット殿下はどうやらわたくしと居るよりもマルゴット様とご一緒にいるほうが余程心が穏やかになるそうですし、爵位的にも新しい婚約者になるには問題はございませんでしょう」
なんと言ってもマルゴット様はお体が弱かったことを除けば侯爵家のご令嬢で問題はないのですから。
ただ、領地で静養していただけあって王都に住まう貴族令嬢としてのマナーには
わたくしとしましてはそこを含めて1学年から入学しなおしたほうがいいと思ったのですが、エディット殿下は反対のようですし仕方がないでしょう。
まあもっとも、わたくしとの婚約が白紙になったからと言ってエディット様の次の婚約者にマルゴット様が決まったわけでもありませんので、そこは何とも言えませんわね。
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