第5話 コマンド化




 エルザもココも居なくなって一人になったけれど、まだまだ時間はあるから練習を続ける。


 ココは召喚に多めの魔力を使うだけで、実体化してしまえば使う魔力はかなり少ない。

 無視できる範囲だけれど、無駄遣いはしない方がいいと思うんだ。ボタン一つで呼べるんだしね。




 そして、気づいたことが一つ。


 ファイヤーボールはボタンが決まっているから、連打するだけで強くイメージしなくても打てた。

 一方でハイドロポンプは叫んでしっかり頭の中でイメージする必要がある。


 ココもファイヤーボールと同じで、ぽちっとするだけでOK。


 この差は何なのだろうかと少し考えてみたら、恐らくコマンド化した事で俺の中でこの技のポジショニングが固まったのが重要なんじゃないかな。




 とにかく、速く確実に技を撃つにはコマンド化が便利そうだ。


《ハイドロポンプ》

はしるイカヅチ》

《落雷》


 この3つの技をそれぞれコマンド登録してみた。

 俺が『この技はコレ』って決めただけなんだけどな。



 植物をぐんぐん生やすやつは《緑の手》と名付けただけでコマンド化はしなかった。

 範囲のイメージが大切だということと、戦闘中など超急いで使うことが少なそうだからだ。



 ただボタンを決めただけで、技を出す難易度は格段に下がった。

 連射も出来るようになったから調子に乗って撃ちまくっていたら、すぐに魔力切れになる。


 魔力切れと言っても俺の場合は単に魔法が出せなくなるだけだ。

 コントローラーを実体化するのにもほんの少しの魔力が必要だから、それすら維持出来なくなったら空になったな、と分かる。

 他の人の場合はもっと深刻で、意識を失って倒れたり、最悪は命に関わることもあるらしい。


 完全に空になる前に感覚的に分かるので、随時瞑想していれば特に問題はないな。






 この世界には魔物が居るらしいが、この辺りは至って平和で、魔物が出たことなど、噂でも聞いた事がない程。

 魔界大陸に近い方や、悪魔の密林などにはとてつもなく強い魔物が出るらしいが、この村に居る警備担当は、強めの動物を相手にする要員だ。



 つまり、この森は平和な上に美味しい肉が手に入る幸せな場所だってこと。


 前世の俺なら、野生動物を狩って捌いて自分で食べるなど想像も出来なかっただろうが、今の俺の人格は前世と今世がいい感じに違和感なく融合したもの。


 村に生きる子どもらしく、野生動物を狩ることに抵抗はない。

 前の俺は弱すぎて狩れたことがないけれど、今の俺は違う。


 的もなくただ空撃ちするのも楽しいけれど、せっかく魔法を使うなら戦果を上げたいじゃないか。




「うーん、居ないなぁ……」


 何か動物を狩ろうと探し始めたものの、見つからない。当たり前か、向こうも命懸けなんだから。


「こんな時こそ魔法だな。

 索敵系って言えば、何があるかな?」



 イメージで言えば、ゲームの画面端に表示されるレーダーが一番馴染み深いだろうか。

 ただ、ここには画面端なんてものは当然ないし、出現する位置を明確に想像することが必要だ。


「さて、どこに出すのが一番便利かな」


 少し迷ったが、一旦手の甲に出してみることにした。

 要らない時は視界に入らないし、まあ便利かな。


「コントローラーに出してみても良さそうだな」


 ココのボタンのちょうど真上辺りに小さい画面が表示されるイメージだ。

 しっかり見たい時には手の甲より便利そうだから、状況によって使い分けようと思う。



 敵性モブは赤ドット、一般モブは青ドットで表される上、小さすぎるものは表示されない。

 例えば蚊とかが大量に表示されても困るからね。


 その辺は俺の想像力次第でどうとでもなるから、それなりに大きな動物MOBに絞って見てみると、意外と沢山居る。

 さっきまで見つけられていなかったのは、単に俺の実力不足だったらしい。


 一番手近な所に居るのは野うさぎのようで、そうっと近づいたらその姿が見えた。

 ぽちっとイカヅチを放ち、一瞬で捕らえることに成功した。



「よしよし、良いぞ!」



 この村では肉はあまり食べられない。

 食べたければこうして自分で獲りに来るか、固くてあまり美味しくない干し肉の塩漬けくらいしかないからだ。

 その干し肉も高いから、旅の途中とか、余程の事情がなければ食べられないし。


 そんな状況だから、このうさぎの肉は俺にとって超ご馳走なのだ。



「良かった、ユウリまだ居たんだね」


「エルザ、どうしたんだ?」


「神殿での勉強が終わったから、ユウリが何してるのか見に来たの」


「ちょうどうさぎを捌いた所だよ。一緒に食べようか」


「えっ!? うさぎを捕まえられたの? ご馳走じゃない! 私はいいから、ユウリが食べなよ」


「結構量があるし、エルザも一緒に食べようよ」


「いいのー?」


 遠慮していたけれど、視線は肉に釘付けだ。

 だけど、エルザは優しい子だから、俺が食べたいと言えば我慢してくれたと思う。この相手が兄たちだったら問答無用で奪われるだろうけれど。


 適当に切って火で炙るだけで、とっても美味しい焼肉が出来た。


「はい、どーぞ」


 エルザは気にしていないようだけれど、炎も串も皿も、全部俺の魔法で作ったものだ。

 こうして自分が使うようなものはイメージしやすいから作るのもカンタンだな。


「わ〜! ありがとう〜!」


 キラキラと目を輝かせるエルザと分け合えば、より一層美味しく感じられそうだった。


「もぐもぐ。おいしい〜! しあわせだね〜!」


「おいしいな」


 自分で狩った獲物を二人で分け合って食べるのはとても嬉しくて、美味しく満腹になっただけではない、充足感も得られたのだった。



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