第4話 召喚、火の鳥




 その日の夜。

 もう皆が寝静まったころに、一人でゴソゴソ起き出した。


 忘れるところだったが、魔力を貯めておこうと思ったのだ。


 この世界の魔法は気合いというか、イメージの力でどうにかなることも多いが、肝心の魔力がなければどうにもならない。

 設計図だけあっても素材がなければ何も生まれないのだ。


 だから、魔力だけは潤沢に貯めておく必要があるのだが、今の俺の体内魔力タンクは非常に小さい。

 昼間に練習した時にハイドロポンプを一回打っただけでほぼ全て消費してしまう程だった。


 これでは、何かが起こった時に、大技一つ使う度に瞑想という大きな隙を晒すことになってしまう。

 タンクを大きくする方法を知らないが、俺のイメージでは常にタンクをパンパンにしておけば徐々に大きくなるような気がする。


 想像力が大切なこの世界らしく、俺のイメージに従ってみようと思ったのだ。



 体内に魔力を貯めていると、何となく身体がぽかぽかして、それだけで良く眠れそうだった。





 翌日。

 俺はまた森に来ていた。

 昨日は誰にも言わずに来たが、今日はエルザを連れている。



「なぁ、エルザ。とっても大切な俺の秘密を、エルザにだけは教えようと思うんだが、絶対に秘密を守ってくれるか?」


「秘密……? もちろん守るよ。ユウリと私の約束でしょ?」


「ありがとう。じゃあ、着いてきて」




 森の中へ入って行って、昨日と同じ少し開けた所へ出る。



「ユウリ、こんな所まで来て、どうするの?」


 心配そうなエルザを安心させるためにも、とっとと話を進める。



「俺、魔法を使えるようになったんだ」


「えっ、何で? 魔力が無いのに?」



 驚くエルザに、解説するより見せた方が早いだろうと思い、コントローラーを実体化させる。

 ボタンを連打するだけで、例のファイヤーボールがとんとんと辺りを跳ね回った。



「えーー! すごい、すごい、すごいよ!!

 こんなに沢山の炎を操れるなんて!

 村一番のルーゼスさんだって、こんなこと出来ないもん!」


 ルーゼスはこの村の警備を担当しているおじさんで、唯一、戦闘できるくらいに魔法が使える人だ。



「ちなみに、こういうことも出来るよ。ハイドロポンプ!」


 ビシャあ、と消防のホースくらいの水で燃え移りそうな木々を濡らす。


「ホントにホントにすごいじゃない!!

 二属性使いって、国全部に何人かしか居ないって言ってたのに!!」



 それは、『自分の属性はコレ』と思い込んでいるだけな気もするけど、みんなに教える気は無い。

 俺のアドバンテージにするつもりだから。


 でも、目をキラキラさせて純粋に尊敬の念を向けてくれるエルザには、いつか教えてあげようと思った。



「他には、何が出来るかなぁ」


 俺の想像力一つで何でも出来るが、俺が思いつけないことは出来ない。

 こういう男の子が大好きな攻撃技ばかりじゃなく、女の子が喜びそうなこと……。


「召喚、火の鳥」


 魔力を鳥のカタチにして、それに炎を纏わせる。

 メラメラと燃える炎は熱くなくて、でも俺に害意のある人だけは火傷をするように。

 そして、エルザが気に入るように、それなりにかわいい見た目で。


 そんな設定を持たせたら、イメージが固まってきて実体化させることが出来た。


「かっわいい〜!」


 前世と違ってデフォルメされたゆるキャラなんて居ない世界だから、この程度のものでも歓声をあげてくれる。


「触ってもいいよ」


「えっ、熱くないの?」


「うん、大丈夫」


 それを示すために、俺が先に火の鳥を撫でる。

 柔らかく滑らかで、非常に良い手触りだ。


「うっわあ、すごいよ!! 私、炎を触ってる!

 とっても気持ちいいねぇ……」


 うっとりとするエルザは結構かわいい。なんてな。


「この子、何て名前なの?」


「特にないけれど」


「えー、可哀想じゃない?」


「じゃあ、エルザが名前つけてあげてよ」


「うーん、何がいいかなぁ」


 火の鳥を見つめて真剣に考える姿は、まるでぬいぐるみの名前を考える子どものよう。


「決めた、ココちゃんがいいと思う!」


 不思議なことに、名前が決まっただけで俺の中のイメージが一気に固まった。


「コー、ココッ!」


 鳴き声の設定は無かったのに、急に鳴き始めたし。


「えっ、ココちゃん、こんな鳴き声だったの?」


「エルザがココって名付けてくれたから、俺のイメージが固まったんだと思う」


「そうなんだ〜! かわいいねぇ」


 エルザは、しばらくの間、子猫を可愛がるかのようによしよしと撫で回していたが。


「あのね、ユウリ。私、聖属性の勉強をしに、神殿へ行かなきゃいけないの」


 魔力検定が終わった子どもは徐々に仕事に触れていく。少しづつ職場へ行って勉強して、一人前を目指すのだ。


 特にエルザは使い手が少なく貴重な聖属性使いだから、教育も早い時期から行われるのだろう。


「頑張ってね。行ってらっしゃい」


「ユウリも頑張ってね〜」


 ぶんぶんと手を振るエルザを見送って、俺は練習に戻る。



「ココはどうしようかな……?」


 せっかくエルザが名付けてくれたし、非常に気に入っているようだった。

『俺に悪意のある人』を見分ける設定もあるし、それなりに活躍するだろうから、すぐに召喚出来るようにしておきたい。


 そう考えただけで、勝手にココがコントローラーに吸い込まれた。


 そして、黒一色だったコントローラーのド真ん中に赤く大きなボタンが生まれた。


 普通ならスタートとかホームとか、そういうボタンがありそうな所。

 俺の最初の相棒にぴったりな配置だと思えた。

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