第6話 喧嘩




コマンド化が出来て、実際の動物相手の練習も出来て、美味しいものでおなかいっぱいになって。

とても幸せな一日を過ごせたな。


「じゃあ、帰るか」


普通のキャンプのバーベキューと違って、魔法で出した物の後片付けは一瞬だ。

ぱんぱん、と軽く砂を払って立ち上がると、エルザがこちらを見上げていた。


「ユウリ、ほんとに凄いね。魔力ゼロだって判定されたから、私がユウリのこと守ってあげなきゃ、って思ってたのに。

聖属性をもらっただけの私より、自分で努力してるユウリの方が何倍もすごいもん」


「そう、かな? エルザは自分が望んでもない勉強を頑張ってるんだから、充分すごいと思うよ?

俺は好きに生きているだけだから」


「ありがと。でも、ユウリはいいな。自分で好きに生きられるんだから」


貴重な聖属性使いとして、既に色々と言われているんだろう。


「俺とエルザじゃあ立場が違うんだから、当たり前だろう? それぞれ自分に出来ることを頑張ればいいんじゃないか?」


「そうだよね、そうだよね! ユウリ、ありがとう。とっても元気が出たよ。

また明日からも頑張れそう!」



沈み込みそうだったエルザに笑顔が戻って、俺までなんだか嬉しくなった。



「忘れる所だった。家への土産が要るから、作らないと」


俺は一日森を歩き回って採取をしていることになっているから、不審がられない程度のものを持って帰らないと。


幸い、今は秋の初めだ。

実りは多いから、木の実とキノコ、薬草を《緑の手》で作って収穫する。



「こんなことも出来るんだ!」


目を輝かせているエルザをもっと喜ばせたくて、赤い花を咲かせてみる。


「すっごい! キレイ!

摘んで持って帰りたいけど、すぐに萎れちゃうよね?」


「うーん、どうかな」


ドライフラワーみたいに加工出来るかもしれないけれど、今すぐには難しい。

どうやって作られているのかよく知らないから。


「明日まで、ここで咲いててくれるかな?」


「それは多分大丈夫だと思うよ」


「じゃあ、赤いお花、また明日も見に来ようっと」



他愛もない話をしながら並んで帰る道のりは、なんだかとても楽しかった。





そうして森へ通う日々を続け、確実に強くなって行った。

エルザと二人で毎日肉を食べられるようになったし、咄嗟の時の魔法の扱いにも慣れてきた。



そんなある日。


「おーい、ゼロユウリ! また今日も森へ行くのかあ?」


わざわざ遠くから叫ぶように言ってくるのはガキ大将のギラメルだ。

今日は腰ぎんちゃくも二人連れている。


「また無視かよ! ゼロユウリのクセに生意気だぞ!」


躊躇いもせずに拳を振り上げて、至って気軽に殴りかかってくる。

コイツは昔からそういう奴だから、近所の人からは若干嫌われながらも力の強さだけでガキ大将になっている。


昔の俺なら殴られていただろうが、わざわざ待ってやる必要もない。

索敵の延長のような感覚でふいっと避けると、ギラメルは顔を真っ赤にして怒り始めた。



「オイッ!! クソが!! ユウリのクセに!!」


何でもいいけど、ユウリのクセに、しか言えないのか? なんて心の中で茶化す余裕すらある俺とは違って、子分の前で空振りしたギラメルは大いにプライドが傷つけられたらしい。



「やっちまえ!!!!」



一人では勝てないと見るや数で押そうという作戦らしい。

考え方としては間違っていないが、最近野生動物相手に索敵を鍛えている俺には、『どこから攻撃が来るのか』が手に取るように分かる。


体術はそこまで優れていないが、子ども同士の喧嘩くらいなら余裕だ。



何か因縁を付けられても嫌なので一切こちらからは攻撃せず、ただひたすらに躱すだけ。

これはこれで良い訓練になるな、と思ったから長く続けて欲しかったのに、徐々に相手は疲れてきたようだ。


まあ当たり前か。

何の練習もせずにただ拳を振り回しているだけだから。



「おいコラー! 何やってるんだ!!」


ギラメルたちがへばって動けなくなる直前、衛士のルーゼスさんがやってきた。


「やべっ」


自分たちが怒られるようなことをしているという自覚はあるのか、ルーゼスさんに捕まる前に一目散に逃げて行った。


「ユウリ君、見つけるのが遅くなって悪かったね。怪我の手当てをしようか」


「いえ、全く怪我はしていないので大丈夫です」


「ええっ? 身体の大きな三人を相手にして、無傷なのかい?」


「はい。全部躱したので」


「それはすごい。ユウリ君には、魔法以外の才能があるのかもしれないな。

もし、体術について知りたければ俺の所へ来なさい」


「まあ、機会があればお願いします」


目をかけてくれるのは有難いが、俺の戦い方には秘密が多すぎる。

俺が強いということは、知っている人が少なければ少ない方が良いんだ。


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