第7話 神託と




魔力があると判定され、仕事が決まった同い年の子どもたちは週2~3で職場へ通うようになった。

もちろんエルザもそうで、彼女の場合は朝の短い時間だけ、毎日神殿へ行っているらしい。



しかい、俺は相変わらず一人で森へ通っている。

ギラメルでなくてもちょっかいを出したくなるような状況で、端的に言えば浮いていた。


まあ、俺としては自分だけで好き勝手できる状況が気に入っているから変えるつもりはないんだけれど。






そんな日々を過ごしていたある日。

いつものようにエルザと森へ行って、おなかいっぱい肉を食べて帰ってきた。


何でもない話をしながら広場の辺りを並んで歩いていたら、エルザが突然崩れ落ちるように膝をついた。


「大丈夫か?」


石か何かにつまづいたのだろうと適当に声をかけたら、エルザの頭が突然発光し始めた。


「え、ええっ?」


もちろんだけど、エルザはハゲてない。

というか、ハゲみたいな反射する光じゃなく、電球みたいにエルザの頭そのものが光を放っていた。


そう、後光のように。



「魔のモノを統べる神と、黒き森の王が、目覚めはじめている。より強大な力を蓄えた彼らは、ヒトの世の全てを支配するだろう。


災いの世が始まるのだ。


立ち上がれ、人の子らよ。

戦え、人の子らよ。


世界の全てが、闇に呑み込まれる前に」



それだけ言うと、役割が終わったとでも言うようにぱたりと倒れてしまった。


「エルザー!」


「ぅん……だいじょうぶ……」


よかった、意識はあるみたいだ。


すぐに動かすのも危ないかと思って寝かせたまま膝枕のように介抱してやる。


ただ、周りであの異様な光景を見ていた大人達は一刻も早く神殿へ連れて行きたいようで、無理やり起こそうとする。


「ゃだ……」


怖かったのか、俺にしがみついて離れないから、仕方なく俺が背負って神殿へと連れていった。




神殿へつくと、いつもなら絶対に使わせて貰えないほど高級なソファへ案内された。

誰かが先に知らせていたらしい。


エルザを降ろすと、俺は役立たずとして追い出されそうになったが、やっぱり彼女がしがみついたままだったから、居ても良いことになったらしい。

お前は子泣きじじいか、とつっこみたくなったが、絶対だれにも伝わらないから言わなかった。



神殿の巫覡に状況を説明し、エルザが落ち着くのを待って家へ帰るころにはもう夕暮れ時になっている。


結局小さな村の寂れた神殿ではどうすることも出来ず、王都の中央神殿へと連絡を出すことになった。


だが、この世界は前世のようにインターネットの発達した世界ではない。

たった一つの連絡を届けるだけでも、手紙をしたためてそれを人力で届けるという古典的な方法しかないのだ。



とりあえず今日のところはもう何も出来ない。

エルザもまあ大丈夫だろう、とのことで、エルザを迎えに来た彼女の兄と共に、ようやく家路につくことができたのだった。






「ぎゃあああああ!!!」


薄くオレンジ色が残るのみとなった空に、大きな悲鳴が響き渡った。


「何だ!?」


家はもうすぐそこ、と言うところまで帰って来ていたが、咄嗟に振り返った。


「ギャオーー!」


最初の悲鳴は間違いなく人間のものだったが、次に聞こえた謎の鳴き声は明らかに動物のもの。

それも、かなり大きなものに感じる。


「エルザ、逃げろ!」


「え、でも、ユウリは」


「いいから!」


こんなことなら防御魔法を作っておくんだった、と内心舌打ちしながらもとにかく安全な所へ避難してもらう。

今この状況で安全地帯なんてないけれど、とりあえず遠くへ。


悲鳴の方へ向かおうとすると、多くの人が逃げてきている。


「おい、死ぬぞ! 逃げろ!」


肉屋のおっちゃんはそう叫びながら逃げて行った。


「ギャオスギャオス」


しかし、逃げるよりも遥かに早く、敵は迫って来る。




夜の暗闇の中でも目立つ翠玉色だから、敵の姿がよく見えた。

プテラノドンに似た姿で、鳥のように飛べるもの。


ーーーードラゴンだ。




「やべぇぞ!」


そう叫んだ男が、一瞬で切り裂かれた。


「何も見えなかった」


呆気に取られている場合ではない。

とにかく攻撃しなくては。


衛士のルーゼスさんも戦えるはずだけれど、近くには見えない。




俺が、戦うしかない。

その覚悟を決めた。




素早くコントローラーを実体化させ、手始めにイカヅチを飛ばす。

しかし、距離があるせいで届かない。


「落雷っ!」


周りへのダメージなど気にしていられないから、遠慮なく雷を落とす。


しかし。




「ギャーオ」


「ノーダメージだと……っ」



むしろ、ドラゴンの気を引いてしまっただけのようだ。

気のせいか、ドラゴンの鳴き声はこちらをおちょくっているようにも聞こえる。


ドラゴンはノーダメでも、俺の魔力は空っぽだ。

何をするにしても、魔力を貯めなければ。


物陰に隠れて瞑想している間にも、ドラゴンは破壊の限りを尽くす。



「雷が効かないなら、次はハイドロポンプだっ!」



落雷に比べて効果は低そうだが、やってみなくては分からない。



「ギャーーオ」



「少しは、効いたか?」


しかし、ほぼ効果がないも同然。




シュバッ、シュバッ


「あぶねっ」


ドラゴンが撃った反撃はかまいたちのような風の刃で、奇跡的に俺には当たらなかったが、周りの家がガラガラと崩れ落ちた。



「雷も水も効かないなら、これでどうだ! ファイヤーボール!」



てんてんと跳ねる火の玉は、前の2つの攻撃に比べて明らかに頼りない。なのに。



「ギャーーーース、ギャーーーー!!」


「っ、効いてる!!」



悲鳴を上げた翠玉のドラゴンは、ここに来てようやく、俺を敵と見なしたらしい。


先程までの遊び半分な雰囲気は消えて、敵意のこもった眼差しでこちらを睨みつけてきている。





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