年上の男性はお好きですか? いいえ自立しているのでそのお誘いは結構です

茄子

浮気は紳士の行いではないのでは?

「まぁ、ご覧になってくださいませ」


 その声に、発した友人の視線を追うとそこには一人の女生徒を複数の男子生徒が囲っている様子が見て取れ、わたくしは思わず「確かにまたですわね」とため息を吐き出したくなりました。

 女生徒、マルゴット様が編入してきてからというもの、一部の男子生徒は熱に浮かされたように彼女に侍っており、自分の婚約者からの忠告を受けても改善する様子が一向にありません。

 そして悲しいことにマルゴット様を囲っている中心人物がわたくしの婚約者のエディット第一王子殿下なのです。

 もちろんわたくしもエディット殿下には何度かご注意申し上げましたが、最近では「嫉妬は醜い」と言われてしまう始末で全く取り合ってはいただけません。

 この事は国王陛下と王妃陛下にも報告させていただいており、お二人からも王族としての品性・・・・・・・・を守るように忠告されているそうなのですが、今の様子を見ると意味が分かっているのかどうか。


「オフィーリア様、最近では殿下の寵愛がマルゴット様にあるなどと言う噂もございますのよ」

「存じておりますわ。そのことについてエディット殿下にご進言申し上げましたが、くだらないと言われてしまうだけでした」

「けれど、殿下の寵愛がオフィーリア様からマルゴット様に移ったなど、無礼にもほどがあります」


 憤慨する友人たちにわたくしは、そもそもエディット殿下の寵愛はわたくしになかったけれど、と思いましたがあえて口にすることは致しませんでした。

 わたくしとエディット殿下の婚約は政略的なものでして、わたくしの祖母が王姉であったこと、わたくしの母親が隣国の王妹であること、わたくしの家の爵位が釣り合っていること、そしてわたくしの持つ魔力が膨大であることが考慮されてのものでございます。

 そもそも初対面からエディット殿下の態度はわたくしに対して冷淡でございまして、付き添いの両親と国王陛下・王妃陛下から離れると愛想笑いすら浮かべず、わたくしの存在を無視していましたもの。

 月に一度のお茶会だって保護者のいなくなった現在では表向きの笑顔を浮かべることもなく、ただ顔を合わせてお茶を飲むだけか、面白くもない小言を言われるか、最近ではマルゴット様へ対する態度を諫めて機嫌が悪くなったエディット殿下が早々に席を立つほどです。

 そんなエディット殿下の態度は、たとえわたくしの両親や国王陛下・王妃陛下がいらっしゃらなくても、傍に従っている侍従や侍女、メイドたちからしっかりと報告がされているのですが、理解しているのでしょうか?

 わたくしの家は現状王家と縁を結ぶ必要がないため、わたくしの事が気に入らないのであれば婚約を白紙に戻してほしいと何度も訴えているのですが、この政略婚約は王家から請われたものですのでなかなか白紙にしてはくださいません。

 王家の目的としては他国の血とわたくしの魔力を取り込みたいのでしょうが、このままでは結婚したところで夫婦生活がまともに送れるかどうかわかったものではありませんね。


「男子生徒の話ではマルゴット様のご体調は静養するほどではないけれども、いまだにお体が弱いのだから守って差し上げるのは紳士として当然だとか」

「婚約者を放って他の女性に入れあげることのどこが紳士なのでしょう」


 憤慨する友人を宥めて、マルゴット様が編入してきた当初を思い出します。

 わたくしと同じ侯爵家の令嬢でありながらも病弱だったため、王都の魔法学院に通うことなく、ずっと領地で静養なさっていたそうですがこの度体調がよくなったという事で遅れて編入なさって来たのです。

 この話をエディット殿下から聞いた時、授業に遅れがあっては本人も苦労するだろうから、来年度を待って1学年から入学すればよいのでは? と申しましたが、同い年の友人を作ることを妨害する気かと冷たく怒られてしまいました。

 まったく、この魔法学院はそもそも大体・・10歳から20歳の子女が通うところであって、同学年とはいえ同い年が必ず集まるというわけではございませんのに、何を言っているのかと呆れてしまいました。

 かくいうわたくしもエディット殿下のご入学に合わせての入学でした。

 本来ならもっと早くに入学して卒業していてもよかったのですが、婚約者のわたくしがエディット殿下よりも先に卒業するのは世間体が悪いという事でこのような事になっているのです。


「皆さん、あまり感情に流されて婚約者やマルゴット様を責め立てると、逆にこちらが悪役になってしまいますわ。どうぞ落ち着いて現在の状況を両親や相手側の家に報告・・する程度にしておいたほうがよろしいですわ」

「けれどオフィーリア様、今のままでは魔法学院の風紀が乱れてしまいます」

「そうですわね。このことは魔法学院でも重く受け止めているようです。マルゴット様に侍っている男子生徒の家にも、マルゴット様の家にも魔法学院から忠告・・がいっていると聞いています」


 わたくしの言葉に皆さんは「それなら……」と渋々という様子ですが、視線をマルゴット様たちから逸らしてわたくしを見つめます。


「それにしても、年下・・のオフィーリア様に諭されてしまうなんて、年上としては少々恥ずかしいですね」

「ふふ、こういうことに年下も年上もないのではないでしょうか?」


 わたくしオフィーリア=クリムゾン=アルフィーネは、今年15歳になる3-Aの生徒でございます。

 本来ならエディット殿下と婚約をした年の7歳には魔法学院に入学しているはずだったのですが、婚約のせいでこの年齢まで卒業にかかってしまいました。

 とはいえ、魔法学院は魔法の研究機関も備えているため、出入りは7歳からしていましたし、卒業後も何かと出入りするのではないでしょうか?

 なんといってもわたくし、魔法師団第二師団の師団長ですもの。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る