大文字伝子の休日25

クライングフリーマン

大文字伝子の休日25

 ============== 主な登場人物 ================

 大文字伝子・・・主人公。翻訳家。DDリーダー。EITOではアンバサダーまたは行動隊長と呼ばれている。。

 大文字学・・・伝子の、大学翻訳部の3年後輩。伝子の婿養子。小説家。EITOのアナザー・インテリジェンスと呼ばれている。

 斉藤理事官・・・EITO創設者で、司令官。

 草薙あきら・・・EITOの警察官チーム。特別事務官。ホワイトハッカーの異名を持つ。

 一ノ瀬(橘)なぎさ一等陸佐・・・ある事件をきっかけにEITOに参加。伝子を「おねえさま」と呼んでいる。

 愛宕寛治・・・伝子の中学の書道部の後輩。丸髷警察署の生活安全課刑事。妻は、みちる。丸髷署の警部補。

 高峰くるみ・・・伝子の中学の書道部の後輩である愛宕寛治の妻、愛宕みちるの姉。

 物部一朗太・・・伝子の大学翻訳部同輩。当時、副部長。

 物部(逢坂)栞・・・一朗太の妻。伝子と同輩。

 依田俊介・・・伝子の翻訳部後輩。元は宅配便配達員だったが、今はホテル支配人になっている。

 依田(小田)慶子・・・依田の妻。ホテルコンシェルジュ。

 南原龍之介・・・伝子の高校のコーラス部の後輩。

 南原蘭・・・南原龍之介の妹。

 南原文子・・・南原龍之介の妻。

 服部コウ・・・伝子の高校のコーラス部後輩である服部源一郎の妻。

 大文字綾子・・・伝子の母。高遠を「婿殿」と言う。

 松宮警部・・・新潟県県警警部。

 = EITOとは、Emergency Information Against Terrorism Organizationを指す =


 午前10時。EITOベースゼロ。

 「我々は微力ではあっても、無力ではない。ふうむ。名言だ。」草薙が唸った。

 「大丈夫か?お前。大文字家、呼び出してくれ。」理事官は言った。

 「了解しました。」草薙は、慣れた手つきで大文字家のPCをリモート起動した。

 「はい。」画面に出たのは、高遠だった。

 「昨日、賊が入ったそうだが、何時頃だね?」「伝子さんの話を合わせると、連中がエマージェンシーガールズに負けて逮捕連行される頃です。最初は、宅配便を装って来たので、緊急防御装置を起動、藤井さんに連絡、自動録画装置を起動しました。駐車場の自動防犯カメラもです。藤井さんは、留守なので荷物を預かってくれと言われたそうですが、犬猿の仲だから断ると言って追い返したそうです。それと、待機して貰っていた天童さんと副島大先輩が、駐車場で放火しようとしている男3人の内、2人取り押さえました。筒井さんが通報して、3人目は白バイ隊の工藤隊長が追跡したのですが、ガードレールに激突、重体です。」

 「何故、7つのケースで終らないと思ったのかね?」「殴ったらすぐに殴り返すタイプだと思ったんです。私たち夫婦は、最早敵に名前も顔も認知されています。このマンションも、以前の仮住まいも知られています。いざとなったら、ミサイルをぶち込むかも知れません。正に、地雷の上です。だから、万全を図る必要性を感じています。」

 「分かった。今回もご苦労様。あの煽り運転の犯人は、警視が睨んだ通り、テラーサンタとは無関係だった。以上だ。」

 ふうと息を吐いた理事官は、「草薙。午後から帰っていいぞ。たまにはな。勿論、何か事件が起これば撤回だ。」と言って出ていった。

 「珍しいな。草薙、半ドンって、何か用事があるのか?」と、渡が言った。

 「ああ。お袋の墓参り。たまには行ってやれと弟に言われた。」「そうか。ウチはもう二人とも他界したよ。」「そうか。」

 午前11時。伝子のマンション。

 「あなたー。お風呂掃除終ったわよー。」と、風呂場から伝子の声がした。

 「あなたー。お風呂掃除終ったわよー、か。以前の伝子と別人格ね。あ。ひょっとしたら、二重人格?」と言って、綾子が入って来た。

 「二重人格は、お義母さんでしょ。」高遠が言うと、綾子は膨れた。

 午後1時。高遠は、久しぶりのLinenリモート会議を開いた。

 「びっくりしたわよ、伝子。高遠君。」と、いきなり栞が話し始めた。

 「何が?」と伝子が尋ねると、「いつも一緒に動いた事無かったから知らなかったけど、自衛隊の人って、凄い。EITOの人だから凄いのかな?増田さん、シューターっていうのを投げて、犯人に近づいて、犯人の手を握って、銃を犯人側に向けたのよ。心臓に向けたって言うべきか。ねえ、慶子ちゃん。」

 「ええ。後で私たち聞いたんです、怖くなかったんですか?って。馬鹿な質問だとは思ったんだけど。」

 「でも、真面目に答えてくれたわ。安全装置っていうのが外れていなくて、ビビっている感じがしたから、やったんだって。2分くらいの出来事よ、犯人達はフリーズしていた。10分くらいしたら、警官隊が来て、増田さんは平然とシューターを回収していたわ。」と、慶子が言った。

 「まあ、当然だな。EITOだからか自衛隊だからかって言えば、両方かな。まあ、増田は。私が産休に入ったら、副隊長やることになっている強者ではある。もう、公然の秘密だから、今更だけど、私は妊娠した。もう妊娠出来ない、なぎさが可愛そうではあるが、産めるようなら産む。シューターには、しびれ薬が塗ってあるんだ、先端にね。ちょっと待って。」

 伝子はバトルスティックとシューターを取りに行って戻って来た。

 「これは、バトルスティック。シューターと同じ痺れ薬が塗ってある。屋外なら、靴の先端を突き破って地面に挿すことも出来る。屋内だとそれは出来ないから、足首に当てる。流血はしないが、擦り傷から痺れ薬が入る。EITOに、『危険な武器を使用している』と言ってくるバカがいるが、我々は自衛隊以上に武器を制限されている。屋外で乱闘になった場合は、実は後で回収班が出動している。ゴミになるから、というより、拾った人物に悪用されては困るからね。だから、増田はシューターを回収した。因みに、最新のシューターは微弱な電波が発生する。回収する際に役立つ。」

 「大町さんもそうだったわ。」蘭が言った。

 「私は先輩のお母さんと一緒に作戦に参加したけど、犯人にシューター投げてから、拳銃を握って捻って回収したの。そしたら、先輩のお母さんが、『映画みたい。かっこいい。』って言って、乙女の目をしていたわ。」

 「乙女は良かったな。」と、伝子はゲラゲラ笑った。

 「ウチも同じだったわ。久保田警部補が来るまでに、馬越さんは、『これはね、おもちゃじゃないの。渡しなさい。』って、犯人に言ったら、犯人は素直に渡したわ。ねえ、コウさん。」と、くるみは言った。

 「ええ。やっぱり映画のワンシーンみたいだった。」と、コウが感想を言った。

 「初めてと言えば、渡さんが珍しく参加してビビった、なんて言ってたな。」と伝子が言うと、隣にいる高遠が、「え?参加したの?」と驚いた。

 「うん。フレキシブルドローンは、渡さんの発案なんだ。フレキシブルドローンっていうのは、ドローン3機のコントロールを人間とAIで行うもので、試運転だった。上手く敵を攪乱出来たらしいけどね。ペッパーガンで、敵が身動き取れなくなった時に、警官隊がすぐに来てくれたから、後は任せた、と言っていた。」

 伝子に続けて、「展覧会も、展示品が破壊されなくて良かったね。予めフェイクを飾り直していたけど。」と、高遠は言った。

 「手回しと言えば、予め利根川さん経由で、テレビ局に知らせておいたから、混乱はあまり無かった。花束を渡された時は、こっちがびっくりだったが。」

 「そこでだ。大文字。いや、高遠。なんで、敵がここも攻めてくるって分かったんだ?」と、伝子の説明が大体終ったのを確認した物部が言った。

 「それがね、副部長。テラーサンタは、含み笑いをしたんですよ、僕に頑張れって言いながら。それで、もしもの時の体制を敷いたんです。天童さんと副島大先輩と藤井さんに頼んで。」と、高遠は言った。

 「なあんだ。それじゃあ、7つのケースじゃないじゃないか。5つの場合でもない。」

 依田の言葉を受けて、「そうなんだよ、ヨーダ。そこがミソだ。今度の幹は『正直者』じゃない。ヒントを与えておきながら、別の事件も起す。そういうタイプの人間だ。」と、言った。

 「卑怯だわ。」と文子が叫んだ。「その通り。でも、今高遠さんが言った通り、油断はならない。」と南原が言うと、珍しくLinen会議に参加した愛宕が言った。

 「先輩。高遠さん。敵は、金で素人を簡単に操っている。素人が絡めば、マスコミがつけいるような隙が出来る、そう考えているのかも知れませんね。」と、言った。

 「愛宕の言う通りだな。今までは、本国からの戦闘要員が不足気味だと私は思っていたが、日本人のバイトを雇った方が効率的だと敵は思ったのかも知れないな。」

 その時、EITO用のPCが起動した。

 「大文字君。警察と消防からEITOに緊急出動要請だ。上越新幹線が雪で立ち往生していることは知っていると思うが、除雪した後に爆発物が発見された。」

 「了解しました。」

 高遠は会議を、というか総括検討会を終え、台所に走った。

 伝子は着替えに走った。

 台所の緊急脱出ハッチを開けた高遠は言った。「夕食、間に合う時だけ連絡して。」

 着替えから戻った伝子は言った。「学。あなた。『お出かけのチュー』して。」

 午後3時半。上越新幹線長岡駅。

 オスプレイで、伝子はなぎさと到着した。

 新潟県警の松宮警部が自己紹介をした。「どうも。新潟県警の松宮です。助力をお願いしたいのは、除雪作業でなく、これです。」

そう言って、警部はエマージェンシーガールズ姿の伝子に、ポリ袋に入った、手紙のようなものを差し出した。

 《掘り出されるのは、いつかな?日本には、『四季』という強烈な弱点があるらしいね。前の二人は、相当な間抜けかお人好しだったようだ。》

 「挑戦状ですね。」と伝子が言うと、「爆発物には時限装置はありませんでした。何かゾッとしますな。」と警部は言った。

 本部と通信していた、なぎさが戻ってきて、伝子に耳打ちした。

 「おねえさま。テラーサンタは女らしい、と理事官が。」

 ―完―

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

大文字伝子の休日25 クライングフリーマン @dansan01

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ