第3話 家族とのこと




 沢山生えたキノコを怪しまれない程度の量採って、とことこ来た道を帰る。

 その間、ぼんやりするのも何なので色々と考えごとをしていた。


 自分のこと、これからのこと。

 考えるべきことは沢山ある。



 まず、一番大切なのは、しばらくの間はこの能力がバレないように暮らすことだろう。

 俺が『魔力ゼロ』だということは多くの人に聞こえる所で言われてしまった。


 エルザやギラメルだけでなく、村中の人が知っているだろう。

 俺個人としてはプライバシーを守ってくれよ、と思うが、この世界には個人情報なんて概念はない。


 無能なはずの俺が飛び抜けた能力を持っていると分かってしまうと、悪用される可能性がある。

 だから、状況を正しく理解できるまでは、隠しておいた方が無難だろう。




 ただ、エルザにだけは教えてもいいかもしれない。

 彼女は聖属性という、神の力を与えられるだけあってとても正直な人間だ。

 しかも、約束はどれだけ軽いものでも必ず守る。

 幼なじみとしての信頼があるし、家族よりも信用できる相手だ。


 何かが起こった時に、相談出来る人が全く居ないのはとても辛いということを、俺は前世でも知っている。

 俺が本当に13歳の子どもなら、秘密を完全に守ろうとするか、もしくは使える能力を大威張りで自慢しただろう。


 だが、俺の精神年齢は前世+今世で、30を軽く越えているので、信頼出来る人物にだけ教えるという方針を固めた。




「ただいまー」


「あらあんた、どこ行ってたのよ!?」


 いつものように家に帰ったのに、お怒りモードの母に迎えられてしまった。


「いや」


 面倒になって逃げ出そうとするが、逃がしてくれるような母ではない。

 後ろには二人の兄も居て、こちらを睨みつけてくる。


「聞いたわよ、魔力ゼロって判定されたんですってね。幾ら隠そうとしたって、もう村中の人が知ってるんだからね!?」


 半ば押されるように居間へ連れて行かれ、父も含めた家族会議が始まった。


「ユウリ、座りなさい」


 母より表情に出ていないが、静かに怒っている父。

 父は水に適正があって、チョロチョロと水を流すことができる。

 水車のようなものを回すことで石臼を回す、粉屋という仕事をしていた。

 それは次兄も同じで、跡を継ぐと言われている。


 長兄は火に適正があり、既に着いている炎を大きくしたり小さくしたりすることが出来る。

 鍛冶屋の炉担当として働いていた。


 つまり、俺からしたら3人の能力はカス同然で、わざわざ魔力を使ってやるほどか? とすら思えるものだが、この世界ではそれが当たり前だ。

 魔法を使って攻撃出来るほどの威力やスピードを持っている人なんてほんのわずか。


「お前は、これからどうするつもりだ」


 父がイカつい顔で睨むようにこちらを見ている。

 俺が何かを言う前に、口を開いたのは長兄のゼストだった。


「俺は面倒見れないぞ」


「俺もだ。俺らには俺らの人生がある」


 次兄のビスナもそれに続く。

 俺が魔力ゼロだから仕事に就けず、一生お荷物になると思って言っているのだ。

 まあ俺が逆の立場でもそう言うかもしれないが、家族としてはあまりにも情が無さすぎないか?

 もう少し、ためがあってもいいと思うんだが、開口一番これだからなぁ。


「それは、分かっている。俺はユウリに聞いているんだ」


「……しばらくは、魔力以外のものを使って何か出来ないかを考えるつもり。

 とりあえず今日は、キノコを採ってきた」


 こうなることを見越して、食べ物を自分で調達できると見せるために採ってきたのだ。

 この量を普通に確保しようと思ったら一日歩き回ってようやく手に入るかどうか、という所だし、手柄としては十分だろう。

 これ以上では怪しまれる。


「ふうん。自分の食い扶持くらいは自分で稼げよ」


「まあ、それだけ働く気があるならいいんじゃないか」


 父も黙って頷いているし、兄二人は納得したようだった。


 これで、しばらくの間の生活基盤はゲットできた。

 家族に頭を下げて置いてもらうようだが、まだ俺は子どもで周りの状況が分かっていない。

 いつか自立するためにも、今は我慢しておくべきだろう。


「まあ、ユウリに頑張るつもりがあるならいいわ。世の中には魔力がない人も他にいるんだし、何か仕事をさせてもらえないか、考えたっていいんだから」


 家族会議が一段落して、母も会話に入ってきた。


「でも、お隣のメリッサさんが羨ましいわ。エルザちゃんは、珍しい聖属性を持っているんですって」


「ハンナ、言うな。せっかくユウリがやる気になっているんだから」


 お喋りな母を諌める父。


「ユウリ、ごめんなさい。そうよね、ユウリにはどうしようもないことだもの。今日だって、落ち込んでるのにこうしてキノコを採って来てくれたんだから。

 じゃあ、今日はこのキノコを使ってお鍋にしましょうね」



 そう、俺の家族は悪い人たちじゃないんだ。

 明るく真面目で、仕事熱心。

 俺が兄たちの足を引っ張りそうだから心配しているだけで、普段はそれなりに良い兄だし。



「おはなし、おわった?」


 扉の影からそうっと様子を伺っているのは、末の妹、ラミーナ。まだ5歳だから魔力うんぬんのことはよく分かっていないだろうが、何か深刻な話をしていることだけは感じたのだろう。



「終わったよ、おいで」



 仕事で家に居ない兄よりも俺によく懐いていて、ぽすりと抱きついてくる。


 やはり皆妹は可愛いから、彼女が来るだけで何となく空気が和んだ。

 俺の膝に乗っかって肩口に顔を埋めるから、彼女の柔らかな栗色の髪を撫でてあげる。


「うにゅ〜〜」


 ラミーナが謎の声を出すものだから、皆で笑った。

 色々と言われたけれど、やっぱり家族団欒は良いなと、そう思えたのだった。

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